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チョークに変身した蝶

樋口直美さんの著書「誤作動する脳」を拝読。
タイトルに興味を惹かれて読み始め、最初は脳の不思議に好奇心さえ覚えて読み進めていたのですが、きっかり100頁を越えたところから壮絶な体験を受け止めるのに読み手も覚悟と体力が必要だと痛感し、一節読んでは時間をかけて休憩しながら考え、ようやく読み終えました。

私の脳も誤作動してきた

私も幻視や記憶ちがいの話などいくつかの現象については経験があるのですが、私の場合は心理的な面が影響しているものが多いのではないかと考えてきて、去年カウンセリングを受けた際もその可能性があるというお話をいただきました。
これについて詳しい検査をしたわけでもなく、事象だけで自分と重なるところがあるなんて言葉にしていいのだろうかと思いながら読み進めたのですが、そんな私(読者)の気持ちを察してくださったかのように、「おわりに」の章の冒頭に勇気をもらい、ここに書きとめたくなりました。

私の脳をめぐる旅に最後まで同行してくださって、ありがとうございました。
途中、「おっ、自分にも似たことがあるぞ」と思われた方もいらしたのではないでしょうか。もし「これは自分と似ている」と思う箇所などがありましたら、教えていただければとてもうれしいです。(中略)みなさまから未知の世界を学びたいですし、そこから何か新しいことが見つかるかもしれないと思っています。

「誤作動する脳」(P245.おわりに)より引用

チョークに変身した蝶

目の前で蝶がチョークに変身した日のことを私は忘れられずにいます。
まだ小学校に上がる前、実家の犬走りを一人でぐるぐると歩き回っていた時に一羽のシジミチョウが現れて追いかけ、角を曲がった一瞬に見失いました。どこへ行ったのだろうと辺りを見回すと1周目には絶対になかった同じ色(薄紫色)のチョークが落ちていました。振り返ると、そもそも蝶がコースに沿うように飛んでいたのも奇妙ですし、チョークも実在したのだろうかと疑問です。
おそらくこれが私にとっての初めての幻視体験でした。

高速道路の少女

小学生の頃、父の運転する車の助手席から車窓を眺めるのが好きだったのですが、高速道路は例外。高い壁に覆われて景色が見えず、等間隔に続く街灯に見下ろされているような場所は特に苦手。早くここから抜け出したい気持ちが目から投影されたと思っているのですが、いつしか高速道路には毎回オレンジ色のワンピースを着た自分と同じくらいの少女が現れるようになりました。
彼女は私を見下ろす高い街灯の上を身軽に飛んで少し先を行きます。私は驚くでもなく、家族にその存在を伝えるでもなく、何事もなく当たり前のように彼女を認めて、「またいる」と思って眺めていました。いつしかいなくなってしまったけれど、いつも遠くにいたので、顔はイマイチ思い出せない。

上記2つのようなことは、小さいうちには体験したことがある方もいるのではと思っています。本書の中でも目と脳の関係について触れられていましたが、私もなんとなく、人はそれぞれが自分のみたいものを映し出して世界を構築していると捉えていました。(他の人とは交わらないから目を離した隙に隣人は消えてしまう儚いもののようにも思っていました)

「私たちは、目の前にある同じ世界を見ている」というのはただの錯覚で、世界は人の数だけ存在しているのでしょう。そしてその世界は、その人のなかでも大きく変化していきます。

「誤作動する脳」(P172.救いの言葉)より引用

失ったことにも気づけなかった記憶の扉が開く時

私が自分の頭の中がなんだか変だったなと思ったのは、思春期の頃に強いストレス状態が続いた後、数年間いくつかの記憶を自分でも気づかぬうちにしまい込んでしまったことに20代半ばになって気がついたからでした。これを機にいくつかの記憶が蘇り、過敏だったことがさらに気になるようにもなりました。近しい体験をされた方とお話した時、あなたはもうこれ以上それについて考え込んだら心が限界になってしまうからと脳が強制的に隠しファイル化して自分を守ったのだと理解し、人間とはよくできているなと感心すら覚えました。

2022年のベストバイはAirPods Pro

人混みでぐったりとしてしまう気持ち、心から共感しました。さらに人と歩いている時は大丈夫なことも深くうなづきました。隣にだれかいるとおしゃべりに集中できたり、少なくともその人に意識を向ければいいので安心して歩くことができるのです。
人の声も含めて情報量の多い場所(ターミナル駅など)を一人で歩くと意識の向け先に迷い処理しきれずに混乱してどっと疲れるのですが、私はAirPods Proによってだいぶ軽減されました。
元々普通のAirPodsを長年使っていて、音楽を聴くことでこの騒音から気を紛らわせていたのですが、初めてのノイズキャンセリングで圧倒的な静寂を手に入れました。音楽を流さなくても静かでいるために耳に入れておいたりします。(多少の音は入るのですが、危ないから車の通る道はもちろん、周囲の音に注意が必要な時は使っちゃだめ)電車の読書はさらに捗るようになりました。
びっくりしたのはエアコンの音。家でもコンビニでもイヤホンを外した瞬間にこれまでは全く気にならなかったエアコンの音がなんて大きいんだろうと感じ、本当に驚きました。

みんな人知れず困っている、でもなんとか生きている

働いている業界や出会う人たちの影響も大きく、みんなそれぞれいろんな困りがあることを分かち合えることが多い。これはとっても幸せで感謝が大きい。
私も自転車で出かけたのに忘れて歩いて帰ったり、道順やものの配置、数式などを覚えるのは苦手、買い物もメモがないとだいたい漏れる。
ただ色々試して対処法を見出していて、みんなそうやって人知れず見えない努力でなんとか苦手なことに振り回されないように頑張ってるんだろうなと思うのです。
だから人って愛おしい。
ちなみに家の洗濯機の蛇口、「このタイプは開けっぱなしだと水漏れの原因になるから使うたびに閉めた方がいいですよ」と設置してくれたヤマトさんが教えてくれて、正直私はそういうのすごく苦手なのですが、蛇口に「使ったら閉める」と書いたテープを貼ったのと、洗濯するときにヤマトさんを思い出す作戦が功を奏しています。(設置の時に色々お世話になりすぎたのと面白い方だったので印象深い)

頁をめくる度に、深く沈まれたその瞬間瞬間の空間の重さが伝わってくるようで、様々な感情と気づきを得ながら拝読しました。

この脳は、この世界は、これからどうなってしまうんだろう

「誤作動する脳」(P63.いないクモを探す理由)より引用

すべてのヒトが自分の脳の冒険者。私もこの世界を生きていく。

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