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『裸のマハ』から『着衣のマハ』へ

『自分の意見は何もないのかな?』と不思議に思ってしまう人に時々出会う。誰かが敷いたレールの上を、ただ黙って辿って行くだけの人。

今年9月に逝去された、さいとう・たかを先生の代表作『ゴルゴ13』。

私が知っている作品の中で、特に印象に残っているうちの1作品が『血まみれのマハ』。

2人で1人の女殺し屋マハを演じている双子の姉妹が主人公。

スペインのプラド美術館にあるゴヤの名画で、同じポーズをした『着衣のマハ』と『裸のマハ』。

実物を見たことはないが、ヘッダー画像のような絵らしい。

作品では、プライドを着飾った姉を『着衣のマハ』に、姉の操り人形にされている妹を『裸のマハ』に重ねている。

荒れた家庭で育ち、6歳で孤児となった2人は、頼れる親戚もなく、生きるためにやむなく強盗や娼婦、挙句の果てに殺人まで犯すようになっていく。

そんな生活の中で、いつしか姉は支配する側の、妹は支配される側の人間になっていく。

人に依存しなければ何も出来ない妹。それが彼女にとっては普通であり、それ以外の生き方を知らない。

命を危険に晒す役や、汚れ役ばかり押し付けてくる姉に、内心では抵抗し、時には意見しながらも、結局は自分を抑え込み、姉に従ってしまう。そんな自分に嫌気がさし、姉と離れてみても、やはり他の誰かに依存してしまう妹。

苦労して稼いだお金を取り上げられ、暴力を振るわれても抵抗しない。今の辛い状況から抜け出したいと思っているのに、自分で考える習慣を奪われてきたため、どうしたら良いか分からない。

明らかに異常な環境にいるのに、何の行動も起こさない妹の弱さに、読んでいてはがゆさを感じる。

これが人間の性かと思うとやるせない。子どもの頃に身に着けた生き方を変えるのは、並大抵のことではない。

仕事で出会ったデューク・東郷に惹かれた妹が、その弱さを自分の中から追い出し『裸のマハ』から『着衣のマハ』へと変貌を遂げる幸せな結末が用意されているよう祈りを込めて最後まで読んだが…

多くの名作を送り出して下さったことに感謝しつつ、ご冥福をお祈りいたします。


着衣のマハ②

裸のマハ


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