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オンラインもオフラインも関係ない。偶然の出会いの生み出し方

2020年を通し、第5水曜日のある月だけ、朝7時からお送りしたローカルキャリア研究所オンラインラジオ。台本やテーマは一切なし。ゲストに稲垣文彦さんをお招きし、進行の山田崇さんとともに、その瞬間心に浮かんだことをざっくばらんに語り合いました。

第3回が開催された2020年9月30日は、菅内閣が発足した直後で、新しい政府の方針が注目を集めていた頃でした。社会的に自粛が求められる中、新たな出会いの生み出し方とは?対談の様子をお届けします。

演出された偶然の出会い

稲垣:今日はぜひ皆さんにお話ししたいことがありまして。先日、ある女性とお話していて。その方はすごく本が好きで、お店の図書コーナーや本屋さんにどんな本を置いたらいいか、どんな並べ方をしたらいいかアドバイスする仕事をしていたそうなんです。

そこでお話していたのが、「本屋って大事だよね」と。本屋に行くと自分の趣味や興味関心のある本を手に取るのが大半だけど、意図せず興味を惹かれる本もあるじゃないですか。それって、本屋に行くからこそ出会える本なんです。そういった出会いって、オンラインが発達したこの時代にはなくなってきているなと思っていて。ネットで購入するとおすすめ本は出てきますが、自分が興味関心を示した範囲でしかありません。興味はなかったけれども手に取ってみる、みたいな偶然の出会いって、本屋でなければ生み出せないですよね。

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山田:それでいうと僕、コロナ流行前から本屋にほとんどいかないんですよ。ネットでおすすめされる本も買わない。ただ、人にすすめられた本はすぐ買っちゃいますね。

稲垣:山田さんの中では、本屋で起きている偶然の出会いが、人との出会いの中で自然に起こっているわけですね。

個人的には、オンラインで人と話していても、想定内のことに落ち着いてしまう気がしていて。偶然の出会いは起こりづらいと感じているのですが、山田さんはどう思いますか?

山田:今ふと、僕の中で「旅」と「旅行」というワードが思い浮かびました。

「旅行」で、イメージしてほしいのが女子旅。スケジュールをがちがちに組んで、地球の歩き方を持ちながら観光地を巡っていく。

これって現地に行ったとき、確認作業になるんですよ。ここは想像通りおいしかった、この建物は思っていたよりも小さかった、とか。本に書いてあることって、誰かの経験の蓄積じゃないですか。要するに過去です。過去との接点を探っているだけで、今この瞬間を知覚できない旅路になります。

本来「旅」は、リュックに2泊3日の荷物だけ詰め込んで、何も決めずに行くものだと思うんです。人を訪ねて、景色を楽しみながら、次の工程をその都度選んでいくような。

私、コロナ流行前に、旅のプログラムをつくっていたんです。とりあえず山田崇に会いに行けばなんとかなる、みたいなコンセプトを掲げて。参加者には「事前に情報は調べずに、新宿8時発のあずさに乗ってください」とだけ伝える。駅に到着するのが10時半。それからバスを貸し切って、バスの中でチェックインしてもらうんです。

すると、こんな景色が目に付いたとか、友達からここに行ったほうがいいよと助言されたとか、言葉がどんどん溢れ出していく。それ次第で次にどうするかを決めていくんです。現地の情報を知らないでくると、五感がすごく研ぎ覚まされるわけですよ。そこでセレンディピティ、すなわち偶然の出会いが生まれる。

これをコロナ禍でどう実現するかは今悩んでいるところです。リアルの機会が戻っても、「旅」ができるプログラムを作りたいなと思いますね。

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稲垣:コロナ禍がなかったら、本屋での偶然の出会いとか、旅と旅行の違いとか、僕は気づけなかった気がします。この気づきを大切にしていきたいですね。

オンラインだからこそ出会えた人がいる

山田:オンラインでの出会いについて、一つ話をさせてください。塩尻市では東芝と提携して、IoTを取り入れたワイングラスでワインを飲んで、感想を話すと、その内容をビジュアル化するというプロダクトを作っています。このプロダクトを使って、塩尻市のワインをプロモーションしていこうと、5人のメンバーで考えていて。

これまでオンライン会議を重ねてきたのですが、昨日は少しメンバーを増やそうよとのことで、みんな1人ずつ友人を連れてきたんです。招待もかしこまった形ではなく、zoomのURLを送って、とりあえずワインを持ってきて、みたいなゆるい感じで。

それがものすごく楽しかった。広島でワイナリーを作ろうとしている人、大手の酒販メーカーに勤めている人、ワインが好きな女医さん、皆属性がバラバラで。予定時間大幅に過ぎるくらい盛り上がったんですよ。

何が言いたいかというと、もしこれがオフラインだったら絶対会わなかったなと。でもオンラインで、しかもクローズドな場だから出会うことができたんです。

稲垣:オンラインだからいい、オフラインはここがダメとかの話じゃないよね。偶然の出会いをどう演出できるかを掴めていたら、オンラインでもオフラインでも面白くできる気がしますね。

山田:そうですよね。今、NOSIGNERの太刀川英輔さんに進化思考の講演をいただいているんです。

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そこで先週、「もともと人間が欲している欲求は結構少ない」という話がありました。自動車自体はどんどん進化しているけれど、モノを運びたいという欲求は、エジプトでピラミッドを作るために石を運んだ頃から変わらない、と。
その本質的な欲求を満たす手段は、オンラインで増えてきていると思うんです。そのことにすごく可能性を感じています。

外と内、双方向のエンゲージメントを可視化

山田:オンラインとオフラインの融合も、可能性があります。

先日、塩尻市と鳥取市で「オンライン関係人口ブートブードキャンプ」というイベントを行いました。参加者には「研究員」として塩尻市と鳥取市に行ってもらって、地域との関わり方を考えてもらうんです。このイベントの面白いところは2つあって。

1つは、事前に顔を合わせる機会をつくり、「他人」ではなくすこと。地方にとって観光客が来ないのは困るけれど、顔も名前も知らない人が感染源になってるのは困りますよね。

だから事前の10日間、毎日午前7時と午後10時に参加者14名全員が入るオンラインミーティングを行いました。お互いに顔が見える関係性になっていたら、少なくとも「あなた誰?」とはなりません。もう既知の存在なんです。

それに10日間もやっていると、どんどん関係性が変わってきます。ある人は、オンラインミーティングの場を「部活の合宿のようだ」と語っていました。一度もリアルで会ったことのない人とオンラインでも、そんな場づくりができるんだと思いましたね。

さらにTwitterでは毎日、「#オンライン通行手形」のハッシュタグで体温計の写真を投稿してもらうようにしました。10日間、体調管理ができていた人だけ塩尻市と鳥取市に向かえると。そうすることで、「この人は体調管理に気を配っている人だ」という信頼の可視化ができます。

2つ目は、距離の超越です。4連休あって、2日間塩尻市、2日間鳥取市を旅したんですよ。普通だったら長野のあとに鳥取に行くなんてありえないですよね。それがこのイベントでは実現できた。

議論も盛り上がりました。あれがダメ、これがダメじゃなくて、建設的な議論ができたのも、すごくよかったですね。

稲垣:研究員として参加するというのも、すごくいいですね。僕は最近、関係人口について研究していますが、地域の人たちと外部の人たち、その双方向性がすごく大事だと思います。でも、地域の変化はよく取り上げられるけれど、外部の人たち、つまり外部から関わった側の変化ってあまり見えていません。その変化を最近調べてみたいなと思っているんです。

山田:私も今、塩尻CXOラボというオンラインラボを作り、あるプログラムをしたときの前と後で外部人材のエンゲージメントがどう変わったかを研究しているんです。「エンゲージメントを可視化する」が、私の今年のテーマです。稲垣さんも関心をもっているなら、自信をもって進められそうですよ。

稲垣:僕はまだまだ分析途中ですね。でも実は地域側も外部から来る側も、同じような変化が起こっているんじゃないかなあと推測しています。

人はそれぞれ物差しを持っています。なかなか普段それを認識できずにいるけれど、外との交流で認識できる。その変化が本質にあるんじゃないかなと思いますね。

山田:別の物差しを取り入れるのは大事ですよね。

「違和感」を大事にする

山田:最近よく、市役所の職員研修を頼まれます。そこでの質疑応答は、人と違うことをすることへの不安感ばかり寄せられるんです。「山田さん、そんなことをやっていて上司からどう思われているんですか」みたいな。

そこで言いました。私は不安なんですと。「2040年 公務員」で検索すれば、今92万人いる地方自治体職員を40万人に減らすという国の方針が出てくる。めちゃくちゃ不安じゃないですか。公務員しかやっていなかったら、どの企業も拾ってくれないですよ、と。

上司の言われたとおりにやることは、AIやRPAでもできること。市役所の中の物差しだけで考えていても、10年後20年後30年後、やっていけないんです。

稲垣:それを塩尻市役所の山田崇から言われるとショックだろうね。

山田:このニーズ結構あるんですよ。事前の打ち合わせでも、思いっきりやっちゃってください、って言われます。

稲垣:逆に言うと、市役所の職員たちももやもやしているんでしょうね。新しいことをやりたいけれど、どうしたらいいかわからなくて。その突破口として腹落ちさせる力が、山田さんにある。

山田:私は「違和感」という言葉をよく使います。それは公務員としてではなく、人としての。自分や組織を変えるときは、今までやっていないことをやるしかない。違和感を研ぎ澄まさないと、変えたいことにも気づけないのです。

そしてその前後を見える化することも大事です。僕はTwitterで自分の考えをストックしているんですが、振り返ると学びになることも多いですね。

今日もたくさんの学びがありました。次回12月まで、また研究を積んで、ストックを残しておきたいと思います。本日はありがとうございました。

本ラジオはYoutubeで動画が公開されています。
ご興味のある方は以下からぜひご覧ください。



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