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連載版「十束神剣百鬼夜行千本塚」 #22

「え、あの高嶺家の御令嬢が牛馬の怪異に連れ去られた?」

過不足の無い説明が出来た。そして今から僕は、その怪異が根城としている地下二層に赴くつもりだと告げる。ついでに行商人には怪我をする前に地上に帰還した方がよいと諭したのだが、それについては失敗だったと言わざるを得なかった。

「だったら尚更アタシが、お役に立ちますよ!」

聞くところによれば、行商人は魔窟で拾った剣の他にも様々な消耗品を揃えているとのことである。その中には、あろうことか禁じられた「魔法」の力を封じ込めた杖や巻物までもが含まれているという。それを聞いた忍者の目の色が変わったのを僕は見た。その視線に気付いているのか、いないのか。行商人は凄まじい手際の鮮やかさで店を広げている。文字通りの意味で。

「……この品物を全て買えば、お前は店じまいして地上に戻るのですか」

「いいですか、お嬢さん。アタシが危険を冒して洞窟ごもりに勤しんでいるのは新しい商品を仕入れる為でもあるんですぜ。ましてや、そんな御大尽に巡り会えたのならば尚更ここで別れるつもりはありませんね」

「まさか私達に付き纏うつもりだと言うのですか」

「お互いの為になると思いませんかい。お腹が減ったら糧食を、怪我をしたら薬草を融通できますぜ」

なるほど行軍に商人を随行させるというのは悪くない。そう思ったのも一瞬のことだった。地獄に仏の言葉もあるが、僕の忍者は天国で親の敵にでも会ったのかとでも思うような眼差しを行商人に向けている。この二人は、僕には計り知れない何かで通じ合っているように思えてならなかった。

「この杖なんて如何です。アンタが苦労して手懐けた、まだ青い侍に一振りしてやれば……何が起こるか、実はアタシにも判らないんでさ。へへ」

夜空に流れる星々の如き輝きが杖から僕に飛び込んで来た。僕の身を案じる忍者の悲鳴が耳に突き刺さる。大事ない、と言うことは出来なかった。また口が塞がれている。(続く)


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