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9.がん治療でお悩みの方へ綴る《放射線》

日本の三大療法は手術・放射線・化学療法(薬物)で、簡単に表現すると、切る・焼く・盛るとなり、放射線療法は物理的に焼くことです。むかしむかしは直向2門照射[縦と横]という決められた範囲に四角く上から下まで(&右から左まで)放射線を通す装置しかありませんでしたので、残念ながら四角く囲った範囲の全層に放射線が体を貫通するために正常な組織も焼けてしまう問題がありました。

焼く訳ですから、一度焼けると元に戻ることはありません。焼き肉、しゃぶしゃぶ、肉が縮んで色が変わって引きつれますよね。生肉に戻すことはできません。これは火力によって数秒の出来事です。放射線照射は、この数秒で起こる変化を数年かけて焼けていくものだと思ってください。

照射した時はこんなものかと思うほど、あっけないです。ベッドに寝て、終わりましたと言われ、なにも感じないまま帰路につく。予定の照射が終わったときでも人体に変化を感じることは少ないでしょう。照射日は何となく怠さを感じるとおっしゃる患者さんはけっこういらっしゃいましたが、基本的にはなにも感じない、焼かれた感覚は無い。でも、その後でじっくりと、確実に焼けていきます。時間経過が遅すぎて気にならないだけです。

ということで、照射期間を終えたあとに後悔してもキャンセルはできません。扉が壊れたオーブンの中で料理が焼けていくのをだまって見ているしかない感じです。照射部位は、照射後の何ヶ月も、そのままじっくりと焼け続けていきます。そして、その照射部位に再発しても手術はできません。カチカチに線維化して摘出はできないばかりか、出血し易く、止血が困難です。照射部位の手術はできないと考えた方がいいでしょう。再照射も基本的にはいたしません。昔の直交2門照射はそんなでした(いまでも部位によってはやっているかも)。

そう、父が中咽頭癌になった時、選択肢は放射線のみで首回りに放射線照射の位置を決める四角いマーキングがされていました。連日照射に通っては直ぐに戻ってきました。癌は徐々に縮小し、寛解の状態となりOKとされました。しかし、唾液腺が全て焼け落ちて、唾液が一滴も出ない事態となりました。食べることが大好きだったのに味覚も一部失われたようで、人工唾液を使いながら苦労して食事をしていたのを覚えています。食事中に何度もむせ込みがあったので嚥下機能も障害されていたのだと思います。当時の自分は高校生くらいだったかな、ちゃんと状況を理解していませんでした。昭和の頑固オヤジらしく弱音は1度も聞いたことがありません。間近で家族が苦しむ姿を見てしまうと心に深く刻まれますが、医者になってしまうと三大療法をやるのが当たり前で、何が起こっても「仕方がない」と思っていましたね。。。 あ、話を戻さなきゃ。

なぜ分割照射されるのか? 一括照射すると命が危ないからです。やりたくてもできないので分割します。一括払いよりも分割払いが楽、みたいな。レントゲンを撮影するときにスタッフは逃げるように部屋から出て行くでしょ? 室内に入るスタッフはフィルムバッジを義務づけられています。国が危険なものと認定しているから管理は厳しくされます。レントゲン室の前に「放射線管理区域」が表示されているでしょう。対癌への照射量は検査の照射量の比ではありません。故に、無闇に受けるものではありません。

しかし、時台は変わりました。癌は焼けば必ず焼け落ちますが、正常組織は焼きたくない。そのジレンマを解消する機械と技術がここ数年で急速に発展してきましたので、放射線治療を無下にすることはもはやできません。

複雑な形状の癌も高性能な画像診断機器(CTやMRI)により3D(立体的)表示する事が可能となっています。360度、クルクル回して観察もできます。そして、どこから見てもその形だけに放射線を限局照射する医療機器があります。正常な組織、臓器を焼き切ることはほぼないと思っていいでしょう。半導体の進歩と演算計算能力の飛躍的向上という技術革新がそれを可能にしました。

それらは強度変調放射線治療(IMRT)という照射法です。ネットで調べてみますと、SBRT(体幹部定位放射線治療)、IGRT (画像誘導放射線治療)という、私の時代にはあり得なかった最新医療機器も出ておりますが、私には違いを説明できません。脳腫瘍にも同様の放射線機器がございまして、定位放射線治療(ガンマナイフ)という照射法です。小さめの原発性脳腫瘍や、転移性脳腫瘍に使われることが多いです。

これらの機械の性質を例えていうならば、太陽光を凸レンズで集めて焦点を当てると火を付けることが出来るように、集中的に当たったところにだけ焼ける感じです。焦点以外は影響が少ないので正常組織の損傷はほぼ起こらないと思っていいでしょう(この照射を受けた方の状況を見ているとそうでした)。要は必要度です。

焦点の当たった部位に放射線を照射すれば、必ず癌は焼け落ちます。ですから自分の病変に安全な照射ができるのかを放射線科医(その機械がある施設)に相談されることも大切だと思います。餅は餅屋ですので、経験値の高い専門医に必ず話を聞きましょう。

しつこいですが、
大切なことは、先ずはその専門の医師から話を聞くこと。
自分の状態に適応可能なのかどうか? を。

あまりにも腫瘍が大きくなると照射が難しくなったりします。例えば10cmの腫瘤がドーンとあると効果はどうなのか? 肺に1cmくらいのものが10箇所あったらどうなのか? 人により状況は千差万別。だからこそ、専門家に勝算を聞かなければ分からないのです。

中性子線、重粒子線という医療機器もございまして、昔は一発300万円の自費でしたが、保険でカバーされるようになった?のかな?それは施設や保険屋さんにご確認下さいませ(^^;)

放射線は恐い! という概念は取り敢えず脇に置いておきましょう。

出たら、打つ!

キノコみたいにそこここに出てくるのが転移ですので、その状況になったら、出たら打つ! という選択肢もありだと思います。役に立つ現代医療は活用すべし、です。

…つづく

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