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人形狩り人形と魔窟の主(#21)

承前

「ええと、ご覧の通り五体満足で帰ってきました。先方とも話し合いをして来ました。もう二度と危ないことはしないそうです。だから管理人さん、安心してください」
「……そうなのですか?」

そう言うと、やっと管理人さんが僕の体をぺたぺた触るのを止めてくれた。───そう言えば僕らは『何故』、『何処で』、『何をするのか』を全く説明していなかったことを思い出す。ただ物騒な事態に首を突っ込んでしまったことだけは嫌というほど伝わってくれていたようだが。それでも管理人さんは僕らを信じてくれた。「騙されていても構わない」と言ってくれたのだ。僕は胸に熱いものがこみ上げて来るように感じた。しかし、何かが足りないことに思い至る。そして僕は、僕の隣に立つべき相棒をドアの外に待たせていることに思い至った。

「入ってきても大丈夫だ、……じゃなくて、大丈夫ですよ、先生!」
「ハハハ、二人の邪魔をする気は無かったのだがな」

小気味いい駆動音を鳴らしながら四本足の相棒が室内にエントリーする。この姿のオートマトンを前日に見たばかりの管理人さんも流石に一瞬びっくりしたようだが、すぐに冷静さを取り戻すと丁寧に挨拶を返したのは、肝が据わっていると言うべきか。

「スティーブン先生も、お帰りなさい。お怪我はありませんでしたか?」
「うむ、見ての通り私は無傷だ。だが助手のケンペレンが……」

傍目にも管理人さんの顔から血の気が引くのが見て取れた。頼むから、この人を困らせるようなことは言わないでくれ。

「ケンペレンが……あなたから頂いたコーヒーは美味しかったがキッシュパイは気に入らないと言っていた」
「まぁ」

気に入らないなんて言ってない。この世のものとは思えない程どうでもいい味がしたとは思ったけど。

「こやつの好物はシェパーズパイなのだ。端的に言えば肉とジャガイモのパイだ」
「分かりました。次はシェパーズパイ……?を用意してケンペレンさんに差し上げますね」

続く

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