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ジョブ型雇用で変化することは?③

③では、「リストラ」と「キャリアチェンジ」がどう変わるかを考えてみたい。

※前回はこちら

対照表はこちら。

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④リストラについて

ジョブ型雇用になるにあたり、いや、ジョブ型雇用を加速させるにあたり「解雇規制を緩和しよう」等言われている。その理由は、ジョブ型雇用=専門性の高い人材を雇用⇒スキルが陳腐化(時代遅れのスキル)したらその人材は不要⇒だから、解雇しやすさとセットにしたほうがよい(解雇しやすさは、別企業での採用しやすさもセット)というものである。

筆者はこの意見には一定賛同をする部分はあるが(ジョブ型雇用だから解雇規制を緩和した方がよい、というよりも、解雇そのものが常に傍らにあることによる従業員側のメリット※他の会社でのチャレンジのしやすさが増すというメリット を日本はもっと享受した方がよい、というスタンス)、例のごとく外資系企業がそもそもどのような解雇スタンスを取っているかを見てみよう。

実は、「スキルの陳腐化」に伴った解雇はない。

早期退職希望制度(手上げでの早期退職を募る制度)はあっても、スキルの陳腐化に伴ったものは聞いたことがない。

※早期退職希望制度は「制度への応募を促す」面談があり実質的には解雇だったとしても、解雇規制の兼ね合いで解雇を強制的にするものではない。

ちなみに、釈迦に説法だが、早期退職希望制度は今や日系だろうが外資系だろうが既に頻発している。経営効率化の文脈で。

なぜスキルの陳腐化に伴っての解雇がないのか。筆者は大きな理由が二つあると考えている。①スキルが陳腐化する前に、優秀な人材は別のスキルを身につけ同じ企業の中で生き抜いている ②自発的に辞め別企業に転職する この2つが外資系企業は文化的に当たり前になっている感覚であり、「スキルが陳腐化したから解雇しよう」ということを取る必要がそもそもないのである。

さて、解雇規制が緩和されない前提で考えた際に、日系企業におけるジョブ型雇用に伴ったリストラは増すのか。筆者の考えでは、増さない。外資系日本法人と同じように、スキルを持って別企業に転職するということを個人側が考えるため、リストラをする必要が特に無いのである。

⑤キャリアチェンジについて

筆者としては、ジョブ型雇用とセットで論点として出てくるべき(おそらくは、既に整備されている部分もあろうかと思うが)ものがこの「キャリアチェンジ」である。要するに、今やっている仕事と別の仕事へのチャレンジをどうやってやるか、である。

これまでの日系企業の文脈では、ジョブローテーションや希望での異動制度を活用し、社内で別のキャリアを歩むということがあるのがビジネス慣習であった。例えば、新卒では営業としてキャリアをはじめ、次に営業企画に異動する、などである。

ジョブ型雇用=専門性人材の雇用、となると、これが社内では一気に成り立たなくなるのではないか、ということが懸念されている(というか、そろそろそのあたりの論点が世の中出てきて然るべきと個人的には思うが、意外とない)。何故ならば、「職務記述書(JD)に則った仕事をしてもらう」ことを前提にするということは、そのJDの仕事が出来る方つまり即戦力を求めるので、ジョブローテーションや異動希望制度は死滅し、外部からの人材調達に頼ることになるのではないか、ということだ。

では外資系企業はどうか。まずジョブローテーションという考え方は確かにあまりないのが率直なところである。あるとしたら、サクセッションプラン(特に経営人材の育成計画)を敷いているような企業のみであり、基本的には最初に配属された職種においてキャリアを築くことを求められているように感じる。

一方で、異動希望制度はどうか。実は外資系企業では多くの会社が導入している(大手企業ほど)。つまり、現在の専門性を捨てて別の職種に就く門戸を従業員に広げているのである。

一体それはなぜか。経営側の論理は実はシンプルで「別部署希望しているならば辞めてしまう可能性がある⇒優秀な人材に辞められるのは痛い」という、リテンションマネジメント(退職防止策)の一環である。

この裏側にある思想は「優秀な人であれば別職種に行っても活躍する可能性はある」という、ジョブ型雇用とは逆行する「メンバーシップ型雇用」の考え方なのである。実は外資系企業の中にも「メンバーシップ型雇用」のメリットを取り入れている企業は存在しているのだ。

尤も、更に合理的な会社になれば、「社内に出たある専門職のポジションを、社内の異動希望制度からの応募と同時に、転職マーケットからの応募も受付け、目標納期までにそのポジションを社内外いずれかの経路で埋める」ということをやっている会社も知っている。※なお、一概に未経験者が多い社内人材のほうが不利ということではない。社内人材は「その会社独特の物事の論理(=社風)を知っていること・社内人脈」という強力な武器があるため、外部人材よりも有利になることすらある。

また、転職マーケットのほうがキャリアチェンジを成し遂げやすいかと言われると、決してそうではない(釈迦に説法だが、見ず知らずの経験も実績もない人材にいきなり専門性の高い仕事を任せるか?と考えてみれば自ずと答えは出る。このテーマは次回詳細に執筆予定)。

と考えると、日系企業でジョブ型雇用制度が本格普及した際にでも、キャリアチェンジは社内のほうが容易に出来る可能性が高いかもしれない。

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