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ぼくは(狂った)王さま #82

 それからアラカはクマの、おひいさまはキツネの毛皮が集まったところで暗くなる前にお城に戻ることになりました。おひいさまは、キツネの毛皮でアラカの制服を聖誕祭までには冬仕様にしてあげようと思っています。後に「十月の争乱」と呼ばれることになる城下町でのゾウを乗り回す異民族との戦いから一か月が過ぎようとしていました。一方、何かにつけてアラカがクマの毛皮を集めようとする理由は、おひいさまにはわかりません。故郷での寒さと、ひもじさの記憶がアラカを駆り立てるのだろうかと思うだけです。

「今日もダンジョンは繁盛……ではない、混雑しているようだな」

 お城への帰路を急ぐアラカたちの視界に、ダンジョンで生計を立てるぼうけんしゃと、彼らを相手に商売をする店が並ぶ大通りが入って来ました。

「ぼくがぼうけんしゃをやっていた頃からは考えられないぐらいに賑わっているようだ」

 それもそのはず、今はダンジョンに隠された「五つの宝」を一つでも持ち帰りし者には、未だ空位である国王の地位を、つまり自分の夫として王家に迎え入れるという告知をおひいさまが各地に出しているからです。かつて王さまが王子さまであった頃、ダンジョンにたてこもった僭王を打ち倒した者をこのえ兵に取り立てるという御触れとはワケが違います。それを思うと、何だかアラカは面白くない気分になるのでした。それは僭王を倒すよりも遥かに容易で、そして本当の立身出世への道だと思えたからです。

「……今日こそは城へ戻ったら、もしかしたら宝を持ち帰ったぼうけんしゃが私の帰りを待っているかもしれんな、アラカ?」

 おひいさまに言われて、アラカは後ろめたい気持ちになりました。五つの宝、即ち蓬莱の玉の枝、火鼠の皮衣、仏の御石の鉢、龍の首の珠、燕の子安貝の全てをアラカは自分の部屋に隠しているからです。このままではおひいさまは来るはずもない花婿をいつまでも待ち続けることになるでしょう。(続く)

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