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振り返ったら、花火が咲いていた/「丸の内魔法少女ミラクリーナ」読了しました

夏ってなんだっけ?と思ってしまう。

今が夏なのは分かる。暑いから。でも暑すぎるでしょ。部活の大会とか、海や山で遊ぶとか、夏ならではの思い出や楽しみすら、熱中症由来の死と隣合わせだ。それくらい暑い。

夏の楽しみがない。それに気がついたのは、普段投稿しているエッセイサイトのテーマ「夏にしたいこと」について、全くアイデアが浮かばなかったのがきっかけ。

山も海も(見るのが)好きだけど、この猛暑の中だと行きたいという気持ちすら湧かないし、そもそも家から出れない。
お祭りやフェスなども増えるが、人混みが大の苦手だし、余計蒸し暑くなるから、行くという選択肢がそもそもない。

幼い頃抱いていた、夏に対するときめきは、気づいたらとっくに枯れていた。朝起きて、日傘を差して出勤、クーラーの効いた職場で黙々とデスクワークをする。夏はその繰り返しだと思うようになった。

ある日の仕事の帰り道。遠くから花火の音が聞こえた。
「そういや、どっかで花火大会あるって言ってたなあ」と他人事のように思いながら、帰路を歩く。

すると、とある一軒家から女の子とそのお母さんが家から出てきた。帰り道の上で、私と反対方向を向いている。

「花火見えるかなー」
女の子の声を聞いて、思わず振り返る。
「こっからちょこっと見えるんですよ」
お母さんが私に教えてくれた。

ここから花火なんか見えるの?そう思い、家へ歩きながら反対方向の空を見た。建物に挟まれた隙間。

その隙間から、ひゅーという音が聞こえ、どんっと大きな花が開いた。

花火だ。
私は立ち止まった。

「ちょこっとだけ見えましたね」
「そうですね、ちょこっとだけ」
お母さんの声に応えた。

打ち上げ花火っていつぶりだろう。こんなに感動したっけ。かつて間近で見ていた地元の花火大会のものよりも、綺麗に感じた。

2、3輪の花火を見て、私は家路へ戻った。それでも、音が聞こえると、後ろを振り返ってしまう。

…夏だなぁ。やっと、今が夏だと分かった。
でも、もうすぐお盆があり、暦はもう秋に向かっている。
まだ、夏を感じたい。そのために、これからどうしようか。


最近読んだ本を紹介します。ネタバレしないよう努めます。

「丸の内魔法少女ミラクリーナ」村田沙耶香

36歳のOL・茅ヶ崎リナは、オフィスで降りかかってくる無理難題も、何のその。魔法のコンパクトで「魔法少女ミラクリーナ」に“変身”し、日々を乗り切っている。だがひょんなことから、親友の恋人であるモラハラ男と魔法少女ごっこをするはめになり…ポップな出だしが一転、強烈な皮肉とパンチの効いた結末を迎える表題作ほか、初恋を忘れられない大学生が、初恋の相手を期間限定で監禁する「秘密の花園」など、さまざまな“世界”との向き合い方を描く、衝撃の4篇。

KADOKAWA HPより

各篇ごとに、サクッと感想を。

【丸の内魔法少女ミラクリーナ】
小学生時代の魔法少女ごっこを今でも続けている36歳女性リナ。ポップなタイトル、魔法少女の設定もポップ。
他にも魔法少女?が出てくるのだけど、この人を見ていると「正義ってなんだろう?」と考える。正義を履き違えると、悪役になってしまう(正義を振り回した悪役が1番厄介)。
そして、魔法少女への変身は一種の処世術だと思った。世の中の理不尽やモヤモヤと戦う魔法少女になれば、ちょっとはストレスも軽くなるかもしれない。

【秘密の花園】
私的に表題作をスッキリと読了し、その気持ちのままこの作品を読んだけど、後悔した。ぬめっとした読後感。
過去に好きだった男子への執着が描かれている作品。監禁をはじめ、彼に対する主人公の少女の行為は理解する前に、発想がなかった。でも、彼女の心に秘めている「依存を断ち切りたい」という願望については、ひしひしと共感した(私も昔好きだった男の子を引きずっていた時期があったから…)。でも監禁はないだろ。
この本で村田沙耶香先生作品デビューだったのだけど、ミラクリーナがマイルドで油断してた。これが村田ワールドか。

【無性教室】
性別が禁止された学校に通う生徒たちの恋愛や性の悩みが生々しく描かれた作品。登場する高校生たちは、思春期で抱えるであろう悩みを、性別が制約された中で等身大に向き合っている。
「好きってなんだろう」「自分の性はなんだろう」「自分っておかしいんじゃないか」
彼らなりの答えを証明するための行為が、正直私にとっては過激すぎた。でも、目を背けてはいけないと思った。

【変容】
「怒り」を持たない人が増えた世の中に違和感を覚える主人公。これはおかしい!と、かつて彼女が怒りを抱いていた女性と手をとり、怒りを取り戻そうとする。…と思ったが、まさかの結末に口が空いたままだった。自分は絶対変わらないと思っていても、環境に染まってしまうと結局変わってしまう。世の中の当たり前って、社会に汚染された結果なのかもしれない。

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