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ピアノを買うだけで霧が晴れた

趣味はなんですかと聞かれたら、迷わずピアノ演奏と答える。


ピアノを弾き始めて26年。大好きでずっと弾き続けてきた。2年前まではレッスンに通っていて、趣味にしては真剣に続けてきたつもりだ。


小さい頃は伯母から譲り受けたもので演奏していたが、寿命を迎え、高校生のときに新しいピアノ(箱型のアップライト)を買ってもらった。大学は建築学科の地獄のような生活で日中ピアノが弾けない。そこで、今まで貯金してきたお年玉を高級な電子ピアノに注ぎ込んで、夜な夜なヘッドホンを付けて演奏した。


先生からは再三グランドピアノを買いなさいと言われていた。音の作り方、飛ばし方が違うからと。やっぱりグランドピアノで練習しないと出せない音がある。これはたぶん本当。先生も私のピアノへの情熱に打たれて、もっといい演奏の追求のためにグランドピアノを勧めていた。


でも。高いし。最低でも120万くらい。場所取るし。6畳の私の部屋はピアノしか置けなくなる。

一介のサラリーマン家庭の我が家。趣味のために120万も出してくれるはずなんてない。しかも地獄の建築学科に在学中の身。バイトする時間もなけりゃ、お金は模型、画材、書籍代へと消えていく。



グランドピアノなんて今はムリ。

いつか、いつか自分で買ってやろう。



そう思って10年が過ぎた。

10年の間に就職して、結婚して、子どもができて、いよいよピアノ弾くどころではなくなってきた。

ピアノを弾きたいけど弾く暇がない。弾く時間が少なくなれば指が動かない。弾きたい曲が弾けない。弾くのが嫌になる。なんというジレンマ。さらに、赤子を抱えている生活はその他でもストレス溜まりまくり。


今まで溜まったストレスはピアノを弾いて発散してきた。それがいまやストレスの種に!!!あああ!!ストレスのループ!!



グランドピアノが遠のいていく………



気持ちよくピアノを弾きたい。願いはただそれだけ。音を奏でることへの気持ちを燻らせてどうしようもなくなって、買ってしまった。





グランドピアノを。







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小さな小さなグランドピアノ。


ママ界隈では有名なトイピアノ。あの、辻井伸行さんが小さい頃弾いていたという。楽器メーカーが作っていて、ピッチの狂いがなく、正しい音感が身につくらしい。これで音感を鍛えたことが彼のキャリアにすごく影響しているとかなんとか……(もともとの才能が大きいと思う)

YouTubeやTwitterにはトイピアノの演奏動画も上がっている。大人たちが本気で演奏しているのを見て、これがあれば気持ちよく演奏したい欲望を少しは満たせるんじゃないかと思った。もし、満足できなくても息子のおもちゃとして一緒に遊べるだろうし。



鍵盤を叩くと可愛らしい鉄琴のような音が鳴った。両手で弾いてみる。32鍵しかないけれど充分両手で演奏できる。メロディとベースのみのシンプルな弾き方だけど、このピアノの音にはそれがぴったり。シンプルが故に練習しなくてもそれなりに弾けてしまう。弾けてる感出せちゃう。

最高に気持ちいい!心が晴れやかになっていく!

燻らせていた演奏への欲望は、この小さなグランドピアノによって見事に昇華された。


さらに気持ちいいだけではなく、学びにもなった。シンプルな音形を求めるために和音などを間引いて演奏するが、曲のニュアンスをそのままにするためには要となる音は残しておかないといけない。要となる音が本物のピアノで演奏する時も大切になってくる。今までは複雑な音形に埋もれて無意識だったその音を、シンプルに分解することで意識することができるようになったのだ。


小さなグランドピアノは私の生活に大きな豊かさをくれた。そして大きな学びも。

いつかは本物のグランドピアノを買う日が来るだろう。でもこの小さなグランドピアノはずっと相棒でいる気がする。

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