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「幽霊の恋人たち」を読んで

幽霊の恋人たち   サマーズエンド
アン・ローレンス 作
金原瑞人 訳/佐竹美保 絵

この本は、挿絵画家佐竹美保さんのサイン会で購入した。銀座教文館にて、日付は2005年となっている。当時読みあさっていたYAコーナーのファンタジーで度々目にしていた佐竹美保さんの挿絵に魅せられ、すっかりファンになっていたのだ。サイン会で「メニム一家の物語」シリーズが好きですと伝えると、麦藁帽子の絵を添えてくださった。

あれからなんと18年も積読だったのである。
18年の間には、時折取り出して読み始めることもあったが、結局読まずに戻していた。今年6月に引越をして、厳選して持って来た書籍類の中で小説はこれ1冊だった。
本棚の中で18年過ごした本は、新品だったものがすっかり古本の風情に熟成されていた。
そしてその時間まるごと含めたこの本の存在が、ファンタジー世界のゆらめきと佐竹美保さんの強力な挿絵と相まって、今読む運命だったんだなぁと心に沁みてくるのである。

夏の終わり、
ベッキーの家に
ふらりとあらわれた
流れ者のレイノルズさんは
ベッキーたち三姉妹に
幽霊と恋におちた人間の物語を
はなしてきかせる……

カバーそでより

謎の流れ者レイノルズさんが、世話になっている農場の三姉妹にちょっと不思議な「お話」を話して聞かせる、短編集のような構成だ。お話はどれも「人ならざるもの」が登場して、ロマンスが絡んでくる。古い時代のお話なのだが、登場人物たちの考え方や物事に対する反応には、時代を超えた普遍的なものがあるなと思う。当時なりの白馬の王子様観や女性の自立観も今と大差ないようだ。
夏の終わりだった季節はいつしか進み、三姉妹も大人になっていく。
語る「話」を持つ者と、聞く心を持つ者たちの束の間の交流は終わり、それぞれが自分の意志で歩んでいく。
二重の意味で不思議な世界と現実と、過去と現在とが一体となった読書体験だった。

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