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VR恋愛はお砂糖の関係 ーお砂糖は海外から見ても珍しい恋愛観ー メタバース

10月にVRを購入してから毎日 VRの世界に浸ってもうすぐ5か月経つが、今まで見たことない世界を沢山「肌」で感じてきた。まるで留学のようだ。そこには現実のような世界ができていて人々のリアルな営みがVRで当たり前に行われていた。そんな中驚いたのは、「デート場所」である。私が初めて聞いたときは、現実世界で会っているカップルが、VRChat内でデートを楽しむものだと思っていた。だが実際はVRChat内で出会い、そこから恋愛発展してVRChat内でデートをするというものであった。

VRChatは何でもできる場所 

数あるVRゲームの中で、基本的な VR生活要素が整っているものとして有名なのがVRChat。過去に10年間も続いたアメーバピグや、昨年大流行したあつ森のように、アバターや各オンラインワールドを中心に人との交流を図るゲームである。VRChatでは、すべてが3D空間になり、そして自分の好きなキャラクターになって交流できる。VRChatでできることは、ワールド内で遊べる創作ゲーム以外に、VR飲み会、映画やテレビで見た世界への観光、忠実に再現された美術品の鑑賞など枚挙にいとまがない。プレイトラッカーによると、その総ユーザー数は7年間で1000万人に上り、最大同時接続数は4万人を記録した(2021年1月1日)。その後も常に1~2万の人が世界中から参加している。

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VR恋愛で性別は関係なく、個性や人柄が大事。

インターネットゲーム(通称ネトゲやオンラインゲーム)で恋愛が発展するのは、今ではもはや珍しいことではない。ネトゲから始まりオフ会などを通して恋愛発展するケースが多い。Googleで「ネトゲ 恋愛」と検索するとその恋愛アドバイスや経験が数多く転がっている。それらに共通している恋愛アドバイスが「直接会ってから告白しよう」というものだ。ネット上だとテキスト文字が中心になるせいか、付き合いたい相手の性別が分からないという。実際に、友人の話でもネトゲで親しくなったゲーム仲間が異性らしい名前を用いており、お互い気が合ったためリアルで歩み寄った結果、相手は同性だったという話もある。翻って、お互いの性的指向が合うと、国内では「あつ森」で遊ぶプレーヤー同士が恋愛関係に発展したり、海外では同ゲームで結婚披露宴をすることもありそれがBBCでニュースにもなった。

一方、VRChatでの恋愛文化はそのゲームシステムや遊び方により独自の進化を遂げてきた。VRでは、細部まで作りこまれたアバターのみならず、声や身振り手振りの動作など個人を形成する要素がより多く盛り込まれている。直接会わなくても、その人が目の前にいる状況をリアルに作り出せるのだ。そのため、VR上の恋愛関係を表す言葉も生まれた。それが「お砂糖」である。人間関係には友達、親友、恋人、家族があるが、お砂糖はその中の1つに過ぎない。名前の由来は定かではないが、「甘い関係」という意味がここには含まれている。

甘い関係から「カップル」を思い浮かべるかもしれないが VR恋愛では必ずしも2人だけの関係とは限らない。VRとセクシュアリティを専門とするポーツマス大学のメディア研究の上級講師であるトゥルーディ・バーバー博士は、「お砂糖の土台となるのはリスペクトだ」と説明している。そのため、当人が問題なくお互いのことを尊敬し、理解し合えているのなら、複数人と関係を結ぶことができる。そこには人数の壁はなく、日本の婚姻制度などを模した1対1ではない、VR独自の関係性があるのだ。

そして、そこには性別の区別もない。男女のお砂糖に限らず、同性のお砂糖も多いことがVR恋愛での特徴だろう。ネトゲでは、お互いが直接会って告白するケースが多いため相手の性別を確認する必要があるが、VRではすでに直接会っている感覚になるためかリアルで会うことが最終的なゴールではないことがほとんど。お互いがその後のリアルな恋愛を望むことがなく、ほぼすべてVR上で完結するのである。加えて、多くの人はアバターの姿やボイスチェンジャーを駆使しているため、性別の区別がつきにくい。そのため性別はこのVRChatではほとんど重要視されず、会話の中で現れた「人柄」がお砂糖関係を結ぶカギになるのだという。VR世界の恋愛はあくまで話して楽しい相手かどうかで決まるのだ。

その人柄は、様々なワールドで話していくなかで理解しあう。例えば、寝室などの静かで落ち着くワールドで2人きりで話してそのまま寝落ちする。まるで本当のカップルが夜中のLINE電話で寝落ちするみたいだ。ほかにも、ワールドによってテーマが分かれており、同じ趣味やイベントで意気投合することが多く、リアルの世界よりも簡単にお互いの関係を深くすることができる。その間に、この人の喋りが面白い、気が使えて優しい、など相手の人柄に愛情が芽生えるのだ。

つまり、お砂糖関係で大事なのは相手の見た目や職業、年齢、性別ではなく、その人の内から溢れ出る個性なのである。そしてアバターを介しているからこそ、実際の見た目や性別に囚われずその人自身を理解でき尊敬できるのだ。

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VR上でお互いを求めあう

ネットフリックスで配信されているブラックミラーというイギリス発のSFドラマをご存じだろうか。そのシーズン5:第1話「ストライキング・ヴァイパーズ」では、ある男の親友2人が近未来のゲームガジェットで格闘ゲームの仮想空間に行き、片方が女性キャラを使っているときだけお互いを求め合ってしまう。登場人物の男性2人は決してゲイではなく、それぞれ家庭をもったり新しい彼女を探している。だが、仮想空間に入って一方が女性キャラになるとお互いの気持ちが一転してしまうという話だ。VRという限定的な空間で起こる新しいジェンダー意識を絶妙に表現している作品だ。

性が錯綜するこの物語、まさにVRChatに置き換えられる。実際、お砂糖関係を結ぶなか同性であること以外に、多くのアバターで1つ共通点があった。それは「可愛らしい女の子」のアバターが多いということ。女性ユーザー数が少ないという理由もあるだろうが、イケメンなアバターやマッチョなアバター、動物のアバターを使っているお砂糖はあまり見受けられず、多くは女の子をベースにした小さくて可愛いキャラクター同士がお砂糖関係を結んでいる。VRChat上では既に「仮想世界のキャラクターを使っているときにお互いを求め合う」という独特の世界観が出来上がっていることに衝撃を受けた。

Twitterでは日々、お砂糖成立報告が行われている。「#お砂糖報告」と検索すると、そこではお砂糖関係を結んだという報告がズラリと並ぶ。それぞれ報告には「おめでとう!」や「お幸せに!」と複数人からお祝いコメントも付いていて、いくつかの日本人グループからお砂糖が誕生しているようだ。稀に、ネトゲと同じくオフ会などでリアルに会って付き合っていたり、結婚や妊娠の報告までもあった。その一方、これら報告の中で「プラべに行っても仲良くしてください」という言葉が添えられていたことに気が付いた。

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お砂糖になったらプラべに行く

基本的に、VRChatは様々なプレーヤーが一つのパブリック部屋に集まり、ランダムに振り分けられた人々と交流を図るが、プライベート部屋(プラべ)というものも存在している。プラべでは、ワールドの内装やシステムは同じでも、各個人が招待した人しか入室できないように設定できる。例えば、飲み会など特定の人だけを集めたい時だったり、少数人数でワールド内の世界観に浸りたい時などに用いる。このシステムを用いてお砂糖関係を持つ人は二人きりで交流を深めるのである。

実際に、私は2人のお砂糖がプラべに移動する瞬間を偶然見かけたことがある。男性の声の人がパートナーにどこのワールドに行きたいか尋ねてお互い少し悩んだ末、とある寝室ワールドへ姿を消した。まるで普段のカップルがショッピングモールで次のお店を探す時のような落ち着いた会話だった。移動先のワールドでは、人に言いづらい悩みを打ち明けたり、普段の何気ない相談をしたり、お互い頭を撫で合ったりして時間を過ごしているそうだ。

お砂糖という話を聞いてから「異性のアバターになる」ことに興味を持った。3Dで女の子アバターになるとはどのような感覚なのか、自分の動作も歌舞伎の女形のように変わってしまうのだろうか、自分の新しい性別に目覚めるのか。

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実際に女の子アバターになってみた

数少ない女性VRプレーヤー、なるさん(naru18)からのガイドで男性のみかんさん(mikan21)と私の2人で女の子の試着用アバターを着けてみた。すると形容しがたい感覚や気持ちに襲われた。みんなの前で女装している感覚になりどこか恥ずかしいけど、今まで「女子」になったことがないからかその目線になれることが新鮮で楽しい。髪の毛に触ると毛先が揺れてリアルだ。顔や服装など全体的にアニメキャラクターのようで現実の描写とはかけ離れているが、首や腕の関節や口や目のリアルな動きに魅了された。一人称視点で見る女性の腕、女性の指先、女性の服装など今まで縁もゆかりもない景色を思う存分に楽しむことができた。そこに自己の性別の変化を見つけることはできなかったが、鏡を見るとまるで自分自身が生まれ変わったかのように感じ、新しい「アイデンティティー」の在り方を考えさせられた。

さらに、女性アバターは自分だけでなく周りのVRフレンドにも影響を与える。私は女性アバターを試す前、フクロウであったり少し面白いコミック的な要素がある男性キャラクターを好んで用いていた。しかし、この女性アバターを試着して数時間経った頃、ガイドのなるさんに「男性陣が中性的になって柔らかくなった」と言われ、我々男性は目を丸くした。女性アバターになっていた時、普段の何気ない行動に紛れている女性特有の可愛らしい仕草がいつもより際立って見えたらしい。行動のみならず声も柔らかくなったように感じたというから驚きだ。メラビアンの法則のように見た目だけでも女の子になると言葉の受け取り方も無意識に変わってしまうのだろう。

以下の動画がその時の動画である。(40秒間)

海外のお砂糖はロールプレイが基本

VRChatの取材中、日本人プレーヤーが海外の人から妖精(Fairy)と呼ばれていることを知った。何故「妖精」かというと、日本人は小さくて可愛いキャラクターのアバターを使っており、海外プレーヤーが声をかけると英語が話せないためか無言ですぐ(別のワールドに)消えてしまうからだという。確かに、今までのネトゲであればテキスト文字で交流を図るため、言語を知らなくても翻訳機などを用いてすぐ返信ができる。しかし全ての会話が音声化したせいで言葉が理解できなかったり、理解できても発音を知らないため返答できなかったりと、VRならではの弊害が日本人の中で生まれている。

このように海外(主にアメリカ)から見る日本人のVRChat文化は特質的なものなのか。さらに言えば、このVR独特な恋愛事情は日本人だけなのだろうか。

実は驚くべきことに、海外にも「お砂糖」と似た文化がある。ある男女カップルのインタビュー記事によると、現実世界の恋愛と何も変わりないとのこと。双方とも出会いを求めてVRを始めたわけではなく、会話をしていく中でたまたまそうなったという。彼女曰く、関係ができると、お金を払わなくても様々なデートができて便利だが、時差など現実の生活に縛られたせいで過去のVR恋愛が上手くいかなかったケースもあったという。このカップルは浮気の定義が明確で、リアルの恋人とVRの恋人、どちらか一方を選ばなければ浮気としていた。しかし何が浮気かどうかはVRカップルごとにそれぞれ違うようだ。

日本のVRフレンドにこのVRとリアルの恋人に関する恋愛観を聞くと、「今の彼女にお砂糖がいたらそれは浮気だから嫌だ」という人もいれば、「自分は区別しているからリアル(もしくはVR)に恋人がいても気にしない」、「彼女にVR彼氏がいても全く問題ない」など意見が二極化している。

しかし、米国ではこのような恋愛関係はまだ少なくタブー視されている。このインタビュー記事もすべて匿名であり米国のメディア記事では大変珍しい。その理由は、お砂糖に関連する嫌がらせも多く、VRChat内で男性が女性プレーヤーになりきり、他の男性プレーヤーを騙しているとの情報があった。これにより、「女の子は罠だ」という印象も強く蔓延っている現状がある。これはVRChatのみならず他のゲームやサービスでも同様の事件が多く起こっているため、海外でお砂糖関係を結ぶことはまだまだ難しい様子だ。

(追記2021年3月12日)
取材を続けていると、実際にVR上で付き合っている国際カップル(アメリカ人女性と日本人男性)に話を伺うことができた。なんと、驚くことに婚約しているという。VR上で指輪も見せてもらったが、キラキラ輝いてお揃いのデザインがとてもよく似合っている(下の写真)。そんな彼らの出会いはVRChatから始まり、Discord(ゲーム専用SNSアプリ)を通してお互い顔や私生活を共有して仲を深めているという。しかし、それぞれの場所の都合により時差が激しく、毎日会えるのが数時間と限られており、当時の取材時も日本時間で深夜1時を過ぎていた。
日本のお砂糖文化を彼らに話して聞いてみると、彼らもその文化の存在は知っているもののまだ抵抗がある様子でリアルの恋人にはならずVR上に留まってしまう恋愛関係に疑問を抱いていた。
彼らにとってVRChatは単なるメディアの一種であり、リアルな出会い、リアルな生活をするための一つの手段に過ぎないのだろう。

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その一方で、Polygonというゲーム関連を取り扱う記事によると、海外のプレーヤーはVR恋愛を「ロールプレイ」という盤上で楽しむことが多くなっている。ロールプレイとはVRChat上で架空の人物になりきって(ほとんどの場合、即興の)演技をすることであり、VR中の家族、結婚、仲良しなどの関係は、ゲームに参加している間だけ「現実」となる。そのため、リアルの自分をさらけ出す日本のお砂糖とは全くの別物だ。その恋愛ロールプレイには熱烈なファンが数多くいて、有名なVRカップルの結婚式には8000人もの視聴者がライブ配信に集まり祝福したという。多くのプレーヤーがロールプレイの創作物をYouTube上に出しており、ジャンルは恋愛以外にもコメディーやアドベンチャーなど多岐にわたる。海外のVRChatは次世代の舞台劇場であり、それと同時に物語作家のための場所にもなっているのだ。

以上のことを踏まえると、海外のVRChatで結婚や恋愛をすることは、ほとんどの場合、ほんの数秒から数か月、または(非常にまれに)数年続く恋愛関係を持つ取り決めのようなものでしかない。ゲーム内だけのことだから、VR結婚をあまり真剣に考えないことが海外プレーヤーの中では暗黙の了解だという。

以下の動画はそのロールプレイ中の結婚式だ。飛ばし飛ばしで見るとかなりリアルで本当のカップルかと疑ってしまう。

次世代の恋愛観を生む世界

VRChatの世界では経済的物理的制約がない状態で、自分の理想の姿に生まれ変わり、自らコミュニティー形成に貢献し、自分自身と本当の意味で向き合うことのできる素晴らしい環境であることを知った。同時に、次世代の恋愛観を生む仮想空間に強い興味と期待を抱いた。

執筆 lluukkeeVR
協力 Ami Miyashita, naru18, mikan21, Knorr03

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