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『聴けずのワカバ』(キャリコン資格取得編)-63~65(4月第4週)アップデート版

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あらすじと作者コメント

登場人物の相関図とキャラクター解説

元試験委員の功罪

 「あなたは私を一体誰だと思っているんだ」
 代表はイチジョウを見下すかのように問いかけた。

 「誰って、知らん」

 「そうでしょう。あなたは無学で無教養のようだから、教えて差し上げましょう。私は元試験委員なのですよ」

 「何、試験委員だと。だからそれがどうした」

 「本当に何も分かっていませんね。試験委員を経験しているということは試験制度のことも合格基準に関する評価項目のことも全て知っているということなのですよ」

 「まさか・・・」

 「そのまさかです。ここにいる受験生の皆さんには特別にそのノウハウをお伝えしているのです。そのメリットを皆さん期待してこの勉強会に参加している。元試験委員でもないあなたにそれができますか」

 「いや、出来るかどうかの前に、大丈夫なのかサオトメさん」
 イチジョウはこの手のことには誰よりも詳しそうなサオトメへ確認を試みた。
 
 「イチジョウさん、先ほど話した倫理綱領にはその旨の記載はないのだよ」

 「試験委員が試験に関する情報を漏洩するような罰則はないということか」

 「残念ながら現状ではその通りだ」

 「あれだけ受験生には試験期間中の情報漏洩を徹底していながら、何だよこの有様は。主催者側は何でもありなのかよ」
 悔しい思いを浮かべるイチジョウをあざ笑うかのように代表が語りかける。

  「これでようやく分かりましたか。罰則などというまた大風呂敷を広げてくれたものです。ここに参加している受験生は皆、他の勉強会では得られない特別な情報を共有しているのですよ。そしてもちろんですが、一切誰も悪くない。さあ、そろそろここからご退出願おうか」

 イチジョウが悔しがっているのを見かねて、サオトメが代表にこう言った。

 「確かに代表のおっしゃる通り、倫理綱領にも書かれていないことを持ち出されても迷惑千万。でもイチジョウさん、諦めるのはまだ早いですよ。よく思い出してください」

 「サオトメさん、一体何を・・・倫理綱領にも書かれていないのに、あとは・・・あっ、そうか」

 「イチジョウさん、そうです。思い出しましたか」

 「2019年の1月に発令された『キャリアコンサルタント養成講習の基本姿勢についての共同声明文』か」

 「あれから二度ほど改定されて今は2021年2月25日の更新が最新版ですがね」

 「さすが『歩く広辞苑』のサオトメさん、ありがたい。確か、『二 誤解を与えない広告宣伝のあり方』に書いてあったな・・・なんだっけ」
 言語的追跡にかけては誰にも負けないイチジョウも公式とはいえ、共同声明文の全文を暗記しているわけもなく、困惑していた。その姿をみたサオトメが助け舟を出す。

 「『③ 養成講習所定の時間内に専ら試験対策のための時間がある旨の広告宣伝や、講師が元技能検定委員又は元キャリアコンサルタント試験委員であることを強調し て講座の有効性を示唆するような広告宣伝は、これを自粛する。』だったかな」
 意気揚々としているサオトメをみたワカバは初めてこう思った。
(今日のサオトメさん、やるじゃん。何かカッコいいなー)

 その一言で会場がまたざわめき始めた。しかし代表がまた我々を冷笑するかのように話しかけた。

 「は・・・呆れましたね、サオトメくん。そんな話を持ち出すとはね。
でも、そんなことは言われなくても最初から分かっているんですよ。サオトメくん、もう一度先ほどの一文を読み上げてくれるかな」

 「はい、『講師が元技能検定委員又は元キャリアコンサルタント試験委員であることを強調して講座の有効性を示唆するような広告宣伝は、これを自粛する。』のところでしょうか」

 「いや、その前のところだよ」

 「前というと『養成講習所定の時間内に専ら試験対策のための時間がある旨の広告宣伝や』で宜しいでしょうか」

 「うん、そうだね。何か気がつかないかね」

 「何かというと・・・」
 考え込んでいるサオトメをみて、イチジョウがハッとし、声を発した。

 「そうか・・・」
 悔しい表情を浮かべるイチジョウをみて代表が語りかける。

 「ようやく気づきましたか。そうなんです。この共同声明文は養成講習実施機関と登録試験機関が連盟で出しているのだよ。
 代表はイチジョウを追い詰めようと言葉をつなげる。

 「つまり、我々が主催しているような勉強会は対象外というわけだ。お分かりかな」

 「くっ・・・」
 考え込んでいるイチジョウがサオトメに声をかける。

 「そういえばサオトメさん、確か前文に何か書いてなかったかな」

 「ああ、ここかな。『一方、資格取得熱の高まりの中、国家試験対策テクニックの伝授を謳う団体や個人が市場に数多く参入し、これと並行して顧客企業やクライアントからキャリアコンサルティングの質や資格者の適性を疑問視する声があがっていることに、深い憂慮を禁じ得ません。』とは書いてあったね」

 「ありがとうサオトメさん。まさに国家試験対策テクニックの伝授を謳う団体ってのがここの勉強会のやり方に該当するんじゃないのか」
 一矢報いることができるかもしれないとイチジョウが代表を問い詰めた。

 「はあ、何も分かっていませんね。だから何度も言っているでしょう。これは全て養成講習実施機関と登録試験機関が対象になっている。我々の勉強会が署名でもしているんですか。連名に名前はありますか。どうなんです!」
 今度は代表がイチジョウを追い詰めている。

 「・・・そうだな。確かにそうかもしれない。ただ、この受験テクニックを謳うやり方がこれまで様々な勉強会で横行し、キャリアコンサルティングの現場でクレームが出ているということにつながっているんじゃないのか!」
 負けじとイチジョウも理論で代表を追い詰めようとするが、確信犯の代表には何を言っても通用しなかった。そして、代表がさらにイチジョウを追い詰める。

 「あなたは全く受験生のことを分かっていないようだ。受験テクニックを謳っていることをここに来ている皆さんは理解したうえで参加しているのですよ。そんなことすらあなたは分かっていない。需要と供給の関係なのですよ。求められているから提供している。それの何が悪んですか!」
 うつむいているイチジョウに代表がさらに追い打ちをかける。

機会費用とサンクコスト効果①

 「ここにいる皆さんはこれまで高い養成講座の費用と長時間かけて学んできた。さらにその後、こちらの勉強会へ参加し、貴重なご自身の時間を使って学習に励んでいるわけです。しかも、非常に安価な参加費だけで他の勉強会では聞けない試験官ならでは情報も提供している。そのうえ、成果を出せない受験生には別の勉強会を紹介し、アフターフォローの体制も確立されている」
 雄弁に語っている代表の話を聞いてワカバは自分が最初に参加した勉強会で言われたことを思い出していた。

 (ああ、今思えばあの通い放題とかいうサブスクプランもそのひとつだったのか。それをアフターフォローって言われてもなー)

 「だから受験生の皆さん、ここに定期的に通っているわけです。もちろん私は他の勉強会や別の講師に乗り換えることを禁止しているわけでもありませんよ。皆さんの自由意志を奪うような真似は一切していない。キャリコン風にいうなら、受験生の自己決定権を尊重しているのです」
 ひとり語りで悦に浸っている代表をみて、ワカバは思わずこう言ってしまった。

 「あれっ、定期的に通っているってことは、なかなか合格できないってこと?」
 あまりにも確信をついたワカバの言葉に代表は驚き、苛立ちをぶつけた。

 「もう、あなた達は一体何者なのですか。定期的にというのは、そういうことではありませんよ!キャリコンを目指しているのに空気も読めていない。そんなことだから、あなたこそ合格できていないのではありませんか!」
 
 「あっ、そうでしたか。すみません。勘違いしました」
 代表に詰められ、平謝りするワカバを見て、イチジョウが会場の受験生に質問をした。

 「いいか、この中で今回が初受験だというものがいたら、手を上げて欲しいのだが」
 イチジョウの問いかけに会場の受験生は皆うつむいてしまい、誰も手を上げようとはしなかった。

 「だろうな。皆さん失礼な質問をして申し訳なかった」

 「おっさん、なんでそんな質問したのさ」

 「いや、受付の時に参加者リストみて、チェックしていたろ。その時に『受験回数』って項目があったんだが、『1』という受験生が一人もいなかったのが、気になっていたんだ。」

 「さっすが、おっさん、細かいねー。よく見てたよ、そんなところまで」

 「ほとんどの受験生が受験回数『3』以上になっていた。つまりさっき親方が言った『なかなか合格できない』というのは、おそらく正しいのだろうな」

 「また、誹謗中傷ですか、それとも言いがかりですか。それは、たまたまでしょう。今回の参加者の中に初受験の受験生がいなかった、それだけです」
 代表が取り繕うように説明すると、今度はサオトメが語り始めた。

 「確かに代表のおっしゃる通り、今日はたまたま初受験の方がいないだけで、いつもは少なからずいらっしゃる。ただ、合格が難しいというのはあながち間違いではない」

 「サオトメくん!自分が何を言っているのか分かっているのですか!あなたもこの勉強会を愚弄するつもりなら、本当にここから出ていってもらいますよ!」

 「いえ、代表そんなつもりは・・・私はただ、正直に現状を伝えたかっただけで・・・」
 代表の標的がサオトメに変わったのを見兼ねて、イチジョウが語りだす。

【出所】
キャリアコンサルタント養成講習の基本姿勢についての共同声明文

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次回の更新は2023/4/24予定です

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