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短編小説

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無料でお読みいただける短編小説集です。ジャンルは雑多。気ままに書き殴ったものもあり。一人称も三人称もなんでもござれ。途中で急遽途切れるものもあり。少しでもお暇つぶしになりますよう…
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2022年11月の記事一覧

短編小説 「ヨーグレイヒア」 1

 過ぎた世界の片隅で、ヨーグレイヒアは空を見つめていた。  母親はユグドラシル、父親はアクシャヤヴァタの細分化されたコミュニティの、固定化された住人だった。  祝福の日と呼ばれる全ステイトの集会で、天文学者と数学者である二人は運命的な出会いを果たしたようだ。ネットワーク・ステイト間のインヒビションを乗り越えて、心が結ばれた二人は互いの遺伝子を出し合った。  一年後の同じ祝福の日に、ユグドラシル側の受胎機関で、ヨーグレイヒアは命を授かった。掛け合わされた結果としての性別は女児

短編小説 「ヨーグレイヒア」 2

「我々はあなた、ヨーグレイヒアを歓迎します。少し、君のことを聞かせて欲しいな。そう、たとえば好きな食べ物や、どんなコミュニティに興味があるのかを」 「は……はい。わ、私の話でよければ、ぜひ」 「うん、緊張しているね。でも大丈夫。オゥシィァンに選ばれた子たちは毎年きみとおんなじさ。話しているうちに緊張もほぐれてくるよ。それに君にとって素晴らしい未来が待っている。興味があるコミュニティがあれば僕たちはそこに向かう手助けをしてあげられるし、ここに座って少しだけ僕らの質問に答えてくれ

短編小説 「ヨーグレイヒア」 3

 耳触りの良い調和音がする。ヨーグレイヒアが設定している着信音だ。世界に重ねて広がったオープンディスプレイの中で、彼からの返信が届いたことを知らせるアイコンが輝いた。広げてみれば彼女へ向けて丁寧な文字が並べてある。曰く、こんなところまで来てくれて本当に嬉しい、と。ただ今日は都合が悪くて、会うことは難しい、と。  自分の良くない方への変化を旧友に見られることを、ひどく恐れている人間のお手本のような文章だった。その場で瞬いた彼女は遠慮をしてあげる気が無くなった。力強く立った足で、

短編小説 「ヨーグレイヒア」 4

 ウーシャンはそれから何度も彼女にメールを送ろうとした。  寄付だとしてもこれだけのトークンを貰う謂れはない訳で、でも役立てて欲しいらしいし、自分に才能があると言われると、そうなのだろうか……そうなのだろうか? もう一度……もう一度……? と戸惑いが回って分からなくなる。  それに彼女は、自分にはこのトークンを生かす才能がない、という。  そうだろうな、とトークンの扱いに慣れている彼は素直に思う。  だって笑ってしまうくらい彼女は計算ができないのだ。  ヨーグレイヒアが彼に贈