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『聴けずのワカバ』(キャリコン資格取得編)-3

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「おい、貴様、謝れ」
紫スーツ(男)がそう言い放つと会場に張り詰めた空気が漂った。今回のイラスト展に参加している若手のアーティストとその作品を見に来てくれているお客さんの視線が一斉にワカバと紫スーツ(男)に注がれた。

「いきなり謝れって言われても・・・どうして私が謝らないといけないんですか?」
「会場にいる皆さんに迷惑をかけだろう」
「迷惑ってなんですか?!」
ワカバは紫スーツ(男)の理不尽な応対に怒りを感じてそう言い放った。

「一人で勝手に騒いで入ってきただろう」
「それが何だって言うんですか!」
「ヨツモトさんの話していた相手がもし画商だったらどうしてた?そのせっかくのチャンスを貴様のせいで不意にしていたかもしれんのだぞ!」
「いや、まさか、だってそんな格好しているから、お笑い芸人か売れないホストかと」
会場からクスクスという笑い声がうっすら聞こえる。

「くっ・・質問の答えになってねえな。ヨツモトさんだけじゃなく他のアーティストの皆さんにも同じことがいえると想像できなかったのか?」
「そんな事言われたって私には・・・」
「関係ないってか。貴様は初めてこのイラスト展に来たから分からんだろうが、アーティストの皆さんは今回のイラスト展に並々ならぬ努力を重ねてきている。今日までみんな必死になって作品作り上げるために命を削って挑んでんだよ!だから貴様、ここにいる全員に謝れー!」

理不尽とは分かっていながらもそんな事情とは知らずに申し訳なく思うワカバ。
(でもまたこれ土下座の強要だよね。一日に2回ってある意味奇跡なんですけど)
しかし、そんな状況を見かねてヨツモトが紫スーツ(男)に声をかけた。

「あの、イチジョウさん」
「ヨツモトさん、みんなの分まで言ってやったよ」
「あの、ちょっと言いにくいんですけど、今回のイラスト展はみんな過去の作品を持ち寄って、慰労も兼ねて気軽に楽しくやろうってのがコンセプト(※1)でして・・・」
「んん、どういうこと?」
「ええとですね、簡単に言うと今回は誰ひとり命も削ってないし、来てる人たちもみんな家族とか友人なんで」
「ええ、それはつまり」
「主旨を理解してなかったイチジョウさんの方が悪いですね」
「あっ、そう。へえ、そうなんだ。ふーん、じゃあゴメン」
紫スーツの男もといイチジョウはワカバに軽い会釈程度の謝罪をした。

「なになにそれで謝ったつもりですかー!さっき貴様は初めてだから知らんだろうがっていってましたよね。初めてだからって!私また土下座させられるのかって思ってドキドキしたんですけど!・・・って1回もやってないわ!」
ワカバは不器用ながらも普段取らない揚げ足を取りイチジョウへ一矢報いた。

「まあ、そんなことも言ってたかな、ははは」
形勢はこれで完全に逆転したようだ。

「突然の出会い(4)」につづく(次回の更新8/19予定)


注釈

(※1)コンセプト:イラスト展といってもコンセプトによって内容は大きく変わります。アーティストにとってそれぐらい重要な確認を怠った罰を紫スーツ(男)は受けました。

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