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Snapchatって何?基本情報からその歴史、Facebookとの戦いや最新の買収事例まで

こんにちは!

AR技術に特化したスタートアップOnePlanetをやっています村上と申します。弊社はAR技術を活用した様々なソリューションを提供しており、日々世界中のAR事例を研究しています。

この記事は、SNS「Snapchat」を提供する米Snap,Inc.についての解説記事です。なぜARのスタートアップがSnapを解説するのかと言うと、SnapこそARの世界的なリーダーの1社だからです。

そこでこの記事では「Snapchatってそういえばよく知らなかったから、どんな感じか改めて整理して知りたい」という人を想定読者に、なるべく分かりやすくなるようにその始まりの歴史から網羅的に情報を記載しています。

また、ご覧いただくと分かりますがSnapchatの歴史はFacebookとの戦いの歴史でもあり、もはや現代のキングダムと言っても過言ではありません。

文字数がだいぶ分厚いのでサクッと読みたい人用に以下30秒要約です。

<30秒サマリー>
・そもそもSnapchatとは?
・2011年にスタンフォード大学にて創業
・2年経たずDAU100万、ウケたのは「数秒で消える写真」というアイデア
・消える写真をシェアできる「ストーリーズ機能」により更なる成長を実現
・脅威を覚えたFacebookから創業2年のSnapchatに30億ドル(約3,200億円、Instagramの3倍の評価)の買収オファー
・買収オファーを断りCEOシュピーゲルは伝説へ
・成長そのまま2017年に上場。更にTOPモデル、ミランダ・カーと結婚
・しかし、インスタに「ストーリーズ機能」が模倣され株価下落
・そのまま終わると思いきやARによりSnap復活
・年齢(Z世代)や地域(欧米以外)による差別化も成功
・しかしAR機能でもコピー戦争勃発
・コロナ禍の巣篭り需要の恩恵でユーザー数が拡大
・ドローンの会社へ投資・買収 → 自社ドローン発売(2022年4月)
・さらに脳科学のスタートアップ買収など先端技術に継続投資

そもそもSnapchatとは?

スナップチャットとは世界で約3億人が利用しているSNSです。

日本ではあまり馴染みがないですが、アプリの名前は聞いたことがあるという方は多いですよね。アメリカではZ世代と呼ばれる10〜20代に人気のアプリです。

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基本的な機能としてはInstagramのストーリーズと同じで「時間が経過すると消えてしまう画像・動画を投稿・シェアして友人と楽しむ」というアプリです。

一定時間が経過するとコンテンツが消えてしまうため、永続的に残り続ける仕組みに比べると「気軽さ」が売りとなっており、TiktokやInstagramなどの作り込まれたコンテンツに比べてコンテンツの生産量が多くなり、もっとも日常使いに適しているとも言われています。(詳しくはこちらの記事で。)

ARフィルターで写真を加工できるチャット機能が強みとなっており、「高齢になるARフィルター」「性別が変わるARフィルター」「ディズニーやピクサーのキャラクターになれるARフィルター」など、そのユニークな撮影体験はSnapchatが使われていない日本でも、たびたび話題を集めていますよね。

私のようなおじさんも、このように可愛いディズニー・ピクサーのキャラクターのようになることができます。笑

Snapchatを運営するSnap社について

Snapchatを運営するSnap社はSnapchatだけの会社ではなく、自社のことを「カメラカンパニー」と標榜しており、カメラ越しにバーチャルとリアルが融合した体験である「AR」に他社よりもはるか早くから先行投資をしてきています。

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その時価総額は2022年4月12日時点で$55B、約7兆円です。日本に10兆円を超える時価総額の企業が4社しかないことを考えると、その企業規模の巨大さが分かります。

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*ちなみにFacebook/Instagramを運営するMeta社の同日の時価総額はSnap社の10倍規模($589B)になります。

また、ARに投資をしてきたSnap社はSnapchatのようなスマホアプリだけでなく「Spectacles」というARグラスにも長年、投資を続けています。

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このようにSnap社は国内ではまだユーザーの少ないスマホアプリ「Snapchat」だけではなく、スマホに変わりデバイスと目されるARグラスにおいても未来を担う企業としても注目されています。

そんなSnap社は創業以来はげしいFacebook社との戦いの歴史を経て現在に至っており、スタートアップに関わる上で大変学びが多いです。

ここからは、そんなSnap社の歴史をざっくりと振り返っていきます。

2011年に創業、始まりはスタンフォード大学

始まりはシリコンバレーの中心地に位置し、Googleから10分の場所にある名門スタンフォード大学です。

名門大学の学生3人で2011年の7月にpicaboo(ピカブー)という名称でローンチされたSnapchatは、「写真が数秒で消える」というアイデアが若年層からの支持を集め、瞬く間に成長をします。最初の名前もかわいいですね。

ピカブーは、日本語の「いないいないばあ」の意味です。お化けのようにいなくなってしまうことを想起させるプロダクト名でスタートさせたのですね。

以下がピカブーのロゴ。オバケをモチーフにしたロゴはすぐに写真が消えてしまうことから来ているものでしょう。今のロゴのルーツも感じ取れます。


2年経たずにDAUは100万人へ

picaboo(ピカブー)のローンチから数ヶ月で3人のうち1名が喧嘩別れとなり、CEOエヴァン・シュピーゲルとCTOボビー・マーフィーの二人で再スタート。そのタイミングで名称をSnapchatに変更します。

そして1年と経たずにまずはDAU1,000人に到達。

そこから更に1年でDAUは100万人に到達。ローンチから2年足らずでDAU100万人に到達ということです。

Snapchatがマーケットフィットしたのは「写真が数秒で消える」という機能が若年層のインサイトを捉えていたことがポイントになりました。


10秒で写真が消えるというアイデア

「誰かと共有したい、ちょっとしたおもしろ写真が撮れた。」
「だけどわざわざLINEで送ったり、FacebookやTwitterで拡散するほどのものではない。」
「でも、友達や誰かに見せたい。」

そんな若者の気持ちを見事に捉えたのがSnapchatでした。

送った画像は開いたあと最大10秒で自動的に削除され、保存もしにくい仕様になっており、「おしゃべり感覚で写真をやり取りする」「後に証拠が残らないので、誰かに広められる心配もない」という若者のインサイトをシャープに捉えた機能がハマりました。

まさにSnap(=写真)で、Chat(=おしゃべり)するツールとして瞬く間に若年層を中心に流行していきます。


「ストーリーズ機能」が大ヒット

Snapchatの元々の仕様は「1枚の写真を個別友達に送り、10秒で消える」というものでした。

そこからSnapchatは更に「複数写真/動画の組み合わせで友人全員へシェアでき、24時間で消える」という仕様に進化させます。

これは現在の私たちの多くにも馴染みのあるInstagramのストーリーズと同じ機能です。そう、Instagramのストーリーズ機能はFacebook社がSnapchatをパクったものなのですね。この点は少し先で詳しく後述します。

この「ストーリーズ機能」が更なる大ヒットとなり、これに脅威を覚えたFacebook CEOマーク・ザッカバーグから買収提案が持ちかけられます。

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Image Credit:Annie Spratt


Facebookの買収提案をお断り、CEOシュピーゲル伝説へ

2013年、設立から僅か2年のSnapchatはFacebookから30億ドル(約3,200億円)の買収オファーを受け、そしてCEOシュピーゲルはそれを断りました。オファー額はInstagram買収額の3倍です。

設立から2年で3,200億のオファー、そして、それを断るという判断。

当時、フェイスブックの買収提案を断ったことは正気の沙汰とは思えないほど傲慢な行為だと見られており、それによりシュピーゲルは伝説的存在とまで言われるようになりました。

ザッカバーグ氏は怒りに燃えました(と言われています)が、しかし、シュピーゲルのその決断はのちにSnapchatを成功へと導くことになります。

買収のオファーがあった当時、同社はビジネスモデルも確立していませんでしたが、その後すぐに打ち出した広告モデルが収入源となっていきます。

広告主は捉えどころのない若年層へのリーチに課題を抱えていましたが、Snapchatはニュースに興味のなさそうな若者たちにニュースを簡単に読んでシェアできる機能を提案したり、若者が利用しやすい支払いスキームを追加したりしながら、矢継ぎ早にZ世代の心を掴む様々な施策を展開させていき、広告ビジネスを加速させていきます。

そしてストーリー機能の成功が後押しし、2015年には1日に2億枚以上ものコンテンツがユーザー間で飛び交うまでに成長しました。


2017年に上場、からのTOPモデルと結婚

Facebookは買収提案を断られた後、露骨にSnapchatのクローンサービスをリリースさせていきます。しかし、どれもうまくいきませんでした。

そしてSnapchatは爆発的にユーザー数を伸ばしていき、2017年3月に上場を果たします。

更に2017年5月、CEOシュピーゲルはビクトリアズ・シークレットのTOPモデルであるミランダ・カーと結婚します。

1990年生まれのシュピーゲル、このとき27歳。


Instagramに模倣、株価下落

度重なるクローンサービスをリリースさせてきたFacebookですが、2016年に傘下のInstagramにて24時間で消える「ストーリーズ機能」をリリースし、これがついに成功。

現在、私たちに馴染みのあるインスタのストーリー機能は度重なるSnapchatのコピーを重ねたFacebookがようやく辿り着いた悲願だったということは、あまり知られていないかもしれません。

そしてInstagramのストーリーは、2017年には上場直後の本家Snapchatを追い越すまでに成長を果たします。

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Image Credit : statista

そこからSnapchatのユーザー数の伸びは露骨に下がっていき、

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Image Credit : statista

同時に株価も下落していきます。

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余談ですが、ビジネスは勝負の世界であり結果が全てですので、競合にコピーされるなど当たり前、コピーされない壁を作りきれなかったものは敗者となります。

後述しますが、現在、Snap,Inc. はARテクノロジーや、Facebookが侵食していない国地域など、コピーされにくい壁となるテーマに注力しています。その後復活するSnapの競争力は、度重なるFacebookのコピーと戦ってきた経験から学習した賜物と言えるかもしれません。

少し脱線しますが、ビジネスでの競合優位性や模倣困難性のことをMoatと呼びます。(参考:「Moat(モート): スタートアップの競争戦略概論」

競合他社によるコピーから自社の利益を守るためのMoatの作り方はすでにSnapchatのような先人たちから体系化/ノウハウ化されているものも多いので、そういった観点からSnapchatを見ていくのも大変示唆が多いです。

ARレンズで復活

Snapchatはもともとスマホカメラでの撮影体験を拡張して写真や動画の体験を楽しくするAR技術に先行して投資をしていました。

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現在ではFecebook/InstagramもSNS内でのAR体験開発に追従していますが、Snapchatは2015年からARレンズと呼ぶ機能を先行して提供しており、技術的にも一歩リードすることができています。

結果、業績不振に苦しんでいた2019年のアップデートで、見た目の性別を変えることができる「ジェンダー・スワップ・フィルター」や子どもっぽくすることができる「赤ちゃんフィルター」が登場し、人気が爆発。

その結果、AR市場における広告領域の中でFacebookをしのぐTOPシェアを持つに至ります。2023年まで高いシェアを維持する見通しも出ています。

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とはいえこれまでの歴史の通りこの分野でもFacebook/Instagramは現在進行形で激しくSnapを追いかけているので、将来的にこの通りに数値が推移するかは分かりません。

ちなみにコーポレートサイトにある会社概要を見ると「Snap Inc. is a camera company」とあり、カメラ越しの体験≒AR技術にSnapがコミットしている企業姿勢が伺えます。

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ARグラス

時系列からは少し脱線しますが、Snapはスマホの次のデバイスと呼ばれる「メガネ型ARデバイス」にも先行投資をしており商品を市場に投入しています。(MRグラス、空間コンピューティングデバイス、スマートグラスなど色々な呼称があります。)

メガネ型ARデバイスにも早いタイミングから先行投資をしてきたSnapですが、ハードウェア開発には資本力が必要です。

AR関連の技術においてはSnapを追いかける形となったFacebookですが、Oculus Quest2のようなVRデバイスを始め、資本力の差からハードウェアでは逆に先行するポジションを取っていると考えられます。

2020年3月末にFacebookが買収した英Plesseyも、まさにARグラス用のディスプレイメーカーであり、Facebookがいかに資本を投じてハードウェア開発に挑んでいるかが垣間見える象徴的な出来事とも言えるでしょう。

SnapchatとFacebookのARにおいての戦いは、スマホにおけるAR技術分野だけでなく次世代型のハードウェアでも起こっているということですね。

さらに余談ですが、弊社でも日夜、グラス型デバイスを活用した空間アプリケーション開発をしていますが、まさにSFのような未来の体験が現実になることを感じられ、非常にワクワクするものがあります。ARグラス・MRグラスにご興味がある方はお気軽にDMください!

年齢や地域で差別化、株価も倍増

Snapの株価下落からの復活劇のお話に戻ります。Snapの株価復調要因はARだけじゃありません。

①年齢
Snapの特徴として、1995年以降に生まれたZ世代(Generation Z)のユーザー数が他のSNSに比べて相対的に高いシェアになっていることがあります。

Z世代のユーザーは次の時代の経済の中心でもあり、今からシェアを握ることは長期的なビジネスを考える上では極めて重要です。しかし競合が多いことも事実なので、どのように抜け出すのかが注目されています。

②地域
Snapにはユーザーを抱える地域にも特徴があります。

2020年4月21日に発表されたばかりの2020 1Qの決算資料を見ると、北米やヨーロッパなどSNSの主戦場となってきた地域以外のDAU成長率がもっとも高いスコアを記録しています。

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これは他のSNSと比較した時に差別化ポイントとなっており、長期的な視点でビジネスを考えると伸び代が非常に大きいセグメントのシェアを持っていると捉えることができます。

ARへの先行投資や、年齢・地域といった顧客セグメントに伸び代があると好感され、一時はInstagramのストーリーズ機能コピーにより下落した株価が復調するに至りました。

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VineやSNOWのように一過性のSNSと見なされていたSnapの復活劇は、このようにして成立しました。

更に巣篭もり需要で成長 ← イマココ

そんな中で、更にSnapに追い風が吹きます。

それが、現在の「巣ごもり需要」です。Netflixと並び話題化されるまでに自宅での体験をリッチにする銘柄として注目度が高まっており、実際にDAUも伸び続けています。

コーポレートサイトの広告主に向けられたページのファーストビューにも専用のページが立ち上げられており、実際に様々なARが話題になっています。

直近の2020 1Qの決算では売上高は4億6,248万ドル(前年比+44%)、営業損失は△3億528万ドル(前年同期は3億1,041万ドル)と赤字が続いていますが、これは広告主側の需要減も考えられるため、このタイミングでDAUを伸ばすことができれば景気回復後の業績にレバレッジがかかるでしょう。

コロナショックで傾いた株価も上向いて来ています。

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冒頭に記載した、目下テレビ会議で活躍しているSnap CameraなどのPC向けアプリケーションも、この巣籠もり需要を通じたSnap Inc.のビジネス成長に貢献しています。

このタイミングでSnap Cameraをダウンロードしたという人も多いのではないでしょうか?実際に、PCにもARカメラを対応させていたことがここにきてSnapのビジネスを加速させました。

この先もSnapはさらなる成長が期待され、個人的にも非常に楽しみではないかと思われます。

ドローンへの投資

未来への投資として、Snapはドローンにも手を出しています。私の知る限り、最初は2017年。そこからさらに投資を加速させています。

そして長きにわたるドローンへの投資を経て、2022年4月、Snapはついに自社オリジナルのドローンを発売しました。

Snapのオリジナルドローンで簡単に空中での自撮り撮影ができ、撮影した写真・動画コンテンツはそのままSnapchatの編集ツールでスマホから加工、共有まで出来ます。

重さは101gで手の平から飛び立ち、手の平に着地する操作で、とても可愛いですよね。価格は$229〜で、米国とフランスで販売開始となりました。

これは体験してみたいですよね。

さらにドローンの狙いは「自撮り体験のリッチ化」だけではなさそうです。

XRの一つのゴールとも呼べる「デジタルツイン」と言う、デジタルで作られたもう一つの地球を創造するための一手としてもとても重要です。

ドローンを活用することで地球上のあらゆる場所の画像データ(3Dマップデータと呼ばれます)を集め、精度の高いもう一つのデジタル地球を作り出し、そのデジタル情報を現実の地球に重ね合わせることで、いわゆるSF映画のような世界が完成するからです。

ドローン以外でも衛生データから3Dマップを作るプレイヤーがありますが、衛生データから作られたものに比べてドローンで生成された3Dマップは明らかに精度が高く、Snapの投資が5年、10年の時を経て伏線回収される様子を追いかけるだけでもCEOエヴァン・シュピーゲルの先見性が窺い知れます。

ニューロテック企業「NextMind」を買収

新技術への投資という文脈では、ドローンだけではありません。

2022年3月には脳科学を使ったテクノロジー「ニューロテック」を扱う企業を買収しました。

SF映画のような世界ですが、脳で考えたことをそのままARグラスで表示させるような、キーボードへのタイピングやSiriのような音声入力さえ必要としない世界を構築するための買収とのことです。

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この買収についてはこちらの記事に詳しくまとまっています。

このようにSnap社は世界でも最先端の技術領域に先行投資を続けており、今後もARを起点に新しい社会を作っていく1社となっていくことでしょう。

最後に

長くなりましたが、今回はARにおける世界的リーダーとしてSnap Inc.をピックアップして記事にしてみました。長文を最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

こちらの記事は常にアップデートしているので、時々見返してもらえるとよりSnapの解像度が高まるかと思います。

私たちも常に勉強中なので、もしSnapやARについて情報交換していただける方はカジュアルにお話させてください。DMをいただけたら嬉しいです。

ARはこれから長期にわたり大きく伸びる市場です。現実空間にバーチャルな情報を当たり前に表示させる、SF映画のような未来を一緒に作っていく仲間を探しています!

それではまた。

ありがとうございます!