もしもしデンタルクリニックですか?
臨床心理士として,最初に勤めた医療機関は精神科外来だった。といっても,ガチな入院型の精神科に勤める気概も根性もないので,外来以外の精神科経験はないのだけど。
英語で言うと「メンタルクリニック」
個人経営のクリニックだと,受付も電話応対も兼ねての心理士業務をまかされることもある。
私が初めて勤めた,いわばイニシャルケースのメンタルクリニックは,そうだった。
ケース(担当するカウンセリング)や心理検査が入っていない時は,受付に座っていた。
暇なときは暇なのだけど,忙しい時は忙しい。病院にも繁忙期がある。
特に,精神科が忙しいのは,新学期や新年度前,新年度から2か月後,夏休み,お盆明け,お正月明けだ。
お休みに入って,受診しやすくなるのと,外に出なくなるから,自分に嫌でも向かわざるを得ないから。
また,新しく始めたこと(新学期とか)の疲れが出て,地金が出るころだ。
そんな時だった。
いつものように,受付に座っていると,息を切らして,女子高生が駆け込んできた。
「あのう,ここメンタルクリニックですよね」
「はい,そうです」
「あのクラスメートが今,パニックになってて,みてもらえませんか」
「あの,未成年ですよね。未成年の方は,保護者の方の同意がないと受け付けられないんです。申し訳ないのですが,学校の先生に連絡して,相談してからお願いします」
冷たいけれど,そういうしかない。
全ての電話や申し込みをいちいちドクターに聞くのは,忙しいドクターがいい顔をしないので,その判断は,受付がするのだ。
この場合,学生のパニックに動揺してしまっては,判断がブレる。まず,未成年は,保護者ありきということは変わらないのだ。
がっかりして,帰っていくその子を見送るのは忍びないけれど,クリニックは完全予約制で,初診の方を緊急で見ることはないのだ。
また,ある時は,こんな電話がかかってきた。
「神経外科って,おたく,リウマチはみてくれないの」
「いえ,こちら,神経といっても,精神の脳神経でして,リウマチではありません」
こんな電話も繋いだら叱られてしまうので,がっちり断る。
また,ある時はこんな電話もあった。
「もしもし,おたく,デンタルクリニックですよね。予約できるの」
「いえ,こちら,メンタルクリニックです。歯科ではなく,精神科です」
おいおい,デンタルとメンタル,間違えすぎだろっ!
思わず,ツッコミたくなったが,お年を召した方だったし,そんなことを指摘してもしょうがない。
このように,精神科は誰でも受け入れているわけではない。やんわりとした,でも,明確な受け入れ基準があるのだ。
この受け入れ基準があるおかげで,かなり守られた世界が作られる。
精神科って,ビビられるけれど,実はかなり守られた世界なので,案外,居心地がいい。
行政の相談のように,基本,市民の皆さんであればオールオッケー体制ではないので,精神的にはとてもいい。
そんなことを行政の相談の線引きのなさ故に,圧倒されて疲れ果てた夜に思った。
論文や所見書き、心理面接にまみれているカシ丸の言葉の力で、読んだ人をほっとエンパワメントできたら嬉しく思います。