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【句集紹介】池畔 草間時彦句集を読んで

・紹介

噛めば噛むほどおいしい句。

草間時彦の句は「美味しい日常」なのである。

時彦の句には、久保田万太郎のような俗っぽさと軽さがある。故に気負うことなく平易に読むことができる。しかし、その洒脱した雰囲気の中に、仄かに死への想いが匂ってくる。若くして結核を患ったこと等、時彦の近くにはいつも死が顔をのぞかせていたのだろう。だから、それらの句は、シンプルな素材を使いながらも、微妙に味の奥行きを生み出す。噛めば噛むほど旨味が出る、そんな句なのである。

小生短歌にはあまり詳しくはないが、山崎方代を彷彿させる書きっぷりであると思った。

兎にも角にも、小生の厳選句を楽しんでいただきたい。本句集の帯にもあるが、主宰誌を持たず、生涯を一市井の俳人として徹した男の俳句への気概と、変幻自在の人の好い仙人の如く、軽く飄々とした句を楽しんでいただけたらと思う。そして興味のある方は是非ご一読していただきたい。

・厳選10句

秋鯖や上司罵るために酔ふ

日だまりは婆が占めをり大根焚

恋せむには疲れてゐたり夕蜩

菜飯食ひ少しふとりしかと思ふ

オムレツが上手に焼けて落葉かな

むかしあるところに春の狐かな

白妙の湯気の釜揚うどんかな

少し派手いやこのくらゐ初浴衣

香典を少しけちして蜆汁

ふりかへりだあれもゐない秋の暮

・作者略歴

東京府に生まれ、神奈川県鎌倉で育つ。結核のため20歳で学業を断念、旧制武蔵高等学校中退。逗子にて療養し文学に熱中。1949年、水原秋桜子に師事して俳句を始める。同年結婚。1953年、秋桜子の「馬酔木」を退会、55年、復刊した「鶴」に入会し石田波郷に師事。1955年、第2回鶴賞受賞。俳句のほか随筆、評論でも健筆をふるう。句集『瀧の音』により第37回蛇笏賞受賞。2003年5月26日、腎不全により鎌倉の病院にて死去。

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