見出し画像

ベルゴジャポネーズ『モモ』2


モモの幼馴染のサラが家に遊びに来た。今は春休み。去年夏に会ったときよりも、一段と背がスラーッと高くモデルさんみたいになっててビックリ。何気に隣に立ってみたらサラの腰が私の胸の高さまである。日本人の血が入ってるモモとサラが並ぶと、全学年で一番のチビとノッポのコンビみたいでかなり笑える。
スペイン人のサラのママ手作りのスペイン風オムレツ『トルティーヤ』をお土産にいただいたので、ホカホカのトルティーヤを囲んで皆でランチタイム。
トルティーヤを皆で頬張りながら、ここぞとばかりにティーンエイジとの会話を弾ませようとサラを質問攻めにした。
ママは元気?コロナ中の生活はどう?オンライン授業はどんな感じでやってる?モモとサラは小学時代はずっと同じクラスだったけど、中学からは 別々の学校になった。でもこうして休みになるとお互いの家に行ったり来たりして会う仲が続いてる。
「サラは将来何になりたいの?」
「小説家になりたい」と間合いを入れずにキッパリとサラが言う。「それに、私すごく働きたい。大好きな韓国に住んで、始めは、カフェとかレストランとかでアルバイトしながら、空いた時間に本を書くことから始めたい」とつけ加えた。モモは同じ食卓でこの話題とは全く関係なさそうにトルティーヤをもぐもぐと食べている。
そうだ、と思いたちコンピュータのフォトアルバムを開いて昔の2人のツーショットの写真を探し出して2人に見せてみた。
「うそーっ、この服のセンス絶対ありえないー!」
「オーマイゴ〜!!この髪の毛、死んだ方がマシ~」
「ひょえ~このカバンと靴の合わせかたはこの世の終わりー!」
たった5、6年前の自分たちの姿を見ながら、はしゃぐ。パソコンの画面越しに、携帯でパシャパシャ写真を撮りまくるティーンエイジャー。このくらいの年齢だと1年、いや半年でも別人かと思うほど、外見も中身もドンドン成長して変化する時期だもんね。
サラにはパパがいない。以前サラのママから聞いた話だと、サラが産まれて2ヶ月くらいの時にサラのパパは消えた。と言っていた。サラのパパが消えてから、ママはサラを育てるために必死で働いていたと思う。サラが小学校に入学した時に乳ガンが見つかって、手術、抗がん剤治療。そんな時期にサラとモモは出会っている。「サラは泣き虫で弱いけど、トーチャンいないし」と、小学生時代モモが私に言ってたのをよく覚えている。大好きな韓国に住んで小説家になるというサラの夢。韓国語もインターネットで独学をしているらしい。昔は泣き虫だったのに、随分大人になったねー。サラ。
太陽みたいな若者のエネルギーを十分にもらって妙に目も頭も冴えた昼下がり、そういえばモモが去年の夏くらいに「自分はまだ何になりたいかわからない」と言っていたのをふっと、思い出した。
「学校の友達と3人でお昼ご飯を食べながら喋っていたら、私以外の二人は将来何になりたいか、もうわかってて、一人の子は心理カウンセラーになりたいから今は学校の勉強をちゃんとやる。って言ってたし、もう一人の子は多分だけど学校の先生になるかな?って言ってた。私だけ何になりたいか、まだわかってないんだよ。」
「ふーん、みんな随分若い時から未来が見えててすごいねえ」と、14歳でまだわからないのがフツーなんじゃないの〜?と内心思いながらも、軽く受け身で返したと思う。
モモは普段あまり学校とか友達のことを話さないんだけど、たまに、こんな風に自分の中のちょっとした不安をポロッと見せる時がある。
自分じゃない他人と触れること。焦ったり、不安になったりと、自分の心が揺れるのは人間なら当たり前。少しずつ心が大人になってきたということだね。それは、ブランコを漕ぐレッスンみたいなものなんだと思う。ブランコに乗って何度も揺られながら、振り落とされない自分の軸を作っていけばいいんだと思う。モモは特に怖がりだから、最初のうちは怖くて、ギューと手に力を入れて落ちないように頑張ってしがみ付いてるかもしれないけど、段々そんなに握りしめなくても落ちない自分がいる事に気付いて身体の余計な力が抜けてくる。そしてある時に揺れてるブランコがまるで止まってるかのように感じるようになる。最初の頃にあった揺れてる恐怖感がなくなってるその時が「何かになる」ってことなんじゃないのかな?モモがやりたいことをやっていくうちに、このバランス感覚を身につけていけばそれでいいんだよ。
「ねえ、日本のスイーツ、いちご大福作るんだけど、二人とも手伝ってくれる?」
「うん、いいよ」
「じゃあ、手洗ってから始めよっか」
2人は滑るように階段をかけ降りてバスルームへ向かう。
部屋の窓越しに開花寸前の蕾をいっぱいにつけた八重桜の木がやけに生き生きとしたピンク色に映って見える。
つづく








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?