トマト

夏合宿 #8 (シナリオ)

#1 ~#7はコチラ https://note.mu/candycandy/m/m153c52b2cf20

合宿5日目。つるやホテルの駐車場。サークル代表の林が夏合宿の締めの挨拶をしている。

「えー、これから東京に向かうわけですが、バスとマイカーに分かれますので、ここで解散ということにします。皆さん、お疲れさまでした。」
一同「お疲れー」「お疲れさまでしたー」

ヤヤ「ヒカリちゃんは天海先輩の車だから、ここでバイバイね」
ヒカリ「そっか。またね」
アキ「天海先輩、送り狼にならないように」
天海「あのなぁ」
ナッチ「いっそのこと車の後ろに缶カラつけちゃいましょうか」
全員「Ha Ha Ha Ha …」

江川「じゃあな」
天海「おう、また」
島谷「お前ら、つきあっちゃえよ」
ユリと林「つきあっちゃえ」「つきあっちゃえ」

ヒカリ、天海を見上げる。天海は動じずに笑っている。

天海「ホレ、乗って」
ヒカリ「あ、はい」

車が動き出す。海を右手に見ながら走る。

ヒカリ「運転、よろしくお願いします。楽しかったですね」
天海「ああ。ちょっと恥ずかしいくらい青春しちゃったな。音、適当にかけていいぞ」

ヒカリ、カセットボックスを開けてゴソゴソ。

ヒカリ「KUWATA BANDいきまーす」

カチャ。ボタンを押す。MERRY X’MAS IN SUMMERが流れ出す。

♪恋は真夏のHistory…♪

天海「なんか、俺達、期待されてるみたいだな」
ヒカリ「なーんか、そんな感じですね」
天海「ユリちゃんから何か言われたんだろ」
ヒカリ「どうして知ってるんですか?」
天海「林から聞いた」
ヒカリ「いつ?」
天海「昨日、花火の前」
ヒカリ「なんて言われたんですか?」
天海「ん?『ユリは俺が幸せにすることになった』とか、『ヒカリちゃんにはユリが話をしたから』とか」
ヒカリ「…それで?」
天海「『そうですか』しか言えないだろ。そもそも俺、ユリちゃんと付き合ってないし」
ヒカリ「でも、自分のことを好きでいてくれた子が、他の男と付き合いだすのってどうなんです?しかも自分の友人と。やっぱりちょっとシマッタって感じですか?」
天海「別に~ってことでいいか?」
ヒカリ「あ、はい」
天海「ユリちゃんからはなんて言われたの?」
ヒカリ「うーん。要約すると『自分は林さんと付き合いだしたから、気兼ねせずに天海さんと仲良くするように』そんな感じだったかな」
天海「あいつら、かっなりお節介だな」
ヒカリ「ははは、そうですね」

ヒカリ「そうそう、『天海先輩は他の誰かに恋をしている』ってことも聞きましたよ」
天海「ゲッ。個人情報ダダ洩れじゃん」
ヒカリ「本当なんですね。しかもそれがかなりしんどい恋だとか」
天海「アイツ―、そんなことまでしゃべったのか。今度会ったらマジしばいてやる」
ヒカリ「お相手の方、私の知ってる人ですか?」
天海「いいや。バイト先の子」
ヒカリ「もう長いんですか?」
天海「足掛け4年かな。片想いだけどな」
ヒカリ「プッ」
天海「え?俺、なんか変なこと言ったか?」
ヒカリ「すみません。天海先輩が片想いだなんて、なんか可愛くて笑っちゃいます」
天海「馬鹿にしたな」
ヒカリ「してません。私も同じくらい長いこと片想いしてましたから。同類相哀れむっていうか。プププ。かっこよくても片想いとかしちゃうんだー。面白いなぁ」
天海「悪かったな」
ヒカリ「全然悪くありませんよ。失礼しました。もう笑いません。でも、どんな方なのかしら。気になる。教えて下さい」
天海「うーん。ちっこくっておもろい子。俺より30センチくらい背が低くて、髪の毛がフワフワしていて、年下で、AB型で…」
ヒカリ「え?それって私ですか?」
天海「君もAB型?」
ヒカリ「はい」
天海「やば。俺、AB型にやばいんだ。そうか、AB型か」
ヒカリ「そこまで条件が似ていると、かなりお役に立てると思いますよ。プレゼント選ぶ時とか、勝負をかける時とか、相談して下さいよ。『彼女だったらこうじゃないですか?』とかアドバイスできそう」
天海「まじか。その時はよろしく。いや、まじ、君っていい子だね。で、そっちはどんな相手だったの?」
ヒカリ「私より30センチくらい背が高くて、バスケ部のくせに音楽通で、B型で…」
天海「え?それって俺か?」
ヒカリ「天海先輩もB型なんですか?」
天海「ああ」
ヒカリ「やばーい。私、B型に弱いんです」
天海「俺もいいアドバイザーになれそうってことだな」
ヒカリ「いやぁ、残念ながら、こちらは完全に終わっちゃってるんで」
天海「そうなんだ。まぁ、こっちも終わってるといえば終わってるんだけど」
ヒカリ「どんな感じなんですか?」
天海「ちょっと待てよ」

天海、カセットを入れ替え、何曲かスキップをしてからスイッチを押す。サザンオールスターズの『栞のテーマ』が流れる。

♪彼女が髪を指で分けただけ それがシビれるしぐさ…♪

ヒカリ「あ、この歌スキ!」
天海「シーッ。次のフレーズを聴いてほしいんだ」

♪彼氏に何を言われ泣いているのか知らない振りでも…♪

天海「なぁ、いいだろ。彼女とはこういう感じなんだ」
ヒカリ「つまり、好きな子には彼氏がいて、天海先輩は相談に乗ってあげているということかな」
天海「図星」
ヒカリ「切ないですねぇ」
天海「だろー」

ヒカリ「でも大丈夫ですよ。これからは、私というアドバイザーがついていますから。きっと一発逆転ですよ」
天海「頼もしいなぁ。なんだかいい予感がしてきたよ。でもさ、」
ヒカリ「でも?」
天海「俺、ヒカリちゃんとも仲良くするよ」
ヒカリ「はぁ?いい加減ですね~」
天海「やっぱ俺はいい加減か」
ヒカリ「別に責めてませんよ。温泉で『いいお湯加減ですね』って言う時、別にお湯のことを責めていないじゃないですか。むしろ褒め言葉です。私が好きだった人はバッサリ系だったから、パッと見は似てても中身は違うんだなぁ。当たり前か」
天海「そうか。いい加減は褒め言葉か。そして俺は温泉のような男なんだな」
ヒカリ「はい、そうです。いい加減で温泉のような男です」
天海「♪いい加減って言ってくれーよー♪」
ヒカリ「♪もっともっと言ってくれーよー♪(パール兄弟の『バカヤロウは愛の言葉』の節で)」
二人「Ha Ha Ha Ha Ha …」

ラジカセからの音楽はサザンオールスターズの『ラチエン通りのシスター』に変わる。

♪彼氏になりたきゃどう言うの 心からその気持ち つれない文句はもう言うな 思い入れ一つでどうにでもなれる 忘れずにいつかどこかで会える 思い出に優しく酔える あなたからその気にさせる よその誰より…♪

海岸通りを走る車を鳥観図的に追いながらEND。

★★★ ★★★ ★★★
1986年夏の某音楽サークルの5日間に、最後までお付き合い下さりありがとうございました。ちなみに、この作品はノンフィクションではありません。