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昭和大学リカレントカレッジ リポート  ひとの健康や幸福を優先する考え方を育てる医療・社会をめざすには

この記事は、2023年10月から2024年2月まで昭和大学リカレントカレッジで開講した講座「CancerX」の受講生の皆さんの、最終リポートをご紹介します。


ひとの健康や幸福を優先する考え方を育てる医療・社会をめざすには

                             石川真美

がんになったとき、何に対してどのように対応すればいいか。どのような課題があるのか。
がんの告知をされ、五里霧中でどのような問題点があるのかも分からないまま、不安になることが多いのではないだろうか。
今回のCancerXのグループ内では、がんに関わっている年数が最も短いメンバーではあるが、だからこそ、今回のCancerXの講座で課題に思ったことを3点挙げていく。


医療従事者と患者・ケアギバーの医療知識の差

【課題】
がんに関わる医療従事者(以下医療従事者)は豊富な知識を持っている一方で、がん患者やケアギバーはその知識にアクセスしにくく、情報格差が生じていると感じる。

実際、私の祖父ががんに罹ったが、高齢者の祖父にとってはがんは脅威であるため、手術をするより、経過観察のままが良いと家族が話しても、手術をしたいと頑なな時期があった。
これらのことから、患者やケアギバーは不利な立場に置かれることがあると感じる。

【解決策】
医療知識に関する差の解決策案について下記2点が挙げられる。
1. 教育・情報提供
2. コミュニケーションを強化

まず1つ目に教育・情報提供が挙げられる。
医療情報を理解しやすい形で提供する取り組みを強化することが重要だと考える。

例えば、患者教育プログラムや、手軽に閲覧できるwebマガジンやwebメディア、 テンポよく疑問や課題について回答するYouTube作成、ショート動画の作成、など、医療情報へのアクセス向上を図ることが重要だと思う。

解決策案の2つ目に、コミュニケーションを強化することが挙げられる。
医療従事者と患者・ケアギバーとの間でのコミュニケーションを促進するため、質問や不安に対するサポートをする場を提供することが重要だと考える。またそのための定期的なディスカッションの場や、公式LINEやホームページでの相談などを設置するとよいのではと考察する。

がん患者の周りの人からの目

【課題】
がん患者やその周囲の人々は、社会的な見方や対応が変化することにより、心や体もつらいのに分かってもらえないなど適切なサポートを受けられない場合がある。

【解決策】
がん患者の周りの人の目に対しての解決策として下記2点が挙げられる。
1. 教育
2.がんにはなっていない人もサポートグループに参加すること

まず解決策案の1つ目に教育が挙げられる。
社会におけるがんに対する誤解や偏見を減らすための教育を展開する。メディア、SNS、動画、学校などで医療従事者や、がん患者、ケアギバーが啓発活動を行うこと。

解決策案2つ目に、がんにはなっていない人もサポートグループに参加することが挙げられる。
がん患者やケアギバー向けのグループや、がん患者やケアギバー、がんではない方が共に過ごす場所を提供し、情報交換や精神的な支援を行う場を提供することが必要だと考える。

適切なサポートが受けられないことや、偏見の目に晒されてしまう理由の一つに、病気についての無知が挙げられるだろう。
上記2つはそれに対しての解決策案でもある。

がんではない周囲の人や、ケアギバーは私自身も含め、自分が知っている範囲内のことで知っているつもりになったり、都合のいい情報を集め、知った気になってしまうことが多いと感じる。
がん当事者について告知され、どのような感情を持っているのか、今、そして今後どのようにしたいと考えているのか想像力を働かせること、そして知識をつけても学び続ける姿勢を保つことが求められると考える。

健康なときとの働き方の差

【課題】
がん患者やケアギバーは、病気によって通常の生活や仕事に戻ることが難しく、現在の効率化社会での働き方に適応しにくい。原因を2つ述べる。

【原因】
原因として下記2点が挙げられる。
1. 効率重視の社会であること
2. 働き方のスティグマがあること

原因の1つ目として効率重視の社会であることが挙げられる。
多くの社会では、業績や成果を重視し、効率性を求める文化が根付いている。このような文化の中では、病気や健康問題を抱える人が同じペースで仕事をこなせないことが効率性や生産性に影響し、これまでとは同じように働けないことを理由に、職を辞することを余儀なくされることがある。

2つ目に働き方のスティグマがあることが挙げられる。
一部の社会では、病気や健康問題を抱えることが、能力や意欲の欠如と結びつけられることがあると考える。
このため、病気を理由に仕事に全力を注げないことが、効率や責任感の欠如とみなされ、非難や批判を招くことがある。例えば、助けを借りることでがん罹患前とは違い、意欲不足と捉えられてしまうこともあるのではないか。

【解決策】
解決策として下記3つの案がある。
1.教育と啓発活動
2.柔軟な働き方の促進
3.健康を尊重する社会の形成

1つ目に教育と啓発活動である。
がん患者の周りの人からの目でも述べたが、がんや健康問題に対する知識、理解を深めるために、啓発キャンペーンや教育プログラムを展開することが必要だと考察する。健康問題が仕事効率に与える影響や、それを補うための柔軟性を理解するための取り組みを行うことで、がん患者の突然の体調不良に対しても、臨機応変で適切な対応や、リカバリーができるのではないだろうか。

2つ目に柔軟な働き方の促進が挙げられる。
社会全体で、リモートワークや柔軟な労働環境を推進し、病気や健康問題を抱える人々が働きやすい環境を整えることで、がん患者の心理的身体的負担を軽減することもできると考える。

3つ目に健康を尊重する社会の形成が挙げられる。
健康問題を抱える人々のニーズや制約を尊重する社会を築くために、企業や社会全体、個々人がその重要性を認識し、支援する仕組みを整えることが必要だと考察する。
他企業との競争、企業やチームでの目標達成よりも、ひとりひとりの健康について想像し配慮することができるようになるためには、今までのやり方では通用しないだろう。

教育と啓発活動と、柔軟な働き方改革に加え、
・その柔軟な働き方に適切なテクノロジーの導入
・多様な働き方や日々変化する個人の健康を肯定的に受け容れるリーダーシップスタイルの変革
なども重視してはどうだろうか。
ひとの健康や幸福を優先する考え方を育成することは、社会全体ががん患者や、その他の病気の患者にもやさしくなるための大きな1歩であると考える。

少し話が横道にずれるが、これまで挙げた3つの課題である【医療従事者と患者・ケアギバーの医療知識の差】、【がん患者の周りの人からの目】、【健康なときとの働き方の差】は、これまで親と自分自身が精神疾患にかかり感じたことでもある。がんに関わるこれらの課題を解決していくことで、他の病気にかかっているひとや、その家族の多くも救われることが多いだろうと感じた。


今回のCancerXのグループ内ではがんと関わっている年数が最も短いメンバーではあったため、知識も少なく発言する度に緊張していたが、立場に関係なく対等であり、肯定的な空間だった。
非常に居心地がよく、かつ楽しく、かつ真剣に、がんやコレクティブインパクトなど、がんに関わる知識について学ぶことができた。

がんに関わるプロフェッショナルな方々と対話することが出来て貴重な体験ができ、今後、もし自分や身近なひとががんになっても、学ぶ前とは違う対応ができるようになったのではないかと思う。

今回の講座をきっかけに、様々な立場のひとが協力し合い、取りこぼされてもサポートすることができる体制とともに、ひとの健康や幸福を優先する世界に1歩近づくことができたらと思う。



オンラインで発表する石川さん

昭和大学リカレントカレッジ
CancerX(オンライン講座) ~がんと言われても動揺しない社会へ~

2022年秋より昭和大学にて開講している社会人のための講座です

講座内容
毎年新たに100万人が、がんになる時代。その数は、生まれてくる子どもより多い。「がん」経験者、がん患者の家族や友人、職場の同僚。立場は違えども、すべての人が、「がん」の当事者と言えるでしょう。
本講座では、Collaborate/Change/Cross Out(かけあわせる/かえられる/かこにする)を軸に、情報や経験を共有し、アイデアをぶつけ合い、イノベーションの糧にするとともに、がんと言われても動揺しない、より良い社会をめざすための基本的なスキルを提供し、新しい社会活動の糧にしていきます。

リポート監修
CancerX 糟谷明範、鈴木美慧、鎌田真寿

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