一期一会の会話にて
「私、山形からサ、出たことないです。」
数年前、山形県のとある温泉宿に泊まった際、夕食の給仕をしてくれた女性が言った。
『日本から出たことない』という人なら出会うことがあるが、山形から出たことがないという人には初めて出会った。
高校卒業後、そこの温泉宿でずっと働いていると仰っていた。
かつては生まれた土地で一生を終える人も大勢いた。
家業を手伝いながら、同じ土地の誰かと結ばれ、家庭を築き、やがてその土地で生涯を終える。
外の世界は夢見るだけ。
それが当たり前で、そんな生き方に何の疑問も持たなかった私の曾祖父母の世代。
翌日の朝食の給仕は別の人だったので、その女性とはそれっきりだったが、あの時の会話は今でも印象に残っている。
修学旅行に行くチャンスもなかったのかも知れない。
耳に心地よく、とても温かく感じた彼女の山形弁。
その時の夕食で初めて口にした『のどぐろ』は美味だった。
すべて地元で採れた食材で作られたという夕食には、一期一会の旅行客への心がこめられていた。
旅行は好きだが、実際に行く回数が少ないせいか、鮮明に残っている旅先での思い出。
どこか懐かしさを感じさせてくれたあの女性は、今どうしているだろう?
まだあの温泉宿で働いているだろうか?
私が訪れたのは確か11月。
本格的な冬を前に、厳しかった東北の風。
今度は夏に、もう一度、あの宿を訪れてみようか…同じ宿が、どんな違う顔を見せてくれるかを楽しみに…
以前書いた記事です↓
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