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ダブルバインド(二重拘束)とダチョウ倶楽部

4月~7月の3ヶ月でキャリアコンサルタント更新講習ブリーフセラピー入門のご受講者が200人を超えました!
たくさんの方にご受講頂きうれしい限りです。
今回のコラムは、ブリーフセラピー入門の中村 武美講師にMRIの技法である
ダブルバインドについて解説頂きました。

ダブルバインド(二重拘束)とダチョウ倶楽部

8月になりました。酷暑とコロナで辛い日が続いていますがいかがお過ごしでしょうか。
今回はブリーフセラピー入門の冒頭で少し触れているダブルバインドについてです。

「ダブルバインド(二重拘束)」はご承知の方もおられるでしょうが、文化人類学者のグレゴリー・ベイトソン(マーガレット・ミードの元夫)が提唱しました。
これは当時、統合失調症の発生のメカニズムとして発表され「統合失調症の理論に向けて」という論文になりました。
この論文に刺激を受けたポール・ワツラウィックやドン・ジャクソン、リチャード・フィッシュ、ジェイ・ヘイリーなどの心理学者や精神科医がMRI(Mental Research Institute)に集まって研究プログラムとトレーニングを開始したのがMRIアプローチの源です。
なお現在、ダブルバインドは統合失調症の発症機序としては否定されていますが、ベースにあるコミュニケーション理論はさらに洗練されて現在でも家族療法・短期療法の基本になっています。

ダブルバインドは次のようなメカニズムで成り立っています。

1 2人以上の人間のうち1人が被害者となる。家族でいえばダブルバインドは母親・父親・兄弟姉妹もそれ(加害者)に加わる。
2 繰り返される経験。ダブルバインドは被害者に対して繰り返しなされ、習慣的期待となる。
3 第一次禁止命令。「~をしてはいけない、さもないとおまえを罰する」、または「もしおまえが~をしなければ、おまえを罰する」この場合、被害者は報酬を求めるのではなく処罰を回避して行為を選択する。
4 より抽象的レベルでの最初の禁止と衝突する第二次禁止命令。第二次禁止命令は非言語的なメッセージで伝えられる。
同時に第一次禁止命令を侵害する。具体的には非言語的であるので表現が難しいが「これを罰として見てはいけない」「私を罰する人して見てはならない」「私の禁止に従ってはならない」「おまえは自分のしてはならないことを考えてはならない」「私の発言に疑問を持ってはならない」等々。
5 被害者がその場から逃れるのを禁ずる第三次禁止命令。これは事実上その場から逃れる可能性を封鎖する。

ややこしいですが、こういう流れです。
ある人間が他の人間に、お前は何かをすべきだと伝え、同時に別の次元でそれをすべきでないその反対のことをせよ、というメッセージを発する。
そしてそこから脱出することを封鎖される。このような状況がダブルバインドです。

簡単な例は次のようなものでしょう。

パワハラ上司がいる。
パワハラ上司からは「しっかり仕事をしろ。成績を目に見える形で出せ」という一方で「ノー残業デーは定時に帰宅せよ(しかし成績は達成しなさい)」「ワークライフバランスは大事だから有休はしっかり取得せよ(大事な時期に休むなどもってのほかだ、わかってるだろうな)」。
この状況で家族を養っていかねばならないので転職も退職も休職もできない、といった場合はダブルバインドの状況に置かれていることになります。

これを逆に利用しているお笑い芸人がダチョウ倶楽部です。上島竜兵さんがプールや川を前にして、前かがみの姿勢で他のメンバーに「押すなよ、押すなよ」と言っているシーンを見た人は多いでしょう。この時上島さんの発しているメッセージはこちらです。

1 「押すなよ」と言っているのだから、押してはならない
2 「押すなよ」と言っている状況で押してプールに落とされてずぶ濡れになって笑いが
取れるのだから、メンバーは必ず押さねばダメだぞ、押さない選択肢はないからな
3 テレビ収録でこれは仕事だから、仕事を投げ出すなんて絶対にできないぞ


メンバー2人は見事に上島さんのダブルバインドに捉えられて「押しても押さなくても上島さんから怒られる(ことで笑いを取る)」という状況になっています。


MRIではこれを治療に利用しようと考えました(治療的ダブルバインド)。

これは例えば次のようなものです。

「ゲームをする子供がいて、親がやめなさいといっても聞き入れない。なんとかゲームをやめさせたい」という場合は、治療的ダブルバインドでは親に対して「子供にもっとゲームをさせるように。ゲームをやめて友達と外で遊んではいけません、と言って下さい」という指示を出します。
もし子供がこの指示に従ってゲームを続けた場合は「親のいう事を良くききいれる良い子だ」という意味づけがされ、指示に反してゲームをやめて遊びにいくと「ゲームをやめさせる」という目的は達せられたことになります。

これが治療的ダブルバインドの基本的な考えで現在も利用されており、SFA解決志向アプローチにはない独自のアプローチとなっています。

中村 武美
キャリア インテグラル 代表

参考文献 中村雄二郎「魔女ランダ考―演劇的知とは何か」岩波現代文庫


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