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連載版「十束神剣百鬼夜行千本塚」 #27

忍者を抱えながら急いで階段を駆け下りる。そして駆け下りながら自分の考えを語り出す。要点をまとめている時間は無い。だから要領を得ないことを語り出すかもしれない。

「若様の寝言にも譫言にも慣れているので大丈夫です。だから気にせず聞かせてください。若様の考えておられることを、全て私に」

奪われたものを取り戻す。そうでなくては支配者としての一分が立たぬ。奪われたものが姉上であろうと、一枚の皿であろうと僕が魔窟に挑んでいたことには変わりないだろう。それは嘘ではない。だが、それが全てというわけではない。つまり姉上にナメられたままではいられないということだ。

「……ナメ?」

姉上は兄上と結ばれるはずであった。それはつまり、姉上は僕を選ばなかったということだ。

「それは……年上の女房は金の草鞋を履いてでも、とは言いますけども、それにしても姉君と若様では些か歳が離れ過ぎでございましょ?」

腐っても僕は侍。婦女子にナメられたままでいられるか。確かに兄上は見目が良い。それは認める。目下の者にも分け隔てなく優しいし、それでいて腕も立つのに、いつも謙虚だった。それから良い匂いがする。

「……それだけ聞くと花婿候補としての兄君に、若様が太刀打ち出来る見込みが万に一つも無さそうなのですが……」

しかし僕には武勇がある。歳の近い侍との取っ組み合いで負けたことは無いし、売られた喧嘩は全て買っている。相手が泣いても殴るのを止めない無慈悲さだってある。大人の侍が仲裁に入る前に、相手のツノをへし折ることで二度と僕に喧嘩を売ろうだなんて考えさせないようにする知性もある。

「そうでしたね」

だから僕の長所を姉上にいっぱい見て欲しい。そして姉上の鼻を明かしたい。つまり僕を選ばなかったことを後悔させたいのだ。葦原に売り飛ばすのは僕の気が済んでからでいい。さすれば僕の心の病みは晴れ、三度の食事は美味しく、夜毎の眠りも心地よいものになるだろう。(続く)

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