見出し画像

はじめに

ローカルキャリアはキャリア足るか

 2017年にはじまった「CAREER FORプロジェクト」で、私たちはこの問いに向き合い続けてきました。

「CAREER FORプロジェクト」は、一般社団法人地域・人材共創機構を事務局とし、釜石市・七尾市・塩尻市・岐阜エリア・雲南市の5地域の行政・中間支援組織をメンバーとしてはじまりました。各地域では、それぞれの地域に適した形で、「個人のキャリア形成」と「地域における人づくり」の観点を主眼においた取組みを行っており、その試行錯誤の中で育まれた知恵と情報を共有し、発信しています。 
 その活動の1つが「ローカルキャリア」の探求です。
 「会社に入る」という単純なストーリーで語りがちなキャリアを、「地域と関わるあり方」をも念頭に置いて、「あり方」「生き様」として捉えていくことが、これからの個人のキャリア形成において重要だと考え、「ローカルキャリア」という概念を提唱しています。

都落ちをアップデートし、未来のキャリアを探求する

 2009年に地域おこし協力隊が総務省によって制度化され、2014年から「まち・ひと・しごと創生総合戦略」がはじまったことから、地方への注目の高まり、地方への人材の移動が起こってきています。近年では、パラレルワークやリモートワーク、ワーケーションなど、「多様な働き方」へのシフトにもあらわれています。
 その一方で、地域で「個人のキャリア形成」と「地域における人づくり」に関わるわたしたちがずっと直面していたのは、地方への移住は「都落ち」なのかという問いです。

 高度経済成長後、都市一極集中が進んでいた時代において、地方に移住することは、多くの人から「都落ち」、つまり「都にいられなくなって、地方へ逃げ出すこと」とも捉えられていました。
 しかし、自分自身も含め、わたしたちが普段接している人々の中には、「逃げ出す」といったネガティブな消去法による意思決定ではなく、むしろ「自分らしく在るための選択」としてポジティブな意思決定として地方に暮らすことを選択している方も多くいました。
 そしてその生き方、在りようには「未来のキャリア」の姿があるようにも感じ、「ローカルキャリア」が、この時代に生きる多くの人の選択肢になっていくことが、オーナーシップを持って、自らの人生を切り拓くのではないかと願うようになりました。

 そんな経験、願いから、地方移住=都落ちをアップデートし、未来に向けた新しいキャリアのあり方として、「ローカルキャリア」の探求を続け、2019年4月に「ローカルキャリア白書」、2020年3月に「ローカルキャリア白書2020」を上梓しました。 

「災害=自然現象×社会」

 2021年のローカルキャリア白書制作に向けて議論をしていく中、わたしたちの世界は大きく揺さぶられました。COVID-19は世界中に広がり、暮らしの風景は一変しました。

 感染拡大防止のために、人との接触や移動は控えるようになり、通勤・通学を含んだ移動が制限され、学校は一斉休校、企業の出社制限が行われました。それに伴い、今までなかなか進まなかった、学校でのICT活用や遠隔授業、企業でのテレワーク・リモートワークなどが一気に広がりました。
 その一方で、経済的な苦境に追い込まれたり、リアルな人との接触機会が極端に減ったことで孤独や孤立を感じる人も増え、2020年の自殺者数はリーマンショック以来11年ぶりに増加に転じました。

 一般社団法人地域・人材共創機構の監事でもあり、災害復興・まちづくりの専門家でもある稲垣文彦さんはこう言います。

 災害とは、地震や津波などの自然現象のことを指すわけではないんです。その自然現象によって、周りの人たちが困っている状況のことをいいます。数式に表すと、「災害=自然現象×社会」。だから災害は、社会の課題を顕在化させるといわれているんですね。

スクリーンショット 2021-05-29 18.17.52

 コロナ禍も、ウイルス自体は自然現象にすぎません。自然現象で社会の歪みや課題などが浮き彫りになり、「災害」となっているわけです。でも浮き彫りになったのは、悪いことだけではありません。良いところも見えてきている。それをどう伸ばすかの視点が、これから大事になってくるはずです。

 COVID-19がもたらした社会の揺さぶりから、私たちは何に気づくべきなのでしょうか。
 そして、探求を続けてきた「ローカルキャリア」はどう変わっていくのでしょうか。

 そんな混沌の真っ只中で制作した「ローカルキャリア白書2021」は、今までとは趣向を変え、各地の取り組みから生まれてきた問いや兆しを種に探求を行い、それぞれの観点で「ローカルキャリア」を捉え直すことに挑戦しました。

 本書が「ローカルキャリア」の現在地を再確認し、ここから「未来のキャリア」を考えていく一助となれば幸いです。

▶︎この白書の読み方

Ⅰ .ローカルキャリアの現在地ー各地域からの研究レポートー
このパートでは連携地域からのレポートを掲載しています。
各レポートにはキーワードが散りばめられていますので、タイトルをご覧いただき、ピンときたものから読んでいただくことをオススメします。

①人は、どんな体験をしたときに、自分の人生を生きていく覚悟ができるのだろうか
②新卒で地域中小企業経営者の右腕というキャリアについて
③今だからこそ考える越境学習_ラーニングワーケーション
④ローカルキャリアを促進する遠隔プロボノ&パラレルワーカーのススメ 前編
⑤ローカルキャリアを促進する遠隔プロボノ&パラレルワーカーのススメ 後編
⑥シン・関係人口論 ~震災10年・withコロナ時代における釜石流の新たな関係性の在り方を 考える~

II. ローカルキャリアオンラインラジオー中越防災安全推進機構 稲垣文彦×長野県塩尻市職員 山田崇対談ー
2020年4月から、第5週水曜日がある時限定で行ったローカルキャリア研究所オンラインラジオを記事にしました。混沌の1年のセーブポイントとして、その時々のトピックをベースに対談を行っています。
こちらは①から順番に読んでいただくこと、そして、その時に自分や自分の周りで起こっていたことを頭に浮かべながら読んでいただくのがオススメです。

①「災害=自然現象×社会」コロナ禍における災害復興とは
②感度を高め、知覚的に。地域づくりにおける免疫力とは
③オンラインもオフラインも関係ない。偶然の出会いの生み出し方
④社会の転換期に地方だからこそできること

Ⅲ. 考察
ローカルキャリアを「公共圏」という概念とともに捉え直し、今後の探求に向けた整理を行いました。これからも議論を重ねていきたいテーマですので、ご覧いただきご興味を持っていただいた方は、ぜひCAREER FORまでアクセスください。
また、CAREER FORとして初めての取組みである『ローカルキャリア準備室』についてもご案内しています。

①公共圏とローカルキャリアの諸相
②ローカルキャリア準備室「HELIX」

▶︎共創パートナー

 『ローカルキャリア白書2021』の作成にあたって、パーソルキャリア株式会社にスポンサードをいただきました。パーソルキャリア株式会社とCAREER FOR(及び一般社団法人地域・人材共創機構)は2020年よりキャリアオーナーシップリビングラボプロジェクトにて、キャリアオーナーシップの探究として、キャリアオーナーシップ概念の探究活動と共創型社会実験を行っています。そこから新たに始まる取り組みについても紹介をしています。ぜひHPをご覧ください。

▶︎白書の概要

【タイトル】ARTS OF LOCAL CAREER ローカルキャリア白書2021
【発行】一般社団法人 地域・人材共創機構
【協力】キャリアオーナーシップ リビングラボパーソルキャリア株式会社)
【CAREER FORメンバー/ローカルキャリア研究員】
岩手県釜石市:戸塚絵梨子
石川県七尾市:森山奈美
長野県塩尻市:山田崇
岐阜エリア:田中勲、木村愛
島根県雲南市:光野由里絵
【Special Thanks】
名古屋産業大学 准教授 今永典秀
谷内博史/酒井可奈子/高城つかさ
遠隔プロボノ&パラレルワーカーアンケートの回答者の皆さん
Future Research Institute 紫牟田伸子

ALL Right Reserved 一般社団法人 地域・人材共創機構



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?