短編小説:おしるこ
ぼく、おしるこ。
自販機の片隅にいる、缶のおしるこ。
正直、あんまり、人気ない。
ぼくはそもそも、視界に入れてもらうことも少ない。
だから、だいたい毎日ぼーっと売れていく仲間たちを眺めているだけ。
そして暑くなるとそっと自販機から下ろされ、倉庫の片隅で眠る。
一番売れる寒い寒い日だって、残念ながら、飛ぶようにみんなが買ってくれるわけではない。
だから、他の仲間たちみたいに衣装替えもほとんどない。
昨日もお茶さんが新しいドレスを自慢していた。
今季の新作なの!と。なんでも味も変えてもらったらしい。
仲間たちは気を遣っているのかぼくに衣装替えについて聞いてくることはない。
本当はぼくだって、ちょっとだけ衣装替えすることもあるんだけど、誰も気づいては、くれない。
まあいいんだけどさ。
そんなぼくを一番必要としてくれるのは、オジサン。
ホントに、時々だけど。
ぼくを必要としてくれるオジサンは自販機の前で迷うことはない。
鬼気迫る表情で自販機にお金を入れ、迷うことなくぼくのボタンをおしてくれる。
いっそ叩かんばかりの勢いで。
そして、だいたいその場でぼくを飲む。
グビグビと半分くらい飲んだ後で、はーともあーともつかない声で白い湯気のため息をつく。
美味いと言ってくれるわけでもないけど、オジサンの心から幸せそうなその白い湯気のため息をみると、ぼくまで幸せな気持ちになる。
おしるこで、よかったな。
その時だけ、思う。
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