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「キャリア自律」が扉を開く!専門性と創造性を追求し、人が〇〇する働き方とは?

はっ!!!もう2023年が終わってしまう。

年末が近づいてくるとなぜか無性に焦る気持ちが生まれませんか?(笑)
この記事を書いている10月は1年の4分の3が終わってしまっていて、配信されるころには…。

ちょっと気が早いですが、2023年を振り返ると「キャリアの自由研究」の最初の投稿が1月10日ですので、新しいことにチャレンジした1年だったように思います。

普段はいくつか大学で非常勤講師として給与を頂いていますが、仕事の幅を広げようとレイドの皆さんとこの取り組みを始めたり、副業サイトでいろいろ応募したり、フリーランスとしても講師業以外の部分で活動を少しずつ広げてこれたと思っています。 


今回のテーマは?

今回の「キャリアの自由研究」はそんなフリーランスをテーマにした研究のご紹介です。

論文のタイトルは「雇用によらない働き方における ワーク・エンゲイジメントの規定要因 ――雇用者とフリーランスの比較分析」https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2021/01/pdf/067-087.pdf)。

法政大学大学院 政策創造研究科の教授・石山恒貴先生が2021年に発表した論文です。石山先生はキャリア研究の第一人者で、大学院でも他学科の院生たちが石山先生の授業をこぞって履修・聴講しにいきます。

この研究の概要はざっくりいうと「会社員とフリーランス、どちらがワーク・エンゲイジメント(=働くことへのモチベーション)が高いのか」というものです。私は新卒で入った会社では会社員として勤めましたし、2016年からは個人事業主・フリーランスとして活動しています。

どちらも経験している身としては、どちらも当然一生懸命やっていますのでモチベーションに違いは無いと思いたいのですが…。実際に研究として扱うとどんな結果になるのか、とても興味深いと思いました。

そして、この研究が面白いと感じるのは、単に会社員とフリーランスを比較しただけでなく、比較の仕方や、比較の結果としてまた別の知見が見えてきたという点です。ぜひ、最後までお読みください。

研究における2つのアプローチ

研究論文は大きく分けると「質的研究」「量的研究」の二つのアプローチがあります。「質的研究」はインタビューをし、引き出した言葉(語り)を文字起こしして、分析を行います。対して「量的研究」は質問紙(アンケート用紙)を作って、データを集めて数値化し、それを分析します。今回紹介している石山(2021)の論文は量的研究のアプローチをもとに書かれたものです。
 
その質問紙(アンケート用紙)ですが、多くの方は「自分で考えて作るんでしょ?」と思いませんか?最初は私もそう思っていました。
ちなみに私が現在行っている研究でも量的研究の手法を用いていて、質問紙(アンケート用紙)を作りました。

でも、1から10まで全部を作ったというわけではなく、これまで他の研究者が作った、あるいは使った質問紙(アンケート用紙)をそのまま使ったり、組み込んだりします。

私はアメリカの心理学者Stumpfさんが提唱した「キャリア探索理論」に基づいて作られた「キャリア探索尺度」(※尺度=質問紙、と思ってください)を使っていて、68の質問項目のうち13項目はこれを使っています。同じように、「Aさんの論文ではBさんが作った〇〇尺度を使っている」なんてことがよくあります。

 石山(2021)では会社員とフリーランスのワーク・エンゲイジメント(=働くことへのモチベーション)をどんな尺度で測ろうとしたかというと「キャリア自律を促進する要因の実証的研究」(堀内泰利・岡田昌毅、2016、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaiop/29/2/29_73/_article/-char/ja/)で使われている「キャリア自律心理尺度」を用いています。

「キャリア自律」って聞いたことありますか?

ここで石山先生がワーク・エンゲイジメントを測るために用いた尺度の背景にある「キャリア自律」理論について触れたいと思います。2009年に上記と同じく堀内泰利・岡田昌毅の両氏が発表された論文では「社員は会社に依存するのではなく、自己責任において自律的にキャリアを形成するキャリア自律が求められるようになった」と説明されています。

1980年代後半から1990年代初めにアメリカで提唱された概念で、日本にも入ってきました。経済が停滞し、グローバル化の競争に余裕が無くなってきた企業は終身雇用・年功序列を維持できなくなったことが時代背景としてあります。最近では「キャリアオーナーシップ」と言われることもあり、人事関係・HR関係の方々の間で広まるようになってきました。

堀内・岡田(2016)はキャリア自律を以下の内容にまとめて尺度化したものを紹介しています。

①    心理的要因(職業的自己イメージの明確さ、主体的キャリア形成意欲、キャリアの自己責任自覚) 
②    行動要因(主体的仕事行動、キャリア開発行動、職場環境変化への適応行動、ネットワーク行動) 

※本文から参考

心理的要因の3要素、行動要因の4要素が高まるとキャリア自律の度合いも高まっていくと考えられます。石山(2021)では、この①「心理的要因」の3要素が反映されたキャリア自律心理尺度を用いて測ろうとしたのでした。

この質問紙の項目を読んでいただくとキャリア自律について重要なポイントがとても分かるので、ぜひ原文を読んでみてください。

それでは本題の研究へ!

会社員とフリーランスのワーク・エンゲイジメントの差を測るために、「キャリア自律心理尺度」を用いて測ることをまず1つ、研究の柱にしました。

フリーランス 665 名、会社員 665 名、計 1330 名を対象にアンケート調査をし、6つの項目(ワーク・エンゲイジメント、キャリア自律の心理的要因3要素、専門性、創造性)について意識を調査しました。まずは研究の結論を本文から抜粋しましたので、ご覧ください。

第 1 の意義は,フリーランスのワーク・エンゲイジメントの水準の高さで示された含意である。従来は調査されていなかった就業区分の比較の結果,会社員よりフリーランスのワーク・エンゲイジメントの得点は高く,しかも日本の既存研究をこえる高い数値を示した。また,キャリア自律が専門性と創造性に媒介されてワーク・エンゲイジメントを高めるメカニズムが明らかになった。(中略) 

第 2 の意義は,ワーク・エンゲイジメントの規定要因に関して,フリーランスと会社員に差異がなかったことに関する示唆である。
キャリア自律,専門性,創造性に関する会社員の得点は,フリーランスに比べて全て有意に低かった。先行研究では,会社員との対比でフリーランスの顕著な特徴としてのキャリア自律,専門性,創造性を導いていたが,本研究ではそれを実証したことになる。

ところがフリーランスと会社員において,キャリア自律を専門性と創造性が媒介してワーク・エンゲイジメントに正の影響を与えるというメカニズムは共通していた。

(本文より引用)

まずは第1の意義について。
6つの項目のどの項目においてもフリーランスの方が平均得点が高い結果になったことが書かれています(統計的に有意)。

そして、論文内の図2、3を見て頂きたいのですが、「共分散構造分析」という手法を用いて、ワーク・エンゲイジメントが高まるメカニズムを明らかにしています。
「キャリア自律が専門性と創造性に媒介されてワーク・エンゲイジメントを高めるメカニズムが明らかになった」としています。

キャリア自律が高まると直線的にワーク・エンゲイジメントが高まるのではなく、専門性と創造性が高まり、さらにワーク・エンゲイジメントが高まるという分析結果を示しています。ここまでが第1の意義についてです。

次に第2の意義について書かれている「フリーランスと会社員において,キャリア自律を専門性と創造性が媒介してワーク・エンゲイジメントに正の影響を与えるというメカニズムは共通していた」という部分について注目をしてみてください。さらっと書かれているのですが、このポイントがとても興味深い。

ざっくりと解説しますと、フリーランスのメカニズムを調べようとしたところ、会社員も同じように調べたら、フリーランスと同じメカニズムでワーク・エンゲイジメントを高めていたという結果に辿り着いたのです。 

ー意見①

この研究論文を読んで感じたことをまとめとして2つ挙げたいと考えます。
まず1つ目は「専門性と創造性」についてです。これまで「フリーランス」と呼ばれる人たちはみんなそれぞれ色々な背景を持ってフリーランスになっていて、いま一つその実態が掴み切れないと言われてきました。

やりたい仕事が明確にあって会社を辞めてフリーランスになった人、会社の倒産や解雇を経験してフリーランスにならざるを得なかった人、育児や介護といった家庭の事情でフリーランスを選んだ人、みんな様々です。

この研究では「自分のやりたい仕事がある」という人がフリーランスになっているという前提のもとに仮説を立てて研究を進めています。

私もフリーランスとして仕事をしているのですが、同じ仕事を続けていると慣れが生まれてしまい、モチベーションが上がらないときがあります。
振り返ってみると、それはやっぱり仕事の中で専門性と創造性が向上していないから、モチベーションを下げてしまったのだとこの論文を読んで改めて感じました。

フリーランスという働き方が広がってきて、企業とフリーランスを橋渡しする副業サイトなども増えてきました。

フリーランスとして働く方も生計を立てるための仕事だけではなく、専門性や創造性を高めるための仕事を増やしていくことも重要なのではないでしょうか。そして、仕事を依頼する企業側も、そういったフリーランス人材の活用の仕方も頭の片隅にぜひ置いて頂きたいなと感じます。

そして、それはフリーランスだけに限らず会社員にとっても同じで、ワーク・エンゲイジメントを高めるためにも専門性と創造性を高めるための取組みが必要なのではないでしょうか。

ー意見②

もう一つは「キャリア自律」についてです。企業においてキャリア自律という概念は取り扱いづらいと考える方々もいるそうです。

社員のキャリアについての自律心が高まり過ぎてしまうと、転職や起業などを積極的に考えられてしまい、人材の流出につながる恐れがあるというわけなのです。確かにその可能性は否定できないとは思います。

しかしこの研究では、そこに専門性と創造性が合わさることで、好循環を生み出す可能性があることを示唆しています。自立心が高まること自体は決して悪いことではなく、現状の職場や仕事の中で慣れや惰性が生まれてしまうことが問題なのではないでしょうか。

いわゆるその「マンネリ感」を専門性と創造性にうまくつなげることができれば、負の感情は解消され、よりパフォーマンスが高まる組織になっていくのではないでしょうか。

人が成長していける組織が、最も良い組織ということなのでしょうか。

【参考文献】

・石山恒貴(2021)「雇用によらない働き方における ワーク・エンゲイジメントの規定要因 ――雇用者とフリーランスの比較分析」日本労働研究雑誌 63 (1), 67-87
・堀内泰利、岡田昌毅(2016)「キャリア自律を促進する要因の実証的研究」 産業・組織心理学研究 29 (2), 73-86,
・堀内泰利、岡田昌毅(2009)「キャリア自律が組織コミットメントに与える影響」産業・組織心理学研究 23 (1), 15-28


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