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社会の転換期に地方だからこそできること

2020年を通し、第5水曜日のある月だけ、朝7時からお送りしたローカルキャリア研究所オンラインラジオ。台本やテーマは一切なし。ゲストに稲垣文彦さんをお招きし、進行の山田崇さんとともに、その瞬間心に浮かんだことをざっくばらんに語り合いました。

第4回が開催された2020年12月30日は、Go Toキャンペーンの停止が決まり、国内で初めて変異種が確認された直後でした。おふたりにとって2020年はどんな年だったのでしょうか。対談の様子をお届けします。

山古志での気づきから始まった1年

山田:2020年12月23日に開催されたミラツクフォーラムで京都大学総合博物館准教授の塩瀬さんが、4つの項目を挙げていました。「変わってしまったこと」「変えたくないこと」「変えたいこと」「変えてはいけないこと」があると。今日は4つをテーマに、1年の歩みを振り返りたいと考えています。

2020年1月にCAREER FORのメンバーで旧山古志村に訪問した際、稲垣さんから「災害=自然現象×社会」と聞いて、衝撃を受けました。自然現象自体が悪さをするのではなく、それがきっかけで社会に潜んでいた課題が沸き上がってくる、と。僕にとってはこの話が、今年のスタートだったと感じています。

稲垣さんは今、どう感じていますか?

稲垣:そう言っていただけてすごく嬉しいです。第1回のラジオでもお話ししましたが、CAREER FORの皆さんに何か与えられるものがあるのかなと正直悩んでいたんですよ。だから皆さんの反応がすごく嬉しいです。この1年、物理的な距離は遠くなったものの、なんだか精神的な距離は近くなった気がします。

山田:旧山古志村で見た光景は、今でも鮮明に思い出せますよ。心がすごく揺れ動きました。

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皆でマイクロバスに乗って宿に向かっているとき、池があって。柵とか何もなしに、錦鯉が泳いでいるんですよ。すごく価値のあるものなのに、ほったらかされているように見えて。でも外部から不審な人物がきたらすぐわかるから大丈夫なんだなと思ったりして。

そのときふと、山古志の地に一番初めに住み始めた人ってどんな人なのだろうと考えました。おそらく1000年の間で、時代が変わろうが、震災があろうが、山古志の気候や自然はほとんど変わっていません。でも錦鯉に観賞用としての価値を見出すことで、イノベーションが生まれた。一見不便な土地でも、「ここで生きていく」と決めたときに見えるものや、新たに生まれるものがあるのかなと感じて。

そういった意味では、便利ではないことも場合によっては強みにできる。先日、「世界の市役所をハックする!」のイベントでエストニアの研究発表がありました。エストニアは長年ソ連の脅威にさらされていて、亡国の危機から脱するためにデジタル国家の道を選んだ。苦しい面を逆手にとって強みにする姿勢が、なんだか似ていると思いましたね。

未完了でアウトプットする

山田:また、稲垣さんが「社会課題の解決をメインに置かずに、地域の皆さんの幸せを考えながら作っていく地域づくりもあっていい」とおっしゃっていたのも、すごく心に残っていますね。

稲垣:その話に関連して。僕は今関係人口のポジショニング4象限を作っています。

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横軸が、関係人口になる側、つまり都会の人たちのニーズです。「マッチョ型」と「ヨガ型」に分けられます。「マッチョ型」は、自分のキャリアで地域課題を解決したい、キャリアアップしたいと考える。一方で「ヨガ型」は、自分の呼吸を整えたい、生活リズムを整えたいという欲求を持っています。

縦軸は、地域側の目線です。「課題解決型」と「地域承認型」に分けられます。「課題解決型」は、関係人口に課題解決を求めている。「地域承認型」は、地域のことを知ってほしい、認めてほしいと考えています。

そうすると、「マッチョ・課題解決型」「マッチョ・地域承認型」「ヨガ・課題解決型」「ヨガ・地域承認型」の4つに分類できるんですね。分かりやすいのは「マッチョ・課題解決型」なんですけれど、どれが良い悪いではないと思っています。

山田:私は横軸を、「マッチョ型」「ヨガ型」ではなく、「西洋医学型」「東洋医学型」で分類していますね。

「西洋医学型」のように瞬間的にインパクトが欲しいものもあるけれど、漢方のようにじわじわと体質を変えていくこと必要な時もあります。

「ヨガ型」と同じく、「東洋医学型」も成果は見えづらいんです。でも長い視点で見たとき、必ず必要になると思っていて。12月23日、ミラツクフォーラムでイノラボの井上さんが「ときには未完了のままで今日を終えたり、未完了を未完了のままアウトプットしたりする技術が必要だ」とおっしゃっていました。「ヨガ・地域承認型」に通ずるものがある気がします。

稲垣:僕もこれから研究会を作る予定で、まさしく未完了の段階なんだけれど。積み上げていく中で、感じたことや変化したことは必ずありますよね。それをアウトプットすることは忘れずに行いたいです。

山田:このラジオも、未完了のままアウトプットしてきた気がしますね。そのとき思ったことをもやもやしながらアウトプットする。稲垣さんと話すのが私にとって、セーブポイントみたいな感覚でした。

大きな変化のタイミングこそ地方へ

山田:先日、日本経済新聞「経済チャートで見る新型コロナショック」を見ていました。その中で業種別株価の項目がありまして、コロナ禍に適応した産業は何かが顕著に見えてきます。たとえば、食品はほとんど変化がありません。コロナ禍であろうが、災害であろうが、100年前であろうが、人が生きるために必要な食事の回数は変わらないんです。

逆に、すごく大きなもの、たとえば航空業界などは変化に弱いんです。大きすぎて、変化に対応しづらい。

これを地域で考えてみたとき、小さな組織や小さな集合体だからこその強みもある気がします。災害があっても、ひとまず1か月は自分の住んでいる地域の物資で生きていける力があると、それは強みになる。そんなことを考えていました。

稲垣:その通りですね。社会が大きく変わるタイミングって、すごく残酷なんです。適応しづらい人もいるし、できないことだってある。災害はまさにそう。苦しい方はどんどん苦しくなっていきます。それをサポートするのが大事ですが、でもそれってすごく時間がかかるし、難しいんです。

そんな人たちに地方は寄り添える存在になるんじゃないかと僕は思うんですよ。関係人口でも、地方が都会に力を分けてもらうみたいなイメージが強いかもしれないけれど、むしろ地方が都会を助ける側面もあるはず。今生きづらさを感じているような人たちに、地方に来てほしいですね。

もやもやしている人たちも受け入れられる地域の奥深さやたくましさを、僕はもっと打ち出していきたい。「こういう生き方もあるよ」と伝えて、仲間になってもらえたらなあと思いますね。

挑戦したい人たちに「イエス」といえる存在に

山田:私の著書「日本一おかしな公務員」でも書きましたが、私はファーストペンギンになりたいんです。

でも最近思っていることがあって。実は私、挑戦できない人なんですよ。一般社団法人地域・人材共創機構の代表理事である石井さんは衝動で釜石市に向かったりするけれど、僕はできない。感受性が強すぎて、当事者に向き合いきれないんです。けれども代わりに「公共のインフラ」として支えることはできる。

最近私は、蛇口になりたいと思っていて。誰に対しても、否定せずにただ水を出す。山ちゃんに聞いたら、とりあえず「イエス」でやってくれるよ、みたいな

稲垣:いろんなチャレンジをしている山田さんが気づいたことがこれって、すごいな。公務員の皆さんにとってはすごく勇気づけられる話だと思います。

山田:挑戦したい人たちがネットワークを作ったり、コクリエーションしたりするときに、「イエス」で答えられる存在。それでいいなと思うんです。そのためには挑戦する人と近くにいなければならないし、私自身がたくさんの繋がりがなければいけない。起業家の麻生要一さんもおっしゃっていましたが、ファーストペンギンが、群れから孤立したロストペンギンになってはいけないんです。

これも未完了のアウトプットなので、正解にできるかはまだ分かりませんが。

稲垣:以前、関係人口のセミナーでもお話しした内容ですが、「それでいいんだ」って言葉がすごく大事だと思います。いいですよ、それでいきましょうって言ってくれる人がいると、すごくありがたい。そんな人に山田さんがなるんだろうなと思いますね。

山田:最後に、「エフェクチュエーション」と「コーゼーション」という考え方についてお話しさせてください。

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予測可能な未来があるときは、マーケティングの手法が役に立ちます。でも予測不可能な時代は、5つの行動原則が大事になります。まずは、手当たり次第なんでもやる「手中の鳥」。小さな一歩を大事にする「許容可能な損失」。継ぎはぎをして1枚の布をつくる「クレイジーキルト」。予測不能な事態も歓迎する「レモネード」。そして臨機応変に対応する「飛行機の中のパイロット」。

計画的にやることも大事だし、不確実なものに対してアクションをすることも大事。この両利きの経営が必要だと感じます。

おそらく私は、手中の鳥をつくるのが得意。これからも今ある繋がりを大事にしながら、この予測不可能な時代を突き進みたいですね。

稲垣:たしかに二項対立ではないね。僕が今、やりたいと思っているのが、解放した個人や地域を撹拌、すなわちかき混ぜることです。2020年はあまり挑戦できなかったのですが、2021年は自分なりに頑張っていきたいなと思います。今後ともぜひよろしくお願いします。

山田:2020年、稲垣さんと定期的にお話ししてたくさんの学びがありました。本当にありがとうございました。

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本ラジオはYoutubeで動画が公開されています。
ご興味のある方は以下からぜひご覧ください。


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