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ぼくは(狂った)王さま #35

「自由に動いていいなら私はアラカについていくぞ。山のぼりで凍傷を負ったアラカを治すのに『完治』を、暖炉に火を点けるのに『拝火』を、ダンジョンのからの脱出に『転進』を使ってしまった私でよければの話だが」

 いざとなれば、りゅうの姿に戻って、火を吹いて空を飛び回って暴れても構わないぞ、とまでは言いませんでした。人里に下りた以上は、人里になじむ努力をするべきだと考える分別が、りゅうの女王にもあったからです。

「私は、きょうかいが心配です……」

 プリスがうつむいて言いました。城下町のきょうかいは、多数決村でいうところの病院びょういん救貧院きゅうひんいんとしての機能を兼ねた施設だからです。救いを求める人々が身を寄せ合っているかもしれませんし、その人々を異国のゾウ使いどもが狙っているかもしれません。今日の「完治」を既に使ってしまっているとはいえ、まだまだ「大治」も「小治」も温存しているプリスと別行動をとるのは勇気のいる決断でしたが、今は互いにやるべきことがあるのですから、プリスはプリスの自由にさせてやるべきだとアラカは思いました。ところがプリスの考えは違いました。

「アラカ君は私ときょうかいに来てくれますよね?」

 アラカには大事な視点が欠けていました。今までは「協力してもらえる」「協力してもらえない」の二択で生きていたので、「自分が協力させられる」という事態のことは考えたことがなかったのです。

「え、いや、ぼくはこのえ兵だから、王さまの安全を守らないと」

 プリスはしくしく泣いてしまいました。これはウソ泣きではありません。ただ自由に涙を出し入れできるだけなのです。

「ああ、アラカ君が地獄に落ちても、公正な裁きを受けられますように……骨になっても、今まで私が優しくしてあげたことを都合よく忘れ去ったりしませんように……血の池に沈んでも自分の罪と向き合えますように……針地獄に落ちても……」(続く)

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