目標をめぐる3つの誤解~キャリア・カウンセリング/キャリア開発のための人事講座(26)

 9月ももう終わろうとしています(めるまがを出していた当時のお話…)。
 ついこの間まで、暑い暑いと思っていたのに、朝晩は肌寒ささえ感じるようになりました。
 季節の移ろいは早いものです。
 人の話題の移ろいも早いもので、つい先だってまで「成果主義の行き詰まり」(どちらかというと成果主義は失敗だったので元に戻そう)という論調が多かったのが、労政時報とフォーブズの最新号と相次いで「成果主義の見直し」(いや改善すべき点はあるけれどもやっぱり成果主義だろう!)が取り上げられています。
 成果に着眼するという方向性はもう変わらないでしょうね。

 ただ、「成果主義」という言葉はどうなんでしょうか?
 「○○主義」とは、○○にあたるものを中心として物事を発想するということを意味しています。
 民主主義(democracy)とは人民(demos)が権力(kratia)を所有し、これを行使することを中心とする立場を指します。
 会計用語でいう現金主義・発生主義とは費用の認識を「現金の動き」に重きをおくか「取引が発生した時」に重きを置くかの違いを指しています。
 成果に注目することは大切なのですが、それを「主義」とまで呼称することには抵抗を感じますけど‥‥。

 さて、本日はこの「成果主義」にも関係する「目標」についての3つの誤解を取り上げたいと思います。

★目標を巡る3つの誤解

 目標による管理について相談したいとおっしゃるので、ある企業に出向いたときの話です。

人事担当者:「目標はプロセスではなく結果をみるんですよね」
:「まぁ、そうかもしれませんね」(いきなりなんだ? 藪から棒に。プロセスか結果かどちらかを選べといわれれば結果だろうけど、でも一概には言えないんだけどなぁ)
人事担当者:「明確に評価しなければならないのですから数字でなければいけませんよね」
:「そうですねぇ、数字で評価できれば納得性は高いかもしれないですね」(この人、要注意だ! なんでそうやって単純化しようとするんだろう? なんか裏がありそうだなぁ。ストレートに言ってくれればいいのに)
人事担当者:「企業にとって必要なのは利益なんですから、数字といっても利益でなければいけませんよね」
:「ちょっと待ってください。何をおっしゃりたいのですか?」(なんだかその持って回った聞き方が気になる!!

★目標=結果?

 「目標はプロセスではなく結果だけみるんですよね」
 この質問には、いくらプロセスができていたって、結果に結びついていなければ意味がないじゃないか-という背景があります。

 この会社が「結果こそすべて」と考えるのであればまさにその通りということになります。
 しかし、「結果」が何を指すのか?
 結果を見るのは一年後なのかもっと先なのか?
 また本当に結果が良ければ他はどうであっても絶対によいと言い切るだけのコンセンサスが組織内にとれているのか-という疑問が残りますよね。
 コンセンサスがとれていないのに強行すれば、上手くいかないでしょうねぇ。

 その前に、プロセスを見るのはよくないかというとそうでもありません。
 よい結果はよいプロセスから導き出される-というのも真理です。
 プロセスはよく分からないんだけども結果だけはよいというのは、もしかすると「運」かもしれませんよね。
 それにコンピテンシーの発想も、よいプロセスがよい成果をもたらすという考え方を基本に持っていないと成り立たないのではないでしょうか?

★目標=数字?

 「明確に評価しなければならないのですから数字でなければいけませんよね」
 おおよそ「~でなければならない」という表現には誤謬がつきまといます(論理療法的にいうと<イラショナル・ビリーフ>ですね)。
 ましてや人事の世界ではなおさらです。
 正確には「ほとんどの場合そうである方が良く、ごくまれにそうでないこともあるけれど、そんなことを考えていても埒があかないし、夜も眠れないから、それはその時に考えることにしておいた方がいいと思いますよ」という意味になることがほとんどです。
 いちいちこの様にいうのは話がややこしくなるし、聞いている人の誤解を招くので端折って「~でなければならない」というのです。
 この質問もまさにその代表例です。
 成果は数字で表現されるに越したことはありません。
 その方が、誰が見ても明らかだからです。
 誰が見ても明らかであるのがなぜよいかというと、「評価しやすい」からではなく、「それを課題として抱えている人が、何を目的にやっているのか、どこを目指そうとしているのかが、周りの人から見てよく分かる」からではないでしょうか?
 評価のために数字を使おうというのであれば、それは本末転倒ということになります。

★目標=利益?

 「企業にとって必要なのは利益なんですから、数字といっても利益でなければいけませんよね」
 ここにも「~でなければならない」の誤謬があります。
 前半分が正論であるだけについそう思いそうです。
 しかし、後ろ半分は正しいとは言えません。
 利益が計上できない部門であっても「成果」は問わなければならないこともあります。
 それに利益は期間を限定しなければ算定できません。
 企業の本決算は1年単位なので当たり前のように1年単位で利益を考えますが、なかには3年だとか10年単位で考えなければならないものもあります(この場合、評価という観点からすると1年単位で見なければならなくなってしまうので工夫が必要になります)。
 また利益を計算するための収益と費用の帰属をどのようなルールで決めるのかということも問題となってきます(つまり管理会計の話です)。
 そういったことまでも考慮してでなければ「目標=利益」であるとは言い切れないのではないでしょうか?

★目標とは希求し、期待する具体的な事実

 「目標とは、文字通り目で見える標(しるべ)である」という方がいます。
 そうとも言えるでしょう。
 目に見えるといえば「数字」である方がより見やすいですし、結果である方が見やすいでしょう。

 しかし大切なのは、数字か非数字か、結果かプロセスかではなく、その得られたものが求めていたもの、期待していたものなのかどうかです。
 逆に、求めているもの、期待していたものが関係者間で(多くの場合は上司と部下で)共通理解となっていればそれで構わないのです。
 見えるか見えないかという言い方にこだわるならば、「見えるくらいに具体的に表現されているか」がポイントなのです。

 冒頭の人事担当者が気にしているのは、目標についてではなく「評価」の問題です。
 しかしいくら公平に評価したとしても、組織が業績を向上させ、個人が成長しなければ意味がありません。
 社員の評価点は良いのに会社の業績が今一つというのは典型的な失敗例です。
 きちんとやるべきこと、期待していることを示し、そこに全身全霊を傾けてこそ創造力が生まれます。
 この意味で「目標」が上手く機能していくためのカギは、求める事柄をいかに精錬し、絞り込み、わかりやすい形で示せるか、いわばプランニングの段階にあるのであって、考課点をどうやって付けるかという事後処理の問題ではないことを再認識すべきです。

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