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アフィリエイト広告の適正化へ向け議論する、消費者庁主催の検討会とは?

今年6月より消費者庁主催の「アフィリエイト広告等に関する検討会」が実施されています。アフィリエイト広告が引き起こす消費者トラブルへの対応策を検討することを目的とし、年内を目処に結論を得るようです。
本記事では検討会での議論内容とそのポイントについてお伝えします。アフィリエイト広告と聞いてネガティブワードを連想される方も少なくありません。一体何がそう思わせているのか? 根本原因を理解し、正しい危機感と認識をお持ちいただく一助となれば幸いです。

検討会実施の背景

右肩上がりでの市場拡大が予測されているアフィリエイト市場ですが、比例するようにインターネット広告による消費者トラブルも増加しています。

アフィリエイト広告等に関する検討会_画像作成

「インターネット」は広告だけでなくウェブサイトの表示なども含み、件数が多かったのは「自社ウェブサイト」785件、「販売サイト」734件、「バナー」697件、SNS等の「インフィード」576件、「動画」549件、「アフィリエイト」169件(複数が該当するケースあり)などであった。
※ 媒体別「インターネット」は広告だけでなく、広告主の自社サイトや通販サイトなどの表示も含む。
出典:「2020年度上半期の審査状況を発表」(日本広告審査機構)

JAROに寄せられる苦情の中でも、「厳重警告」「警告」と判断された12件のうち、11件にアフィリエイト広告が関係しているとも報告されています。放置すれば今後も更に増え続けていくであろう消費者被害。これを食い止めるべく、アフィリエイト広告の仕組みの見直し、規制ルールを検討していくという方針の元、検討会が立ち上がりました。

議論ポイントは「景品表示法の遵守」と「不当表示の未然防止」

「アフィリエイト広告等に関する検討会」概要
実施:消費者庁
主な検討事項:
(1)景品表示法の適用等に関する考え方
(2)不当表示の未然防止等のための取組
進め方:
計3回にわたって関係者からのヒアリングの実施、論点の整理等を行った上で、令和3年中を目途に一定の結論を得る
出典:「アフィリエイト広告等に関する検討会の開催について」(消費者庁)

主な検討事項(1)の景品表示法とは、「一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護すること(第1条)」を目的に定められ、その中で「不当な表示による顧客の誘引を防止するため、事業者が自己の供給する商品・サービスの取引について、不当な表示を行うこと(第5条第1項)」を禁止しています。広告や商品表示だけではなく、セールストークや実演なども対象です。

景品表示法を違反するアフィリエイト広告の事例として、次のようなケースが検討会で紹介されています。

「一晩でシミが消える」「2週間で10キロ痩せる」といった謳い文句で、体験談とともに紹介して商品を販売。しかし消費者が実際に使用しても効果がなく、調査したところ広告内容の根拠が不明確であり、体験談自体が嘘の広告記事だった。
「1回目90%OFF」「初回実質0円(送料のみ)」などの呼び込みで商品を販売するも、配送後に定期購入で半年は解約できない条件であることが発覚。広告上では定期購入という条件が記載されていない、もしくは極端に小さな文字にするなど、わかりにくく記載されていた。

いずれも商品・サービスの品質や価格について、実際よりも良くみせた表示を行い、消費者の誤認を招いてしまいました。消費者庁は景品表示法が禁止する「不当表示」に該当するとし、指導を各社に指導を行っています。

(補足)景品表示法やNG事例については消費者庁が公開しているこちら消費者向け資料がわかりやすいです。
「事例でわかる景品表示法(平成28年7月改訂)」

検討会では、景品表示法違反を起こさないための対策として「広告主やASP、広告代理店、アフィリエイターが法令を遵守しするにはどのような対応が必要か」、そして不当表示を起こさないための「未然に防ぐための対策」、それぞれを主な検討ポイントとして関係企業・団体にヒアリングを行っていくとしています。

不当表示の責任は誰にある?

もし、アフィリエイト広告を用いて不当表示が起きた際、その責任は誰にあるのでしょうか?

不当表示が起きた際の責任の所在
■ 商品供給者(広告主):責任者
■ 広告代理店・ASP:関与の度合いに応じて責任が生じる
■ アフィリエイター:規制対象外

現行法の解釈によると、責任者とされているのは「商品供給者(広告主)」です。広告に携わったことのある方は、広告主が責任を負うのは当然、広告に誤情報を掲載するなんてあり得ない、とお思いのことでしょう。消費者を騙す販促など言語道断。だというのに、アフィリエイト広告で検討委員会が立ち上がるほど不当表示が問題となってしまっているのはどうしてでしょうか?

不当表示が起きてしまうアフィリエイト広告の特性

というのも、アフィリエイト広告には不当表示を起こしてしまう特性があるためです。検討会では、特に見直しの重要性が高いものとして以下2つの特性が紹介されました。

特性① 広告管理の難しさ
まず、広告主ではないアフィリエイターが表示物を作成・掲載をするため、広告の管理が行き届きにくいという特性です
アフィリエイト広告は、アフィリエイターが運営するメディア上に掲載されます。広告となるコンテンツはメディアの持ち主であるアフィリエイターにより作成され、コンテンツ内で商品をどのような文言・文脈で紹介し、どのタイミングで公開するのかといった判断も、基本的にはアフィリエイターに委ねられることとなります。
コンテンツ(広告)の制作者=広告主 ではないことが、管理を難しくする要因となり、仮に不当表示があったとしても、事前に検閲して公開を回避するのが難しいのです。

広告管理の業務フローは、検討委員会が「理念モデル」を打ち出しています。

アフィリエイト広告の仕組み_理念モデル

出典:「【資料4】アフィリエイト広告をめぐる現状と論点(事務局資料)」(消費者庁)

特に画像の⑦~⑯の広告主による細かな確認作業は「アフィリエイターが景品表示法を違反するかもしれない」という性悪説を前提とした監視・牽制のフローと解釈できます。一部の広告主を除くとこのような管理体制は取られておらず、業界全体を見渡すと実行されていないため、不当表示が発生してしまうとも考えられます。

アフィリエイト広告を出稿すると、掲載メディア数が100を超えることも珍しくありません。露出量が増えた分だけ、必然的に確認に手間と時間がかかります。広告主が、その全てに対応できないといった事態も発生します。
この理念モデルを業界全体に実装するにあたり、「アフィリエイト広告出稿後に発生するコストを誰が持つのか」というポイントは重要な論点となります。

特性② アフィリエイターに不当表示へのインセンティブが働く
アフィリエイターがアフィリエイト広告(成果報酬型広告)を用いて報酬を得るには、広告主と事前に合意した成果を達成しなければなりません。この仕組みにより、成果達成・報酬獲得の為に、嘘や誇大表現といった不当表示を用いてでも商品を魅力的に見せ、消費者の購買活動を促そうとするインセンティブが一部のアフィリエイターに働く傾向にあります。
特に、サイトへの来訪者を集めるために自ら広告出稿を行うアフィリエイターが問題を起こしている、という見解が検討会で報告されています。これは、アフィリエイター自身のお財布から広告費を支払っているため、その回収リスクを解消すべく不当表示へのインセンティブとなってしまっているケースです。

検討会で導き出される結論は?

アフィリエイト広告の特性も踏まえた上で、検討会は「景品表示法の適用等に関する考え方」について以下のようなスタンスをとっています。

(略)広告主は、より管理のしやすい他の広告手法があるにもかかわらず、自らの意思であえてそのような手法を選択している以上、単に管理が困難であるという理由で虚偽・誇大な表示の責任を負わないと解することは、消費者に対する適正な表示を確保する観点から妥当ではない。

広告主はあえてアフィリエイト広告を使っているのだから、管理の大変さは言い訳にならない、ということでしょう。その上で、「広告主による不当表示の未然防止策」そして「悪質なASPやアフィリエイターを排除するための取り組み」について各団体・企業からヒアリングを行い、アフィリエイト広告の問題点について様々な見解・意見を集約した上で年内に何かしらの結論が発表される予定です。

おわりに

以上、「アフィリエイト広告等に関する検討会」の概要についての説明でした。本記事は、検討会発表資料を元に作成しています。ヒアリングが行われた企業・団体の説明資料も公開されていますので、詳細や関係者の課題感をもっと詳しく知りたい方は是非、目を通してみてください。


議論ポイントにもある「広告管理」について、具体的な安全管理の方法についてCARRACのマガジンにまとめていますのでこちらも参考なるかと思います(他にも、実務に役立つアフィリエイト関連記事をまとめてます)。

(イラストレーション:ニッパシヨシミツ