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[読書の記録]山内マリコ『アズミハルコは行方不明』(2014-05-01読了)

『アズミ・ハルコは行方不明』山内マリコ(2013)

山内マリコさんの最新作である(※この感想文は2014年に書かれています)。前作『ここは退屈むかえにきて』に引き続き地方に生きる若者の問題が題材になっている。
私は小説はほとんど読まないのだが、こういう現代的テーマを持つ作品には関心がある。

本作では、名古屋郊外に位置する寂しい町が舞台となる。
名古屋の国立大に進学したものの中退し出戻った男、元引きこもり、引退したキャバ嬢という3人組が、バンクシーの映画”Exit through the Giftshop”に影響されてグラフィティペインティングを始め、それがネットを媒介として注目され、一時的に盛り上がりを見せるものの・・・というようなおハナシ。

いやはや・・・・・・ピュアな心を持つ私にはグッサリくる作品でした。
この閉塞感と救いの無さはツライ。でもきっとこれが現実なんだろう。

とはいえ、読み物として重い感じはない。広い読者層にリーチしたいのだろうか。読みやすさを重視した文体で、半日もあれば読了できると思う。

登場人物たちは地方の実家で暮らし、夢も無く金も無く、若さとエネルギーをただただ持て余し、そうした状況を疑問に思いつつも打ち破る方法もなくじわりじわりとクサっていくことを余儀なくされる。

彼らが暮らすのはもちろん、田畑しかなくて仕事が無いというような場所ではない。
国道沿いにはマクドもTSUTAYAもジャスコもあって、生活に困るわけではない。ただ、文化的な洗練という点では都会(≒東京)からは程遠い。

ベタに北関東とかじゃなく(cf.サイタマノラッパー)、名古屋の郊外っていうのがまた容赦ないところ。
(※名古屋はこの本とかで村上春樹がバカにしているように、東京の人間にとってみれば「異世界」と認識されているらしい。私も訪れたことがないのだが。)

郊外問題については速水健朗さんや三浦展さんが00年代から論じていたけど、そこで俎上にあがっていたのは、どこにも行かない代わりに「ツレ」的な身内のネットワークを重視して独自の閉鎖的コミュニティを形成している、というような若者のあり方だった。博報堂の原田さんが火をつけたヤンキー文化評論ブームのターゲットもこんな感じだと理解している。

しかし本書の登場人物たちは違う。
彼らに友達やナカマと呼べる存在は多くない。同級生たちのいくばくかは就職や進学などで都会(この場合は名古屋)に出て行ってしまっている。ジモトに残っている同級生たちは、「イナカに残っている→サエない」という点で互いを同属嫌悪的に軽蔑の対象としており、積極的なコミュニケーションがとられることはない。

かろうじて残されている可能性として、サブカル的な要素(この場合グラフィティ)を媒介とすれば小規模にであっても親密圏が構成されうる、ということを言いたいのかな、と読んでいる途中で思ったが、やはりその脆さも同時に描かれていて。。ツライ泣

本当に何となくなんだけど、吉田大八監督がメガホンをとったら良い映画化できそうだ。。『腑抜けども~』にも近い世界観だし。
(※本作は2016年に松居大吾監督により映画化)

この日本には、既往の郊外カルチャー論には包摂されない、とても孤独な若者たちがいるんだろう。

どこにも行けないし、何者にもなれないなかで、「若さ」という可能性は日々目減りしていく、という絶望的状況に直面したとき、人は果たして何を頼るのか。。。

特に女性の場合、絶望的日常からくる鬱屈や不安を、男を頼って解決しようとしても、そんな包容力がある男はおらず、ただ遊ばれて終わるということの繰り返しになるケースが多いよね、というメッセージをこの作品は伝えている。

ミサンドリーの要素が多分にあると思った。

なんだかテンション下がっちゃいましたが、多くの人が終わり無き日常を生きることを余儀なくされているポストモダン状況も、とうぜんながら一枚岩じゃないのかもしれません。

もうひとつ。

この作品は”Exit through the giftshop”もだし、LINE、ツイッター、Facebookといった近年のハヤリモノがたくさん出てくるシェアワールド型リアリズムを使って書かれている。という意味でも今こそ読むべき作品。(※この感想文は2014年に書いています

将来は資料的価値が出そうです。

作中で重要なモチーフとなっているKaty Perryの”Teenage Dream”は、私も好きな歌なのだが、ともすれば、10代に戻りたい~いつまでも10代のままでいることにしたい~という大人になりたくない20代の現実逃避ソングともとれるわけか。なんかかなしなーT_T

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