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【句集紹介】上田五千石句集を読んで

・紹介

病気や自身へのコンプレックス等、自らに否定的、絶望的になっているとき、人は宗教や詩歌に救いを求める。上智大学入学後、死を思うほどの重度の神経症を患った上田五千石は、俳句によって救われた。絶望の淵にいた五千石の前に伝説的な俳人、秋元不死男が現れたのである。この運命的な出会い以降、不死男に心酔した五千石は俳句に情熱を傾けるようになっていった。そして気が付けば、神経症は嘘のようになくなっていたという。

五千石が俳句界に残した業績は、草田男等現代俳句系の人間探求的な観念的な句と、誓子・青畝等の伝統的系の写生的な実際的な句とを、合一し昇華させた作風を生み出したことである。五千石の句のモットーは「眼前直覚」と「情と俳諧性」。眼前直角とは、目の前にある事物を感覚的にとらえ、さらに、その事物の奥の理まで感じようとする観察的な態度。情と俳諧性は、人情味であり、悲哀であり、そして、悲哀を打倒せんとする強さのことである。極度の神経症を克服したことが背景にあるのか、五千石の句には、面白さとひたすら前に進もうとする力強さを感じる。

五千石の句は、小生の詠みたい句の感覚に一番近い。ある種理想形である。故に、彼の句から10句厳選することは並大抵のことではなかった。血を最後の一滴まで絞り出すような、選の故の10句である。是非楽しんでいただきたい。また興味の出た方は是非一度ご一読ください。

注、Amazonのリンクを貼って、値段に目を疑った。壊れているのかと思ったがそうではなかった。吃驚した。いつの間にか高騰していた。驚きである。

・厳選10句

莨火の貸借一つ枯峠

万緑や死は一弾を以て足る

冬銀河青春容赦なく流れ

涙痕を伝ひて崖の滴るや

極寒のオリオン誰の首枷ぞ

秋の雲立志伝みな家を捨つ

前世をさくらと思ふ身のさぶさ

これ以上澄みなば水の傷つかむ

山開吾等の上に誰もゐず

磯焚火育てて捨ててかへりみず

・作者略歴

上田五千石。1933年東京都渋谷区の生まれ。裕福な幼少期を過ごし、戦禍のため長野に疎開。疎開中空襲で生家を失い、静岡県に引っ越す。高校在学中「青嵐渡るや加島五千石」という、句を作る。この句が校内で評判となり、本人の気に入るところとなり、後の俳号となる。上智大学文学部卒業。秋元不死男に師事。昭和生まれ第一世代として昭和期の俳壇をけん引した。句集『田園』により第8回俳人協会賞を受賞。1997年永眠。享年63。

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