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ばくだんおにぎりとウエディングケーキ

会社員時代、撮影の入る月はもう常に一定の神経過敏さを保っていた。
クライアントに企画を提案する時点では、どんなコーディネートにしようかどんな衣裳にしようかとワクワクする要素もあったし資料作りも割と好きだったので平静を保てたのだが
いざ受注し各関係者さんと打ち合わせが始まると、荒ぶる動悸は止まらない。こんなペーペーがベテランのみなさまに偉そうに発注なんぞしてしまいすみません、などと冷や冷やしながら慎重に日々を重ねていく。

かたや撮影内容はいたってドリーミーである。結婚式会場のゲストハウスでもりもりのコーディネート、美しいモデルさんたちを入れて大はりきりでケーキカットなどいたすのだ。
画の華やかさとは裏腹に、呻き散らし地を這いながら通常業務と同時並行で準備を進める。

そして訳もわからぬまま迎える当日、そもそも前夜から安眠などできる由もなく、ほぼ徹夜状態で必要もないのに朝4時頃から身支度を始める。
現場への食糧や飲み物調達もディレクターの仕事だったので、コンビニでごっそりお茶や炭水化物およびカントリーマアムやキットカットなどを仕入れる。その足でヨロヨロとゲストハウスへ向かうのだ。

とにかく香盤表どおりに、カメラマンさんがご機嫌なうちに予定カットを着実におさめる!ただそれだけのために過剰に呼吸してジタバタ動き回る午前。
お昼前にもなると現場に立つスタッフやクライアントほぼ全員が項垂れてきて、なんとなくテーブルにアイロンをかけてみたり見飽きた企画書をめくったりして時間をつぶす。緊張感と酸素不足で夢かうつつかと朦朧としてくる頃合で、休憩を差し込む。

発注していたお弁当とコンビニで奪取してきたものを並べ、各々なんとなく好きなものを選んでもらいしばしひと息。

なんとか予定通りに進めている…というかほぼ現場のプロフェッショナルのみなさんにおんぶにだっこで歩んでいる。本当にありがとうございますとどうもすみませんが脳内をぐるぐると支配し自意識が混濁してきたので、準備しておいたハイカロリー飯を急遽注入することとした。
ばくだんおにぎりである。
結婚式でのメニューとしてはあまり見かけない炭水化物おばけにかぶりつく。甘じょっぱい昆布が身体に染み入る。


午後、らせん階段でのフラワーシャワーとガーデンでのケーキカット撮影。新郎新婦の顔に花びらがかぶらないよう何度も撮り直す。炎天下のもと、現場全員が汗だくで「おめでと〜!」とやけくそ気味に手を叩いて叫び花びらを勢いよく撒き散らし、乾いたシャッター音が敷地内に鳴り響く。

ガーデンに準備済みのウエディングケーキが溶けてずり落ちませんようにと祈りながら、ばくだんパワーで渾身の拍手を贈り続けた。

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