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[短編]本当の友達

「これで終わりか…」
僕は心の中でつぶやいた。


ひたひたと雨の音がする。

高校最後の夏、部活最後の試合を終えた僕は帰路についていた。
なんというかとにかく蒸し暑い。
部活中も蒸し暑いが、今もとにかく蒸し暑い。

だいたい家が近いからって送ってくれないのは辛い。
部活というのは剣道なわけだが、防具を担ぎながら雨の中を歩くのは辛いのだ。
他のみんなは家が少し遠いからと顧問が車で送ってくれている。
いや、どうせ送るなら僕も送ってよ。と思ったがまぁバスじゃないし乗れる人数にも限りがあるし仕方がない。

はぁ、試合にも負けるし辛いことばかりだ。
涙を雨が流してくれると思えば心地いい、、、わけはなく、、、
こんなときあいつならなんと声をかけてくれるだろうか。


僕には本当の友達といえる友人がいる。
幼稚園時代からの付き合いだ。
といっても幼稚園の頃は仲が良かったわけではない。
ある時から仲良くなり、小中高と同じ学校でもある。
部活こそ違うもののいつも一緒に遊ぶような仲だ。

まぁ部活こそ違い、というかあいつは部活に入っていないが。

そんなこんなで今となっては本当の友達だ。



そういえば、ある時とはいつだったか。
確か雨の日だったような気がする。
ちょうど今日と同じようなひたひたと雨の音が響く日。

それまで仲が良かったわけでもない僕らがあの日を境にとても仲良くなった。

記憶がだんだんよみがえってくる。
あの日僕は一人で公園の土管で雨をしのぐ遊びをやっていた。
小さい頃って今じゃ考えられないような汚いところに入ったりするよね。

土管から土管へ、雨が弱まった隙に移動するというのがマイブームだった。
2つ目、3つ目、4つ目!
いや、土管何個あるんだよ、と今となっては思う。
あれはもはや公園というより土管置き場なんだろうか。

4つ目の土管に移動したとき僕は友達が妖怪に食べられているのを見た。
さらっと言ったけど友達が食べられていた。
ひたひたというのは食べられて流れ落ちる血の音…
ではなく、食べている妖怪の足音だった。


はっと我に返った時、雨はやみ、びしょびしょに濡れた防具を抱え疲労困憊の僕はひたひたという音を聞いた。

雨はやんでいるのにひたひた…
まさか、と思い振り返ると友達がいた。

あ、そうか友達は妖怪だから足音はひたひたなのか。なんて思いながら
「これで終わりか…」
僕は心の中でつぶやいた。



後日僕はインタビューでこう答えている。

食べられると思ったね。でも違ったんだ。
あいつは妖怪に食べられて、本当の意味ではあいつではないんだけど、僕にとっては本当の友達だったんだ。
あいつなのか妖怪なのかなんて関係ない。
妖怪だっていいじゃないか。
今目の前にいる人が大切ならそれはもう本当の友達なんだよ。

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