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「未来をよろしく」ー星野源〝創造”MV監督奥山由之 由緒正しい「映画屋」の血-


「未来をよろしく」

星野源さんの新曲〝創造”のMVを観ている時に、不意にこの言葉が頭に浮かんだ。

これは、以前星野さんが細野晴臣さんのライブにゲスト出演した時に、細野さんから言われたという言葉だ。

任天堂「スーパーマリオブラザーズ」の35周年テーマソングに提供したこの楽曲には、任天堂ゲームの「音」が散りばめられているという。私はゲームをやらないので、全部がわかるわけではないが、そんな私にも聞き覚えのある「音」もあった。

そして、奥山由之監督が撮ったMVにも、任天堂ゲームのオマージュが散見されるそうだ。

ゲームをやらない私は機械的な「音」とセンスの良いMVからYMOを想起し、YMOの細野さんが星野さんへ送った言葉を思い出したのだろう。
星野さんは優れた才能に恵まれているのはもちろんのこと、先輩ミュージシャン達から受け継いだもの、受け取ったものがあるからこそ、あれだけの音楽を「創造」できるのだろう。

そして、MVを監督した奥山由之さん。

私はこの方を、米津玄師さんの〝感電”のMVで知った。MVがセンス良く、なおかつ〝遊び”があり、これをさらっと作る29歳とはどんな人だろうと思い、奥山由之さんのインタビューや記事を読んだりもした。
スマートな容姿、優しげな話し方から

「いかにも、東京育ちの上品な慶応出身のお坊ちゃんだな。だから、これだけセンスの良いものが撮れるんだろうな。」
そう思った。

だから、映画監督でプロでキューサーの奥山和由さんの御子息であると知った時は少なからず驚いた。

奥山和由さんには「やんちゃ」なイメージがあったからだ。

今から30年近く前、映画生誕100年・江戸川乱歩生誕100周年・松竹創業100周年記念作品と銘打って作られた松竹の映画がある。

『RANPO』だ。

江戸川乱歩好きな私は、当時、アイドルを脱ぎ捨て、俳優として人気絶頂だった本木雅弘さんの明智小五郎ということもあって製作発表された時から公開を楽しみにしていた。

ところが、日本映画史上類を見ないことが起きる。

プロデューサーだった奥山和由さんが黛りんたろう監督が撮った『RANPO』が気に入らず、プロデューサーであったにも関わらず、自分が監督となり、新たにシーンを加え、奥山バージョンと黛バージョン、二つの『RANPO』が作られ、公開されたのだ。

このことは、かなり話題となり、作家の林真理子さんのエッセイに、奥山のために一肌脱ごうという友人に誘われ、奥山さんが新たに撮った『RANPO』のパーティのシーンに、自前の衣装で友情出演したことが書かれていた(ちなみにそのシーンで、役者さんとしてやや低迷していた阿部寛さんが、女装して歌唱していた。ただカッコいい役者さんから演技派に脱皮した瞬間だ)。

松竹株式会社は、映画と歌舞伎が二本柱なのだが、「映画の奥山、演劇の永山(武臣)」と並び称されていた奥山融さんは奥山和由さんの実父で当時松竹の社長だったからこそ、できた「日本映画史上類を見ないこと」だったのだろう。

だが、その数年後、実父奥山融さんとともに奥山和由さんは、取締役会でたった2分間の決議で松竹を追われることとなる。

「命と共に 遊ぶことにある」〝創造”

そんなことがあった後も、チームオクヤマとして、映画に関わりつづける奥山和由さんは、まさに「命と共に 遊ぶ」人だ。

奥山由之さんのセンスの良さは、ただ東京生まれでたまたまセンス良く生まれついた訳ではなく、おじいさま、お父様から脈々と受け継がれた由緒正しい「映画屋」の血が流れていたためだったのだ。

歌舞伎の家に生まれた子は、お茶漬けを食べる様に、現代では特殊な歌舞伎の芝居ができるという。

”創造”や”感電”のMVの類まれなセンス良さは、もちろん苦労はあると思うが、「お茶漬けを食べる様に」できているのではないだろうか?

だからこそ、すごい作品であるにも関わらず、どこか軽やかなのだ。

未来は、現在、そして過去と繋がっている。

星野源さんと奥山由之さん。

現在を生きる二人は、過去から託されたものを携えながら、作品を“創造”している。

第二次世界大戦中の日本もそうだったが、独裁国家では芸術が規制される。

それは、芸術が国を揺るがすほど、人の心を揺るがすものだからだ。

今後、日本の芸術を牽引するであろう二人には、改めてこう言いたい。

「未来を、よろしく。」


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