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著者で見るSCP(EN編)

これはなかなか知られていないことかもしれませんが、SCPにはそれを書いた著者が存在します。この記事では、面白い記事を読むためのコツとして「著者から記事を選ぶ」を提案します。

ありとあらゆる物事がそうであるように、この方法にはメリットとデメリットが存在します。メリットは、自分の趣味に合う記事を書いた著者は次も同じテーマで書くことが多いことです。また、作者にしか出せないシリーズ作品やカノン作品があるならば、その著者に注目するのも良いでしょう。一方で、一つの著者だけではSCPの世界観の広がりを掴むことができないというデメリットもあります。共同創作ですから、カノンにせよ、普通の記事にせよ、一つの著者が表す記事より全体の流れの方が遥かに大きい設定群を保持しています。また、単にvoteポリシーで著者を理由にした投票が禁じられているというのもあります。

しかし総じて、面白い記事を掘り出す手段としては良い方法であると思います。SCPは共通の設定を有しているからこそ、著者ごとの差が浮き彫りになっていきます。そこに味を見出すのも一興です。

(文体700字をやったことがある……? 著者娘? 何を言ってるんですか。警察を呼びますよ?)

"恐怖の王道" djkaktus

代表作は、SCP-2316 - 校外学習やSCP-049 - ペスト医師でしょうか。前者は「私は水中の死体に見覚えがありません」という文言で有名ですね。後者は、初期の作品でSCPを知らない方にも伝わるかもしれない超有名どころです。

SCP-2316

作風としては、人間を超えた、理解の及ばない恐ろしい怪物を真正面から描写しているところが挙げられるかもしれません。校外学習の理解の及ばない強迫観念には「古いTRPGっぽい設定」や「クトゥルフ神話っぽい感じ」などと近しいものがあるでしょう。個人的には、アリ・アスター監督のような恐しさの観念を持っていると思います。人間を超えた非人間への恐怖をど直球に描いていて、逆に人間が好きで好きでたまらないんじゃないかと思ってしまうほどです。一方で、SCP-3521 - 強制的バナナ等価線量 by dadoやコードネーム: シメリアン/カクタス"財布の紐が壊れたる神"のように、陽気なユーモラスさも携えています。そこもまたテンプレなアメリカ映画っぽい。ホラーに対して王道かつ真摯で、アメリカっぽいENを見たかったらおすすめの著者です。

djkaktus氏の作品は、後年になるにつれて重厚な設定を孕んでいきます。人智の及ばない怪物への恐ろしさを残しつつも、設定を増やす手腕がすごいです。財団もそれなりに異常な奴らなので、クトゥルフ的な事件に遭遇してもなんか細かい事情がわかってしまうんですね。その点、王道の進化をしたのがdjkaktus氏の記事であると言えるでしょう。SCP-3000 - アナンタ・エーシャは、財団の記憶処理が実は人智の及ばない怪物から生まれたものであるという設定から始まっています。これまで特に設定のなかった記憶処理に新たな解釈を与えたのが実に見事で、共同創作の面白さを感じますね。SCPでは、「あの財団の技術の由来は〇〇だった!」「あの記事の日本では実は東京が滅んでいた!」など設定の後付けが公然と行われています。

SCP-4840 - 魔性のランスロットと空中都市アウダパウパドポリスでは、アベルやカインといった初期の作品群を全て後天的な伏線にしてしまう大立ち回りを見せています。この記事に連なるシリーズ「プロジェクト・パラゴン」は、人類や文明、知性の起源である存在を巡る、言うなれば大河ホラーです。神が大洪水を起こす前に残っていた神秘、古代の人類同士の争い、暗黒を統べる王アポリオン! djkaktus氏の「ホラー」も「設定」も詰める性格が大いに出たのがこのシリーズでしょう。

氏の作品はSCP読書ノート様がまとめていました。こちらをご覧ください。

https://scpnote.com/scp-works-by-djkaktus/

"冷徹の感情" Tanhony

代表作は、SCP-1437 - ここではないどこかに続く穴、SCP-3127 - 19歳のジェシカ・ランバートと異常な大きさの豚よ、永遠になどどしょうか。たまたま読んだ面白い記事がTanhony氏の著作であることが多いことから、評価の高い記事を平均して迅速に出し続ける才能の持ち主と評価されています。一部の人たちの間では、頻繁に彼の脳細胞が必要とされています(神絵師の腕のようなニュアンス)。

作風としては、職務に対して誠実な財団職員を描きつつも人間としての弱さから目を逸らさない豊かな心情描写が挙げられるでしょうか。職務と人間性の間で揺れる心情を報告書の形式で丁寧に書いています。タンホニーの提言 - 死せる者たちでは、アノマリーによって不死になったO5評議会を道徳的な理由によって解任する人間の話が書かれています。二つに割れて革命される財団の状態は、現場の人間が葛藤する状況そのものです。財団職員は、冷徹であることを求められますが人間である以上完璧にはなれません。その矛盾を表すことが非常に上手いです。SCP-3936 - 職務に忠実であれでは、世界が全く異なるものになっても職務に忠実であった財団職員の集団自決を描いています。財団職員は、もし「正常」が自分の側になければ、自決する覚悟を秘めているということですね。

Tanhony氏は無機質の中に微熱を見出すのが上手いと思います。確かに無機質だが、ほんのわずかに、実は揺れている。それこそが氏の中心的なテーマであると思います。個人的に筆者が好きなのは、SCP-4183 - 自動収容プロトコルです。Tanhony氏が微熱を見出すのは、冷酷である財団職員だけではありません。SCP-4183でTanhony氏が眼差しを向けているのは、3機のドローンです。おすすめの紹介動画があるので、そちらも見ていただきたいです。


報告書で物語を書かなければいけないことは場合によっては大きなハンデとなります。感情的な描写は困難な上、既知のことしか書けないので未知の恐怖を表しづらいです。しかし、Tanhony氏はそれを軽々とクリアしています。SCP-4183は、報告書だからこそ書ける悲哀を描いていると思います。

SCP-5000 - どうして?は、既知のものしか書けない報告書で未知のものしか書かないというチャレンジングな試みです。ある時財団が人類に宣戦布告し、滅亡させます。その理由がわからず混乱する中、あらゆる外部の影響から着用者を守る“絶対的除外ハーネス”を着て旅をする男の話です。装備の効果によってあらゆる効果から男は守られていますが、目に映る全ての光景の意味がわかりません。男は財団職員でしたが、財団職員が一般人を大量虐殺する理由に思い辺りはありません。収容を旨とする財団がわざわざ怪物を解放して、何をやりたいのか。「どうして?」という気持ちがこだまする名作です。

djkaktus氏とは別の意味で王道です。暗闇の中に一つだけぼんやりと存在する灯り萌えがある人に是非ともお勧めしたいです。

氏の作品もSCP読書ノート様がまとめてくださっていました。こちらをご覧ください。

https://scpnote.com/scp-works-by-tanhony/


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