短編小説:チョコレートケーキ(はなちゃん物語)
チョコレートケーキがいい!
はなちゃんは目に涙をいっぱい浮かべて、お母さんに言いました。
絶対、チョコレートケーキ!!
もう地団駄を踏む勢いで。
残念ながら、そのケーキ屋さんにはチョコレートケーキはありませんでした。
夏場は作ってないんですよ。
お店のおばさんは申し訳なさそうに言いました。
お母さんは、はなちゃんにあきらめなさい、と言いました。
ほら、このいちごのケーキ、美味しそうじゃない。
お母さんは宥めるように、はなちゃんに言います。
でもはなちゃんはイヤでした。
自分の一番好きなまあるいケーキを買ってもらえるのは、年に2回だけ。
でも、もう1回のクリスマスは結局、お姉ちゃんの好きなケーキになりました。
それはいちごのいっぱいのった生クリームたっぷりのケーキでした。
はなちゃんは本当は言えなかったけど、生クリームが苦手だったのです。
でも、クリスマスはみんな生クリームのいちごのケーキばかり喜びます。
だから去年のクリスマスもやっぱり生クリームのいちごケーキだったのです。
はなちゃんはしょんぼりとそのケーキを食べました。
せめて、自分の誕生日くらい、自分の好きなチョコレートのケーキが食べたい!
はなちゃんの心からの願いでした。
というのに。
ケーキ屋さんは夏場はチョコレートケーキを作ってない、と言われてしまいました。
そんなことってある???
夏でも食べたいんだもん。
作ってよ!!
田舎にたった1軒しかないケーキ屋さん。
ここにないなら、どこにもない。
お母さんは、はなちゃんがそんなにチョコレートケーキが食べたいとは知らないから、なんでもいいじゃない、早くしなさい、みたいに言います。
はなちゃんはどんどん悲しくなりました。
****
街でたった一つのケーキ屋さんにチョコレートケーキがなくて、はなちゃんは泣きたくなりました。
1年でたった一度の自分の誕生日。自分の好きな味のまあるいケーキが食べれる日なのに、自分の好きな味はない、と言われて。
はなちゃんは、お母さんを見あげて言いました。
作る!はなちゃん、ケーキ作るもん!!
お母さんは止めます。そんなの無理だからやめなさい。
はなちゃんは聞きません。
自分のほしいものは作らなきゃ、手に入らないのです。
もう、頑張るしかありません。
時々お母さんがケーキを作るので、おうちに型はあります。
はなちゃんは決心し、お母さんとケーキ屋さんを後にしました。
その夜、皆が部屋に引き上げてからはなちゃんは台所に立ちました。
お母さんは最後まで、作ってあげようかと言ってくれましたが、きっぱり断りました。
ううん。コレは、アタシが作る。
お母さんに借りたお菓子の本、バター、タマゴ、小麦粉、チョコレート、ココアパウダー。
みんなそろってます。
はなちゃんは一生懸命、本を読んで、作り始めました。
バターが手にくっついて上手く切れなかったり、小麦粉でテーブルが粉まみれになったり、ちっとも上手くいきません。
でも、はなちゃんは、あきらめません。
さっくり混ぜる?に首をひねっても、角が立つくらいの意味が分からなくても、一歩一歩進みます。
オーブンは180℃。生地を焼いたらその間にチョコレートを削って湯煎しなくちゃなりません。
テンパリング?立ち止まりそうになります。もう本にある写真がたよりです。
どうにかこうにか焼けたスポンジは、見本とはちっとも違います。
なんだか、ぺっちゃんこで、妙に重い・・・。真ん中を切ってフルーツを入れるなんて、到底できそうにありません。
どうしよう・・・
****
せっかく焼いたスポンジケーキは思ったよりずっとぺっちゃんこ。真ん中を切るとかできそうにありません。
どうしよう・・・
悩んだはなちゃんは決心します。
もう一つ焼こう。
はなちゃんはいいことを思いつきました。
同じものをもう一つ作って重ねれば、ケーキの真ん中をカットしたのと同じことになる!
はなちゃんは意気揚々とスポンジケーキをもう一つ作り始めました。
さっきより上手にバターも切れます。角だってピンと立ちます。
よしよし。最初よりずっと上手に生地ができオーブンへ入れます。
そうしてはなちゃんは再びチョコレートを削り始めました。
ところどころまだらになっちゃったけど、立派なチョコレートクリームの出来上がりです。
あとはスポンジが焼き上がるのを待つのみ!
はなちゃんは焼いたスポンジケーキをすぐ取り出しちゃダメ、とか、冷ましてからクリームを塗らなきゃダメ、とかそんなのは知りません。
こうしてぺしゃっとしたずっしりと重いスポンジケーキが2こ出来上がりました。
さっそく2つを重ねます。あいだに切ったフルールを入れて。
なかなか立派な大きさです。スポンジにはココアパウダーが入っているので、どっしり重い茶色いスポンジケーキです。
そうして先ほど溶かしたチョコクリームを塗っていきました。
チョコレートが固くなっちゃって、上手く全体的に塗れません。上の方だけで、チョコレートがなくなってしました。
もう、予備のチョコレートはありません。
しょんぼりしつつもはなちゃんは上にココアパウダーを振りました。
あたりはチョコレートの甘い甘い香りが漂っています。
そうして、最後の仕上げ。
チョコレートのペンで、文字を描いていきます。
おたんじょうび・・・
そこで、ペンのチョコレートがなくなってしまいました。
がっかりです。
でも、はなちゃんは、めげません。
おたんじょうび、おめでとう。はなちゃん。
自分で自分をお祝いします。
気づけば12時をまわり、今日はお誕生日。
はなちゃんは、一番に、自分をお祝いしました。
お誕生日、おめでとう。がんばったはなちゃん。
【お知らせ】耳で聴く物語はじめました。聴いていただけたらうれしいです。
応援いただけたらとてもうれしいです!いただいたサポートはクリエイターとしての活動費にさせていただきます♪ がんばります!