残念ながらあなたは勇者の末裔なのです

今日もまた,3人の子どもたちを自宅保育している。

コビットナインティーンというなんだかおしゃれな湘南の風のような軽やかさを感じる名前を持つウィルスによる自宅待機は,さらに延長され,5月末までとなった。

困った

母は大いに困っている。

わたしは,子どもから大人まで心理や行動を分析するガチな研究者だ。しかし,研究者の人を不快にさせるまでの粘っこい観察眼と探求心と好奇心を寄せ集めても,コロナがもたらした世界に未だに適応できていない。

もう,めちゃくちゃだ。コロナにこんなにも生活の基盤を脅かされるなんて,くやしくてギリギリと歯噛みしたくなるくらいだ。

米粒1つを5等分した5分の1は1mm(ミリメートル),その1000分の1が1㎛(マイクロメートル)で大腸菌の大きさ,その1000分の1が㎚(ナノメートル)でウイルスのサイズはだいたい10~30㎚。コロナウィルスは30㎚という極小さなのに,世界中の人々を苦しめている。

また,このウィルスは通常のインフルエンザウィルスよりも脆弱で,持病を持つ人や高齢者以外の死者は少ないこともわかって来ている。

30㎚のミクロな世界からやってきた怪物にわたしたちは,いや,わたしだけでなく,わたしをとりまく家族,そして,学校,会社,そして国,世界のあらゆるしくみをあっけなく,変えてしまった。

コロナ野郎め! はじけ過ぎだ! 
と,マスク越しに唾を飛ばして薄汚くののしったところで,フィルター越しの言葉はくぐもって聞こえづらいし,コロナウィルスは微動だにしない。かえって,空気感染のリスクが高まる。

この行き場のない怒りはどうしたらよいのだろうか?

でも,じぃっと一連のパンデミックを研究者の粘っこい目でみていると,その怒りの矛先は,コロナ野郎ではなく,コロナに翻弄されているわたしたちヒトの悲しい習性に行きつく。

というのも,わたしたちが苦しんでいるのは,ヒトがヒトらしくしているヒトの本能ゆえの苦しみだからだ。

ヒトらしさの本能は,生きること,知ること,仲間と分かち合うことである。これらは,脳の発達からみてみると,まず,体を作る脳ができ,よく寝てよく食べよく動くことで,体ができあがり生きていくための基礎ができる。そして,言葉を使って思考したり,動いたりして好奇心を発揮し,仲間とコミュニケーションし分かち合うことを発達させていく。

しかし,これらのヒトの本能をコロナウィルスがやすやすと奪ってしまった。わたしたちの命への脅威(生きること),自分の体を動かし外の世界へ出て好奇心を満たすこと(知ること),そして,声帯を震わせ声を出して相手と密なおしゃべりをする,共感する(仲間になる),これらの機会がミクロなモンスターに疎外されているのだ。

本能と似た概念に欲求があり,マズローの欲求5段階論がよく知られているだろう。ヒトは,生理的欲求を基盤とし,その上に安全欲求があり,その上に社会的欲求,さらにその上に承認欲求があって,自己実現が成し遂げられ,最終的に自己超越に行きつくという。

 さらに,自己を越え,「人類わが愛」レベルまで行きつくことを人のアイデンティティ達成の最終段階とする,エリクソンの発達8段階説もある。人類わが愛レベルは,ガンジーやマザー・テレサのような聖人クラスなので,私のような凡人クラスは達成しようとすら思わないけれどヒトの最終段階だ。

 これらの本能は止められない。止められないから本能だ。だから,欲求をかなえようとキリキリしたり,原動力にしたりして,わたしたちヒトは成長し,自己実現へ向かう。そうして,わたしたちヒトは,繁栄してきた。

 ということは,今回のコロナパンデミックも,大きな視点でみれば,人類のさらなる発展のためのチャンスなのだろう。わたしたちは,本能を阻害されたままではいられず,なんとかして,生き延び,たくさんのことを知り,まわりと助け合い繋がろうとするだろう。


 現に,このコロナパンデミックであっても,インターネット回線を使ってでも,この講座を受けようと試み,知りたい,繋がりたいという試みが成功しているではないか! なんと,粘り強くたくましい本能だろうか!

 この先,コロナだけでなく,人にとって,生存の危機となり脅威である,疫病,争い,災害は,容赦なく襲ってくるだろう。でも,そのたびに,わたしたちヒトの祖先たちは,乗り越えてきたから,私たちの命は二重らせんという遺伝子のゆりかごのバトンリレーの勝者となっている。強くしたたかな遺伝子を持つから,今,ここにいる。

 だから,もし,このパンデミックにおびえて,不安になっているとしたら,安心してほしい。この世界に存在していることは,十分に強い存在証明なのだ。今はそのしたたかな生命力の強さを信頼しよう。

 残念ながら,あなたは最強なのだ。


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