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ぼくは(狂った)王さま #83

 二人で夕餉を済ませた後、おひいさまからの夜更かしの誘いも辞退してアラカは早々に就寝することにしました。森でクマさんと格闘した際のダメージが残っていたからです。早く寝ないと生傷が明日まで残ってしまうから、と言って自室に戻るアラカの背中を、おひいさまは見送ることになりました。

(姉さんッ! 好きだ!! ぼくとけっこんしてほしい!!!)

 アラカがおひいさまに対して後ろめたい気持ちがあるように、おひいさまにもアラカに対する後ろめたい気持ちがありました。
個人の事情に踏み込むのは良くないことだと知りつつも神器である「まほうのかがみ」に質問をした結果、アラカの生みの親は他ならぬユキエであったことを知ってしまったのです。
それでいてアラカの父は、やはりユキエの父でもあるのです。
最愛の妻と第二子(つまり、本当のアラカ)を同時に失った悲しみに狂って暴力を振るう父親から逃げる為、時機を見て命懸けで故郷を飛び出し、たどり着いた城下町で王子さまとの出会いを経て、このえ兵に取り立てられたのも束の間、彼女を追って同じように故郷を出奔したアラカは、あっという間にぼうけんしゃとして成長し、けしにくのつるぎを携え、まほうのかがみを手に入れ、むてきのまよけに守られた僭王をやっつけて、このえ兵に取り立てられてしまったのです。
そして十月の争乱では、王族の楽園まで攻め上がったアラカを突き放すべく「お前はアラカのニセモノ」とまで言い放ったというのに、当のアラカは「他人だから結婚できる!!」と言って再び立ち上がって迫って来たのですから、ユキエ兵長の恐怖と苦悩は想像を絶するものであったことでしょう。

(もうすぐ、あれから四十九日が経つ)

 アラカが「五つの宝」を自室にしまい込んでいることなど当然おひいさまにはお見通しでした。だからアラカがユキエに向けた、あの暗い情熱を、いつか自分にも向けてくれる日が来ればいいと思っているのです。(続く)

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