誘う香り
『待って待って! 何? この香り!!』
高校生の頃に通っていた、今は閉店してしまった美容室でのこと。
3店舗あったその美容室の本店で、当時カットを担当してくれていた美容師さんが付けていた、不思議な香りの香水(コロン? オードトワレ?)。
カットの最中、時々フワッと漂ってくるその香りは、捕まえようとして追いかけると、指のすき間から逃げていくような、捉えどころのない香り。
『待って待って!』と思わず追いかけたくなる、怪しく誘惑するような、甘美な香り。
コロンやオードトワレを購入前、いつも数種類の香りを試してみるが、あの不思議な香りにいまだに出会えない。
あるいは出会ったかも知れないが、気付かなかっただけなのか?
写真のように、形として残すことの出来ない、あいまいな記憶の中にだけ存在する香り。
顔も名前も朧気だが、カットが上手だったその美容師さんは、ある日お店を訪ねたら、いつの間にか辞めていた。
あの不思議な香りだけを、私の記憶に残して…
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