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道案内②

異国の地で道に迷うのは、中々の冒険です。まして言葉が分からなかったら、パニックになってしまう事もしばしばでは?

ある年の初夏の事です。当時、新宿勤務だった私は、お昼休みに信号待ちをしていました。そこで声をかけられたのです。「Do you know where Shinjyukugyoen is ?」 見上げると、スラっと背の高い、若くて可愛らしい外国人の女子がニコニコしていました。かつて、ロシアのプロテニス選手だったアンナ・クルニコワの10代の頃に似ているような気がしました。

いつもは外国人に話しかけられると、緊張して固まってしまう事が多いのですが、その日はあまりに暑かったせいか、まるで緊張しませんでした。ただ、咄嗟に新宿御苑の場所が分からず、ボケっとしていると、彼女は近くのお店に入って行きました。

『確かこの近くだった。』と場所を確認した後、彼女が入って行ったお店に行くと、まだいました。「新宿御苑、場所分かったよ!」と下手な英語で声をかけました。彼女は若干緊張しているようでしたが、先ほど自分が声をかけた人物であるという認識はあったようです。私は「すぐ近く」と新宿御苑の入り口が遠くに見える所まで案内し、指を指しました。「Thank you」と言うと、彼女はニコニコして去って行きました。少しは緊張も解けたでしょうか?

ロンドンからやって来たと言っていたので「私も一度行った事あるよ。」と答えると、嬉しそうにしていました。その時、彼女は1人でした。異国の地で、1人で歩くのは緊張するだろうなと思いつつ、私も1人でハロッズに行った事を思い出しました。帰りに宿泊しているホテルの場所が分からなくなって、親切なイギリス人の中年女性が教えてくれました。

イギリスのバース(Bath)という街で信号待ちをしていた時、車に混ざって馬車が並んでいた光景は、今でも鮮明に憶えています。日本では見た事のない景色なので『優雅だなあ。』と見入ってしまいました。カメラは苦手な私ですが、その時ばかりはカメラに収めたいと思った光景です。あの時も夏でした。そして、アンナ・クルニコワが活躍していたのも、ちょうどその頃だったと思います。

因みにアンナ・クルニコワさんは、いつの間にか3人の子供のお母さんになっていました。私が道案内した“アンナさん”は無事に新宿御苑に行ったでしょうか? 彼女は全く日本語を話さなかったので、留学ではなく、観光で日本に来ていたのかも知れません。日本での滞在が、良い思い出となる楽しいものであった事を祈ります。

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