福内櫻子_選抜北九州_

私が特に女子長距離を応援する理由⑤

誰も興味のない連載の第5回

「応援する理由」はホントは第1回で終わってます笑

私の陸上ファン遍歴をたどっているだけなので、ますますみなさんには興味のない話が続きますがご了承ください。

今回は、いよいよ現地観戦がはじまります。

ちなみに第1回は → こちら

第2回は → こちら

第3回は → こちら

第4回は → こちら

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初現地観戦・序章

2015年1月。都道府県対抗女子駅伝で女子長距離を今後も猛プッシュしていくと覚悟を決めた私は、その翌週にいよいよ生の陸上(駅伝)観戦に出向くこととなる。

選抜女子駅伝北九州大会だ。

世間的には同日に行われる男子の都道府県対抗駅伝の方に注目が集まることもあり、かなり地味な扱いになっているとは思う。

実際のところ私も超地元で行われる大会であるにも関わらず、これまで一切興味を持っていなかった。もっと言うと、せっかくの日曜に交通規制を強いられる忌ま忌ましい大会くらいに思っていたくらいだ笑

それがほんの1年で、というか10月に杜の都駅伝を見てから3ヶ月を経ただけで、楽しみでたまらない駅伝に変貌していた。人は変われる笑

それにしても本当にこの年の選抜女子駅伝は豪華な陣容で、クイーンズ優勝のデンソー、都大路優勝の大阪薫英女学院、杜の都と富士山でともに2位、3位を争った大東文化大と大阪学院大といった魅力的なチームが集まった。

私ははやる気持ちを抑えきれず、大会前日の開会式にも足を運んだ。その年の開会式が行われたのはホテルクラウンパレス小倉だったと思う。いきなり汚い格好した中年が駆け込んでもつまみ出されるかもしれないと思い、わざわざスーツを着て出向いたのを思い出す笑

会場に着くとそれなりにお目当てにしていた選手たちを探し、「わー!野田さん(大阪学院大)や!」とか「福内櫻子(大東文化大)おった!横におる人も美人やけど誰??(宇都宮恵理さんだった)」「あれ?大東は4年生(智香子さんや絵理さん満理さん)来てないの??」「薫英もムセンビ来てねーなー」あるいは「ちょっと待って!石橋麻衣さん(デンソー)美人すぎる!!」といった感じに軽く興奮。そしてひと息ついてふと隣を見ると増田明美さんがいらしてたりで、「いや、ちょっと、マジで!?」と勝手にちょっとテンパったりもした笑

しかし結局のところこの頃はまだ大半の選手を識別できず、女子長距離に多少は詳しくなったつもりでいた自分を恥じる気持ちにもなった。当然まだこの頃は、どの選手にも話しかけたりできる状態ではなかった。ただ見て、ただ興奮するだけ笑

選抜女子駅伝・当日

いよいよ現地観戦。今までテレビでマラソンや駅伝を沿道から応援している人たちを見て「暇なんやな~」とか思っていたくらいだが、自分がその立場になっているというのがまだちょっと不思議だった。

もちろんこの頃はまだどの区間のどの地点で観たら効率よく動けるかみたいなことを考える余裕もなく、なんとなく知ってる選手がいちばん多くラインナップされていた2区の沿道で応援することに。

結構早く着きすぎて最初は沿道にもほとんど人がおらず「ここはコース外なのか?」と不安になったりもしたが、次第にゾロゾロと人が集まってきた。そして2区のコースは軒並み北九州市立高校(市高)の近辺ということにもなるため、市高の大応援団が現れてちょっとした太鼓のようなものまで打ち鳴らし始めるではないか。こうなればちょっとしたお祭り気分だ。

やがて大会の広報車が通りかかり、アナウンスで1区の状況を伝えた。

「九電工が先頭で2区に襷をつなぎ、(中略)高校の部の先頭は愛媛の八幡浜」

えっ!?

ここで軽い衝撃。高校の部はてっきり薫英と立宇治でガチガチにやり合う展開でしかないと思っていたのに、どういうこと?しかも須磨とか西脇とか興譲館とかでもなく、八幡浜??

後になって考えると八幡浜の1区・伊藤望(のあ)さんは後に大東文化大に進む実力者なわけで、これくらい走っても特に不思議ではない。でも当時の私はそんなことまるっきり知らない。やはり、無知を痛感することとなった。

そうこうしてると、とうとう先頭のランナーが。九電工のカプチッチ・セリー・チェピエゴ選手だ。セリーさんともなるとさすがに私もリサーチして頭に入っていたが、私の隣にいた男性2人組の会話からはこんな言葉が聞こえてきた。

「なんかガイジンが来たばい」

うーん。そうか。やはり特に駅伝に興味があるわけでもなくなんとなく沿道に立ってみた人にとっては、セリーさんもただの助っ人ガイジンということになる。この点においては、事前に予習して知識もある自分の方が駅伝を楽しめているなと実感できた。

ちゃんと予習した上で観れば、駅伝は何倍も楽しいのだ。

このことは何度も何度も発信していくべきだろうとも、あらためて思った。無論、その前に自分の知識をしっかりと増やすことの方が先ではあるのだが。

その後、デンソー・石橋さん、大阪学院大・野田さん、大東文化大・小枝さんらお目当てにしていた選手たちが続々と通過していく。でも結構みんな一瞬で通り過ぎていく感じで、「お?あれ誰??あー!石橋さんだ!えっと・・」といった具合にどんな声援を送ろうかと考えているうちにもういなくなってしまう。

意外に沿道応援も難しいものだ。

なにかと教訓も多い現地観戦デビューとなった。

真打ち・福内櫻子登場!

そんな感じで瞬く間に2区の沿道観戦を終えた私は、あとはのんびりとアンカー区間に向かった。なにしろアンカー区間では、いちばんのお目当てである福内櫻子さん(大東文化大)が走る。

どのあたりで観戦しようかと結構迷ったが、なんとなく楽しそうなTOTO本社前を選んだ。そこには半ば強制的に召集されたのであろう、TOTOの一般社員の方々が大勢集まっていた。しかしそのTOTO応援団に無理やりやらされてるような悲壮感はなく、みんなで恒例の年中行事を楽しんでいる和気あいあいな雰囲気だ。

先頭で九電工の宮﨑さんがやって来た。TOTOの応援団は、あたかも自社社員であるかのごとく、「がんばれーー!!」と声援を送る。

2区の沿道ではなんだかうまくタイミングもつかめなかった私だが、ここではTOTO応援団のみなさんに紛れる感じで「がんばれーー!!」と私なりに声を張って叫んでみた。

何これ?気持ちいい!

とにかく、よくわからないがスカッとした。よくよく考えたら、普通に生活している中でいい大人が屋外でおもいきり大声を出すこともそうそうない。この非日常な行動が、私の中の眠っていたスイッチを押したようにも思えた。

そう。非日常。この感覚は結構大切で、たとえばプロ野球チームの応援のために足繁く球場に通う人たちもある意味では非日常を求めてスタジアムに向かうのではないだろうか。日常の自分を忘れ、不特定多数の人たちと一体感を持ち声を出したり踊ったり。

スポーツは自らプレイするだけでなく、応援することでもストレス解消につながり健全な心を育成する。

ちょっと大げさだが、そのようなことにも気づいた瞬間かもしれない。

話しを戻そう。

続いて、デンソー・光延さん、薫英・加賀山恵奈さんらが通過する。なんか楽しくなった私は、ちょっと冒険して「恵奈ちゃん、ファイトー!」と叫んでみた。面識も何もないくせに、なんか恥ずかしい気もしたが、やはり声を上げて応援するのは気持ちよく、楽しかった。

しかしだ。もう次こそは、次こそはと待っていた選手がまだ来ない。

そう。福内櫻子がまだ来ない。

そこから何人も目の前を通過していき、実際のところはせいぜい3分くらい待っただけなのだろうが、ものすごく長い時間待った気がした。ようやく、ライトグリーンのユニフォームを身に纏い遠巻きにも明らかに美人とわかる選手が目に映る。

「櫻子さーーん!」と一声かけたとは思うが、あとは何も言えなかった気がする。そう。やはり実際に超絶な美人を目の前にすると、相手が走っているとはいえ緊張してしまったのだ笑

その瞬間を長く待った割には、それは本当に一瞬で終わった。

初の現地観戦を終えて

櫻子さんを見届けた後、ゴール地点である北九州市役所へと向かった。そこには走り終えた選手たちとともに、いろんな関係者や知り合いと思われる人たちでごった返している。どうやらこの駅伝をもって現役引退するという選手もいたらしく、花束を抱えて涙している光景も見られた。

私はやはり誰かに話しかけたりする勇気は持てず、そそくさと会場を後にした。この日にあったこと、感じたことを思い返しながら歩いていた道すがら、紫川のほとりで一人黙々とジョグする選手が目に留まった。ジャージには神村学園と書いてある。高校生か。

見渡せば他の高校生たちは大会を終えた解放感からニコニコ談笑したり支給されたお弁当を食べる準備を始めたりしているというのに、その選手はひたすら黙々と走っていた。やはりこうやって高校生のときから意識高く競技に打ち込む選手というのが大成していくのだろうなと思った。少し後になってわかったのだが、その彼女とは野添佑莉さん(現三井住友海上)だった。

帰宅後あらためてリザルトを眺めていた私は、また新たな発見をする。

今となっては当たり前のようにも思えることなのだが、当時としては結構衝撃的に思えたこと。

それは、実業団や大学の選手よりも速いタイムで走っている高校生がわんさかいるということだ。

たとえば3区(5.1km)を見てみよう。一般の部の区間賞はデンソーの岡さんで、タイムは16分57秒。対して高校の部の3区(一般の部と同距離同コース)の区間賞(立命館宇治の安藤さん)は、16分31秒。区間2位の前田梨乃さん(薫英)も、16分47秒で走っている。

もっと驚いたのは2区(5.9km)で、一般の部は区間賞のセリーさん(九電工)は置いといて、区間2位で野田さん(大阪学院大)が19分09秒、区間3位で石橋さん(デンソー)が19分17秒と続く。野田さんは杜の都でも富士山でも圧倒的な強さを見せつけていたし、石橋さんもクイーンズ駅伝ではアンカーを務め優勝のゴールテープを切っている。そんな二人を差し置き、高校の部の区間賞・嵯峨山さん(薫英)は19分05秒を記録していた。

そうか。そういう世界なのか。

競泳なんかでは、高校生が五輪の日本代表になるようなことも当たり前だしもっと言えば昔の岩崎恭子さんのように中学生が五輪で金メダルを獲得することもある。しかし陸上でも高校生が大学生や社会人の一線級を凌駕するようなことがあるとは正直あまり思っていなかった。ましてや経験や練習量がものをいうかと思われる長距離でも、こんな現象が簡単に起こっているというのが当時の私にはちょっと飲み込めなかった。そういえば都道府県駅伝でも高校生が区間賞獲ったりはしていたなーとは思ったものの、あくまでも混成チームの中で紛れが生じた場合か、本当にごく一部の「スーパー高校生」みたいな存在だけが成し得る偉業のようにしか当時の私はとらえていない。

しかし実際のところは、ズバ抜けたような存在までいかなくともそこそこ力のある高校生なら実業団選手と対等かそれ以上の結果を残せている。

かくも厳しき女子実業団の世界

これはもうちょっと後になって実感したことだが、個人差はあるものの高校生のときの自己ベストが競技生活のキャリアハイだったという選手はかなり多い。大学や実業団で競技を続ける選手の多くは、インターハイ等で華々しく活躍した過去の自分を懐かしみ、それを超えられない自分との葛藤の日々を過ごしている。

特に何も考えなくても走るたびに自己ベストを更新できていたような伸び盛りの自分が確かにいたはずなのに、今はどれだけ考えても苦しんで練習を積み重ねてもあの頃の自分の記録に遠く及ばない。そうやってもがいているうちに、故障を繰り返すようになる。

そうやって自信を失い、負のスパイラルに陥っているのだろうな。そう思われる選手に気付くのは、辛いものがある。

これがまだ大学生だと救いがあると言うと語弊があるのだろうが、いわゆるキャンパスライフは楽しく、気分を紛らわす機会も少なくはない。また早めに競技生活に見切りをつけて教員免許を取得することに力を注ぎ、指導者になることを目指す方向にシフトチェンジすることも可能だろう。

しかしこれが高卒の実業団選手となると、ちょっと事情が違う。1年目2年目で結果を出さないといつクビを切られるのかという不安が常にあるし、故障で走れない期間が長引いたりすると、自分の存在意義を問うようになる。真面目な選手になればなるほど、故障で練習もできていない自分が毎月きっちりとお給金をもらっていることに負い目を感じることもあるだろう。そうやって寮の部屋に一人籠って思い悩んでは精神を病み、志し半ばにチーム(会社)を去る。そういう選手も少なからず見てきた。

そんな厳しい世界なのだ。そういう厳しい世界に身を投じている若い選手たちだからこそ、輝いている瞬間を見逃したくはない。仮に競技者として輝きを放つ舞台にさえ立てていない選手であっても、もがき苦しみ頑張っている姿をきちんと見守っていたい。その厳しい世界で頑張っていた証を、そこに存在していたという意義を私の記憶の中に残しておきたい。

そういう思いが強くなっていったことも、私が実業団選手を中心に女子長距離を応援している大きな理由の一つである。

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選抜女子駅伝の観戦記からこんな踏み込んだ内容にまで発展させる気はなかったのですが、久しぶりに「応援する理由」に辿り着いたので結果オーライということにしておきましょう笑

不定期ながら連載は続ける予定なので、よろしくお願いします。


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