子どもにとっての児童養護施設職員
児童養護施設職員は友達ではない
児童養護施設の子どもにとって、私たち児童養護施設職員は友達ではありません。
私が新人の頃、先輩職員から「まず子どもと関係を作ってね。」と言われました。
子どもと関係を作るということで一番最初に思いついたことは、子どもと遊ぶことでした。
子どもと卓球をしたり、バスケをしたり、一緒にテレビを観たり、子どもの時間にお邪魔して、自分も一緒に時間を過ごすことをしました。
その中で、子どもと関わる時間を作り、関係を作ってきました。
そうしないと関係が築けなかったし、子どもも話をしてくれませんでした。
子どもからしたら、家庭の話や児童相談所の福祉司の話、進路の話や退所後の話が出来ない新人職員と話すことなどありません。早い話が、一緒にいるメリットがありません。
だから私は、子どもが私と遊ぶこと、一緒に過ごすことに価値を見出せるように、楽しく関わる時間をなるべくたくさん作りました。
それこそ、他の先輩職員が一緒に公園に遊びに行かないので、一緒に行きました。
卓球を一緒にやらないので、一緒にやりました。
夜に一緒にテレビを観ていないので、一緒に観ました。
そうして子どもと関係を作ってきました。そうしなければ、関係を作れませんでした。
今は、子どもは私と話す価値や意味を知っています。なぜなら、児相の話や家族の話、進路の話や退所後の話も、私ができるようになったからです。
子どもにとって価値がある話が出来れば、子どもは話にきます。そして、関係性が構築できるようになります。
大切なのは、関係性を構築することです。遊ぶのは、そのための手段に過ぎません。
今は子どもと時間を過ごすことを最優先には考えていません。
どれぐらいの長さを一緒に過ごすかより、どれぐらいの深さで一緒に過ごしたかが大切だと気付きました。
新人の時よりも一緒にいる時間は短いですが、濃い時が増えてきていると思います。
保護者という立場
新人だった頃、先輩職員から、「職員は子どもにとっては保護者だからね。」と言われました。
保護者という立場は、22歳の新卒職員にとっては難しいです。私は、保護者という単語は知っていたので、理解したつもりになっていましたが、今になって思うと、保護者という意味は理解していなかったと思います。
一般的に、保護者とは両親を示す言葉だと思います。一般家庭では保護者とは両親のうちどちらかでしょうし、学校の保護者会も、両親のどちらか、またはその代理としての祖父母が来るでしょう。
私たち施設職員も、児童の保護者会に参加すれば、他の保護者の方と同様に子どもについては責任を負うでしょう。
しかし、22歳の私が保護者になるのは難しい。私は難しかったです。
まず、子どもが私のことを保護者と思っていませんでした。
保護者と思っていないから、学校の予定を教えてくれません。
進路のことも話してくれませんし、実の親に対する気持ちももちろん言いません。
子どもが保護者と思っていない人が、保護者の役割をまっとうすることは難しすぎます。
私は新人の頃から保護者会には行きましたが、実際に保護者として機能するのは先輩職員で、私は学校の情報を伝える伝書鳩でした。
施設職員として経験、知識、技術を積んでいくと、さまざまな仕事を抱えます。
会議や面談に出席したり、その資料を作成したり、記録を残したり。仕事が増えて業務時間を確保しなければなりません。
単純に子どもと過ごす時間は減りますが、子どもと話すことは増えていきます。
大切な話を重ねていくことで、子どもは少しずつ、【楽しいお兄さん】から【頼れる職員】として私を認識するようになっていきました。
施設職員は子どもと遊ぶことが仕事ではありませんが、子どもと遊べる時間がある新人期間は、子どもと目一杯遊んだ方がいいです。そのうち遊ぶことなどできなくなります。
子どもにとって、職員とはなんなのか
私は、児童養護施設の子どもと職員の関係は、非常に特殊だと思っています。
代替言語がない、説明するのが難しい関係だと思います。
保護者ですが、親権者ほどの権限や責任はありません。
気心を知っていますが、友人ではありません。ましてや、恋人になってもいけません。
例えるならば、こういう感じです。
【保証人などの社会的な責任】 教員<職員<親権者
【恋バナなどの自己開示具合】 親権者<職員<友人
職員の立ち位置は非常に難しいのです。教員よりは子どもの近くにいますが、親権者ほどの権限はありません。親権者よりは親しみやすい関係ですが、友人ほどになんでも話せる関係でなくてもいい。
子どもが困った時、相談しようと思える信頼関係があればいい。
子どもが嬉しい時、報告したいと思える存在であればいい。
それが児童養護施設職員なのです。
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