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人形狩り人形と魔窟の主(#16)

承前

「数日も経てば、この魔窟は奴らに荒らされて何も残るまい。我らの収穫は、その二冊のファイルだけか」

淡々とオートマトンが呟く。責めるでも失望するようでもなく、ただ事実のみを語る。死神は追いかけて来ない。既に気配も感じられない。太陽光に動じない❝死の影❞も衆人環視の中で物騒なことをする気は無いということか。それは結構なことだと思う。思いたいが。

「さて、既に推進剤は使い切った。ここからどうやって帰ればいいのやら」

一難去ってまた一難か。推進剤が無ければ歩いて帰るしかないが❝四本足の物理学者❞を連れて市街地を練り歩くのは避けたい。こうして既に近隣住民と遺跡荒らしの視線に晒されているので手遅れかもしれないが。すると彼方からけたたましいクラクションの音色が鳴り響く。黒いワゴン車が近づいてくる。人だかりも何のその。野次馬根性の旺盛な善良なる近隣住民の皆様が、減速する気の無い車に怯えて各々の住処へと引き返す。

続く

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