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ローカルキャリアを促進する遠隔プロボノ&パラレルワーカーのススメ 後編

本文の前編は、遠隔プロボノ&パラレルワーカーについての定義付けとアンケート調査内容及びその結果について報告するものであった。後編ではその内容を踏まえて、そのキャリアモデルの考察と提示を行っていきたい。

4.遠隔プロボノ&パラレルワーカーのキャリアモデルの考察

 今回のアンケートでは遠隔プロボノ・パラレルワーカーの皆さんが何を重視して遠隔での従事を選択したかについて着目をした。アンケートでは、以下の視点で回答を得ている。

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 これらの2軸でもってマトリックスを形成し、遠隔プロボノ・遠隔パラレルワーカーのモデル化をしたものが以下だ。それぞれの思考する内容についての考察を加えつつ、各象限に当てはまる型に命名をして、その特徴についてアンケート内容及び考察から検討した。

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①キャリア棚卸型
(キャリアへの影響の重視度:低、ローカルへの貢献の重視度:高)

 まず、ローカルへの貢献の重視度が高いが、キャリアへの影響の重視度が低いパターンについて「キャリア棚卸型」と名付けた。それまでのキャリアで得てきたスキル・経験をローカルへの貢献に活用しようとするパターンであり、棚卸という言葉には「腕試し」という意味合いが含まれている場合もあるし、腕試しなどは関係なく純粋にローカルへの貢献をしたいという内発的動機に支えられて発生する場合もある。特に後者の内発的動機に支えられるものは、遠隔となることで遠隔プロボノ&パラレルワーカーとして従事することへのハードルが下がっている分アクションに結び付きやすい(特に、コロナ禍置いては本業もテレワーク化していくため時間の融通が利きやすい状態にあったと感じる)。

今回、経験の声の中にも「どちらかと言うと、今のキャリアを試したかったので、あまりキャリアアップは意識していない」との声もあり、このパターンはまさに自身のキャリアで得たスキル・経験を棚卸しつつ腕試しするパターンであろう。また、「自分の今までのスキルと地域の活性化のお手伝いに活かしたいと思ったから」との声もあり、このパターンは腕試ししつつ、内発的動機にも支えられたローカルへの貢献を意識していると言える。

また、キャリア棚卸型はあくまで遠隔プロボノ&パラレルワーカーとして従事する意思決定した時点での重視度を軸としているため、結果としてキャリアへの影響をその後感じることもあることは踏まえたい。

②キャリアアップ型
(キャリアへの影響の重視度:高、ローカルへの貢献の重視度:低)

 二つ目の型は「キャリアアップ型」である。キャリアへの影響の重視度が高く、ローカルへの貢献の重視度は低いパターンをモデルとして想定した。
しかし、今回のアンケートに参加してくれた15名の中にはこの象限に入る人は一人もいなかった。これは遠隔プロボノ&パラレルワーカーなどで、ローカルの仕事やプロジェクトに従事する人においては、ローカルへの貢献を志向して初めてそれを選択するということを指している可能性がある。

 では、どうなればローカルを意識しないキャリアップ型の遠隔プロボノ&パラレルワーカーが発生するのであろうか。これについては、参画する個人とそれを受け入れる主体の双方に意識・認識の改善が求められる。前者については、ローカルにおいてキャリアアップで繋がる仕事があると認識することである。具体的には、越境学習などに代表されるように遠隔であれローカルと関わって仕事やプロジェクトに従事することが自らのキャリアアップに結び付くことを事前認識できる、つまりそのような経験則の一般認知度が向上すること必要であろう。後者については、受け入れ側がローカルへの貢献度の如何が影響しない形での仕事・プロジェクト内容を創出した上で受け入れることができるかが重要であろう。ローカルにおけるプロジェクトでは、いわゆる「地域メリット」を求めがちである。その地域メリットは結果として発生するものと捉えて、参画する人材にフォーカスを当てた内容にできることが重要であろう。それを支える内容として、今回のアンケートでも前編で紹介した経験・スキルの獲得が語られている。このような事実の認知向上は、このキャリアアップ型モデルの数を増やすことに繋がるだろう。

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↑アンケート回答者のキャリアへの影響の重視度とローカルへの貢献の重視度の分布図。赤丸部に該当する人がいなかった。


③偶発遠隔型
(キャリアへの影響の重視度:低、ローカルへの貢献の重視度:低)

 上記②のキャリアアップ型と同様に今回のアンケート上該当者がいなかったのが、この型である。「偶発遠隔型」と名付けた。いずれへの重要度も低いという状態はどのような時に発生するだろうか?具体的にあり得るパターンを想像すると、パラレルワーカーとして金銭的にメリットが高く、既存キャリアのスキルを活かして従事できる仕事とマッチングする場合(但し多くの場合、都市部のパラレルワーカー案件に分があるのが現実であろう)などが挙げられる。つまり、ローカル・都市部関係なくパラレルワーク(副業兼業)を探しており、偶然見つけて遠隔で従事することなったパターンがこれであろう。※そのため、ほぼプロボノでの参画は発生しないと考えられる。

 ここで注目したいのは、「遠隔」であることによってその偶発は起こりやすくなっているという点である。前編の冒頭で紹介した通り都市部のパラレルワークにおいても遠隔対応がコロナ禍増えていることから、従事する先がローカルか都市部かについては問わないパターンがあり得ると思う。これは受け入れ側にとってはチャンスである。これまでローカルに興味のなかった層(そして、それがマジョリティであろう)へのリーチを獲得している状態といえる。ローカルへの貢献、キャリアへの影響いずれの重視度が低くても優秀な人材は沢山いる。したがって、そのような人材を自社・地域の力に変えることができるかは受け入れる企業や地域の準備にかかっているように思う。遠隔で仕事ができる環境整備を各企業で実施したり、地域で用意したりすることがこの偶発遠隔型の知を活かす道だと言える。


④キャリア拡張型
(キャリアへの影響の重視度:高、ローカルへの貢献の重視度:高)

 右上の象限に該当する型については「キャリア拡張型」と命名した。今回の経験者の声を寄せてくれた方々の約6割がこの象限に位置している。良い意味で二兎を追いながら、自らのキャリアを拡張し、結果としてそのオーナーシップを高めている層である。

 今回の経験者アンケートでは、「現時点ではプロボノですが、将来的には事業化しパラレルワークできるようにしていきたいと考えています」「社会的要請や地域貢献に対しての自分の職能の活かし方を確認し、自身の仕事の領域を拡げられる可能性を考えた」などその後の自身のキャリアへの意欲的な拡張を示唆しつつ、その拡張をより充実したものにする視点も踏まえてローカルへの貢献度を重視している回答者がいた。
 また、上記に「結果としてキャリアオーナーシップと高めている層」とこの型を定義づけたが、キャリアオーナーシップ自体を測るアンケートとして「自身の価値観や目標に合わせて、柔軟にキャリアを形成していくことについて」の設問があり、その回答が非常に重視しているまたは重視しているの回答者が圧倒的多数であったことは特筆すべきだろう。

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 今回、遠隔プロボノ&パラレルワーカーモデルとして考察・提示した4つの型について、遠隔で実施する仕事・プロジェクト自体へのコミットメントの度合いは以下のような図で表現できると考えている。

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 しかし、今回のアンケート等からはコミットメントと各型の関係性を分析することは量的にも設問的にも難しかったため、今後の研究にそれは委ねたい。キャリア拡張型がコミットメントの度合いが高いと言えるようでれば、どういう価値観の人物が遠隔プロボノ&パラレルワーカーに適しているかを考察するヒントとなり、受け入れ企業や団体はそのような人物特性を見ることで遠隔によるプロジェクトの成否をよりコントロールしやすくなる可能性がある。

5.遠隔プロボノ&パラレルワーカーとして得られる力

 ローカルキャリア白書の2019年度版では「地域で磨けた力」を紹介している。これらについて今回の考察対象である「遠隔プロボノ&パラレルワーカー」であった場合にも獲得できるかについての考察をアンケートの声を参考にしつつ以下に示す。

 まず、ローカルキャリア白書2019で示された「地域で磨けた力」の項目にある「ローカルで磨けた五つの力」は以下の図の通りとなっている。

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 今回取得した遠隔プロボノ&パラレルワーカーの声の中にも上記に通じる内容が確認された。つまり、地域に行くことで磨けた力について、遠隔による業務遂行でも得れるものがあることを示す内容となる。

「①実践する力」に関するもの
得られたスキルを回答する設問に「仕事(案件)に対する「責任力」=全うする、やりきる力=「全力」で仕事をすること」や「0→1で実際に事をすすめる突破力」という回答をした方がいた。これはまさに実践する力を遠隔業務からでも得ることができたことを証明していると思う。
「③調整する力」に関するもの
「受発注者とは異なる言語領域(専門用語)を持つ人達との合意形成」「仲間との共働、答えのない問いに答えていく経験」といった回答があり、調整する力につても遠隔で磨ける力になると言える。

 上記の①③以外の力については明確にアンケートの回答からそれに繋がるものの回答はなかった。

 もう一方で、上記五つの力にはないものとして遠隔だからこそ磨かれる力として考え得るものがある。複数のアンケート回答者が記述したのが「仲間」「コミュニケーション」などの人に関する記述がそれを示している。これは遠隔業務によるプロボノやパラレルワークにおいてはグループワークによる業務が多く発生していることが背景にあると考えられ、「コミュニティマネジメント力」「人様と協業するソフトスキル」といった表現でアンケートへの回答があった。これは遠隔プロボノ&パラレルワーカー間における相互のやり取りから発生するものであることから遠隔特有の磨かれる力であると考える。

 尚、ローカルキャリア白書2020には「ローカルキャリア力」として9つの力を紹介しており、こちらについては以下の図にある通り「プロジェクトをつくる」というプロセスを通じて養われるローカルキャリア力を整理しているものであることから、遠隔プロボノ&パラレルワーカーが従事する仕事は、プロジェクトはすでにあって、そこに遠隔として参画するというイメージが強いため今回の「遠隔でも得られる力」の考察からは今回除外している。

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 但し、この「ローカルキャリア力」については9つの力を測る内容として、診断表が容易されていることから、遠隔プロボノ&パラレルワーカーがこの診断表を用いた「ローカルキャリア力」チェックを実施した場合の結果は今後の探求対象であると考える。

6.まとめ

 本文では、コロナ禍でこれまでよりも参画へのハードルが大幅に下がった遠隔によるローカルの仕事・プロジェクトへの従事について、その経験者の声をベースにモデルの考察を行いつつ、そこで磨ける力について提示した。今回、アンケートの量が少ないことから定量的分析をすることができておらず、この点は今後の追加調査・分析に期待したい。また、キャリアオーナーシップとの関係性についても今回は未分析である。
 しかし、ひとつ可能性があることは、これまで選択肢として薄かった遠隔でのローカルにおけるプロボノ&パラレルワーカーとしての活動が、キャリアオーナーシップを高めつつ、自らのキャリアにおけるコミットメントシフトを生みやすくするということであろう。より個々人のキャリアオーナーシップがベースとなった自由な職と生き方の選択ができる国になっていくことを筆者は期待してまとめとしたい。
                               

この記事を書いた人
森山明能(一般社団法人地域・人材共創機構/代表理事)
1983年七尾市生まれ。07年慶應義塾大学総合政策学部卒。一般企業を経て2010年に地元Uターン。現在は家業の七尾自動車学校、地元七尾の民間まちづくり会社・㈱御祓川、CAREER FORプロジェクトを推進する一般社団法人地域・人材共創機構などで働くポートフォリオワーカー。家業では経営者、その他ではトライセクター・コーディネーターとして活躍。ご当地系アカペラグループ・カガノトーンズの一員でもある。内閣府・地域活性化伝道師。

一般社団法人地域・人材共創機構: https://careerfor.net/
株式会社御祓川:https://misogigawa.com/
七尾自動車学校:http://www.nanao-drive.co.jp/

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