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『聴けずのワカバ』(キャリコン資格取得編)-2

読了目安:約6分(全文2345文字)※400文字/分で換算

 場面変わって、ここは都内にあるギャラリー。今週末まで若手のアーティスト10名が共同で企画したイラスト展が開催されている。紫のスーツ(※1)をビシッと着こなした只者ではなさそうな雰囲気を醸し出しているひとりの男が展示された作品の前で真剣な顔をして眺めている。

「ヨツモトさん、相変わらず素晴らしい作品だ」
「ありがとうございます」
その作品を書いた一見すると近所のコンビニでバイトしていそうな何かフワっとした雰囲気の女性(ヨツモト)が声をかけた男(紫スーツ)にお礼を言った。二人はどうやら顔見知りのようだ。

「特に良いと思ったのは左下にある空白の使い方だよ。とても大胆な構図のように見える。でも何故ここを広く使おうと思ったの?」
「うーん、何でかな。感覚と言ってしまえばそれまでだけど・・・言われるまで全然気づかなかったよ」
「何だろうね?」
「うーん、・・・そういえば今思い出したけど、確かこの作品を書いた日にとってもスゴい出来事があったんだ!」
「とってもスゴい出来事って?」
「それはね・・・」

「ねぇねぇ、ヨッチャン!聴いて聴いて!!」
静かなギャラリーの中を騒がしい輩の叫び声が響き渡った。そのけたたましい声は、そうあのワカバである。

「ヨッチャン、ヨッチャン、聴いてよ~。また勉強会でヒドイこと言われちゃったよ」
「どうしたのワカバ、何があったの?」
ワカバは堰を切ったように今日遭った理不尽な出来事を語り始めた。紫スーツ(男)との会話が途中であったにも関わらず、ワカバは15分以上も話し続けた。

「・・・というわけで最後は危うく土下座までさせられそうになったんだから。半沢(※2)かって!まさか自分がさせられる側に回るなんて夢にも思わなかったよ」
「そうなんだ、それは大変な目に遭ったね」
涙ぐみながらワカバは「聴いてくれてありがとう!」と何度も彼女の手を握りしめてお礼を言っていた。しかし、紫スーツ(男)の我慢の限界はここまでだった。

「おい、貴様」
後ろを振り向くワカバ。
「おい、貴様だよ、貴様」
周りをキョロキョロ見渡すワカバ。
「この神聖な場所で貴様と呼ばれるようなヤツは貴様しかいないだろう」
自分を指差すワカバ。そして素に戻るワカバ。
(えっー、私なの?!このいろいろ厳しい昨今、前時代的な「貴様」っていうパワハラの代表格みたいなフレーズ使う人いるの?!いや、目の前にいるでしょ。マンガとかドラマでは見たことあるけど、まさか自分が言われる側に回るなんて夢にも思わなかったよ)

呆然としているワカバに紫スーツ(男)はさらに驚くような言葉を浴びせた。

「突然の出会い(3)」につづく(次回の更新8/18予定)

注釈
(※1)紫のスーツ:ファッションセンスは人それぞれです。決してぺこぱの松陰寺さんをディスっているわけではありません。
(※2)半沢:皆さんご存知の高視聴率を叩き出すあの国民的ドラマ。現在続編が放送されていますが、番組終了後に会計士の方や元銀行員の方がユーチューブで解説している動画が生々しくてお気に入りです。

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