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ハントマン・ヴァーサス・マンハント/第2章/第2節/「短生種は長命種の隣に立つ夢を見るか?」 #7
(承前)
「ああああ、ああ、あああ……」
どどめ色に輝く泥濘が声にならない声を発し続ける。いい加減に耳障りだ。さっさとトドメを刺して欲しい。それでも相棒が攻勢に転じないのは、最後の力を振り絞った反撃を警戒してのことだろう。
「……ああ」
俺の胸が不意に高鳴った。その声は、俺の本当のパートナーの声だった。訝しく思う間もなく、泥濘が自らを攪拌し始めた。そいつは見る間に人間の姿を、次に若い女性の
ハントマン・ヴァーサス・マンハント/第2章/第2節/「短生種は長命種の隣に立つ夢を見るか?」 #6
(承前)
わざとらしい咳払いが一つ。服の埃を払う仕草。深呼吸して、相棒は月を見据える。落雷と轟音。未だ姿を見せない敵からの奇襲かと思ったが、それは早計だった。相棒の左手には黒い稲妻が、弓の形の稲妻が迸っている。
「今から貴方を狙い撃ちします」
何処から引き寄せて来たものか。ワインの如く透き通る、煮えたぎる赤い赤い液体が右手に収束していくのが見て取れる。これを矢のようにして射出するということな
ハントマン・ヴァーサス・マンハント/第2章/第2節/「短生種は長命種の隣に立つ夢を見るか?」 #5
(承前)
よし、俺の血を吸っていいぞ。
「……はい、そうですね。そうですか?今、なんて言いました?」
俺の血を吸っていい。万全の状態で戦って、確実に勝って欲しい。
「あ?ああ……..。あ?ああ……。ああああ!?」
相棒の両目は縦横に激しく回転しながら虹色の明滅を繰り返している。どういう状態異常なのだろう。混乱するなら、せめて頭上に数羽のヒヨコを旋回させるような直感的な演出をして欲しいとは
ハントマン・ヴァーサス・マンハント/第2章/第2節/「短生種は長命種の隣に立つ夢を見るか?」 #3
(承前)
ドナの様子がおかしい。それにしても大事な話というのは何だろう。何だって?一緒にヴァチカンに来てくれないかって?報告書の作成に協力者の証言を必要とするからだろうか。……そうじゃない?こっちでの内定を蹴って教皇庁で就職しないかって?ちょっと待ってくれ。確かに君とは長い付き合いだし、俺だって、このまま君と別れるのは寂しいと思ってはいるさ。だからといってだな……。
「……それで朝からこんな感
ハントマン・ヴァーサス・マンハント/第2章/第2節/「短生種は長命種の隣に立つ夢を見るか?」 #2
(承前)
申し訳ない。今からウラクラド伯爵と戦わなくちゃいけないっていうのに緊張感が足りなかったな。うん。ドナの淹れてくれたコーヒーは美味い。……そんな思いつめた顔をしてどうした?そっちこそ少しはリラックスした方がいいんじゃないか?何だって?この戦いが終わったら大事な話がある?
「まだ寝ぼけているんですか?ていうかドナさんって誰です?ダンナの交友関係は全て洗っているので実在する人物でないことぐ
ハントマン・ヴァーサス・マンハント/第2章/第2節/「短生種は長命種の隣に立つ夢を見るか?」 #1
(承前)
……最後の決闘を前に、俺は今日までの道のりを回顧する。長い戦いだった。始まりは十六歳の誕生日のことだった。吸血鬼どもの❝共食い❞儀式に否応なしに巻き込まれた俺の『昼は学生、夜は狩人』の二重生活が幕を開けたのだった。而して今夜。遂に吸血鬼どもの首魁を、奴らに残された最後の領地である『大聖堂』まで追いつめたのであった……。
「……おーい、もしもーし。大丈夫ですかぁ?」
東方正教会から来
ハントマン・ヴァーサス・マンハント/第2章/第1節/「月の砂漠と呪いの血統」/終焉
(承前)
ドラゴン退治は結構だが、どうやってアレを倒すというのか。強さの問題ではない。粘液に塗れた巨大な怪物に徒手空拳による接近戦を仕掛けるというのは、どう考えても上策とは思えない。まだ何か俺に隠している秘密兵器があったりするのだろうか?
「❝ゲーム❞で買える武器は全て揃えて、いつでも使えるように持ち歩いています。まだダンナにお見せしていない武器は……ええと……トランプのカードとか、クロケット
ハントマン・ヴァーサス・マンハント/第2章/第1節/「月の砂漠と呪いの血統」/後編
(承前)
そして二匹の怪物が俺を凝視している。……思えば遠くへ来たものだ。妹に手を引かれて、月明かりを頼りに谷底めいた岩場を歩いた記憶がよみがえる。じっと我が手を見る。握って、開いて、あの晩の記憶を更に引き出そうとして、それは果たせず瞑目する。俺の心は既に決まっている。ただ、今の「どちらでもない状態」を一秒でも長く噛みしめていたかった。
「……兄さん、いつもの意地悪はやめて?早く私を安心させて
ハントマン・ヴァーサス・マンハント/第2章/第1節/「月の砂漠と呪いの血統」/中編
(承前)
妹に化けた怪物、あるいは怪物としての本性を現した妹が……便宜的に「妹」で統一するとして……俺の前に立ちはだかっている。まるで殺気は感じられない。俺の視線に気付いて、はにかんで小さく手を振っている。やはり俺の妹は可愛い。あれが偽物だなんて思えない。いや、偽物であってくれれば一番いいのか?しかし今の俺には考える時間があるはず。なのだが。
「はぁ、ニンゲンの道具に何やら仕込んで格上の私を出
ハントマン・ヴァーサス・マンハント/第2章/第1節/「月の砂漠と呪いの血統」/前編
(まるでデコボコで石だらけな今までの第1章は以下のリンクから)
砂漠、砂塵、砂嵐。世界には砂の海だけがあった。照り付ける日差しも、喉を焼く渇きも、大切にしていた筈の荷物も、自分の記憶も、何もかも全てを何処かへ置き去りにしたまま俺の体は砂漠に飲み込まれつつあった。苦痛は無かった。そこには自分に対する恐怖だけがある。死の直前に自分が何者であったか思い出してしまうことへの恐怖。それは生きることへの執着