【句集紹介】信長の首 角川春樹句集を読んで
・紹介
角川春樹。角川文庫創業者(角川源義、彼も著名な俳人である)の息子であり、社長も務めた人物であるが、世間は、テレビ等のメディアで見せた角川春樹の奇天烈なキャラクターや、逮捕歴等を記憶に留めており、彼にあまりいい印象を持たない人も多い。
しかるに、小生もその一派であったが、俳句を始め、角川春樹と中上健次の対話集「俳句の時代」を読んで、その考えはがらりと変わった。詳しくは是非読んでいただきたいが、小生が読了後に感じた、角川春樹への感想は「彼は信長のようだ」というものであった。彼の中には確固たる信念や、理論が構築されている。しかし、今のイデオロギーでは到底理解できない。故に排斥される。疎んじられる。だが彼は耐える。信念を貫く。山本健吉や森澄雄はその精神の高貴さに気が付いたから、彼のことを気にかけ、後ろ盾であり続けたのであろう。今では小生も彼のことを尊敬し、句集等を愛読している。
角川春樹の作風は、日本古来の精神性や思想を、復元することにある。万葉の時代。火の神聖さ。昏き地中の何か等。日本古来の伝統性に重きを置いている。そして目の覚めるような、発想によって、読み手の創造や価値観をぶち壊すような強烈さを持ち合わせている。
紹介する「信長の首」は角川春樹の第2句集。タイトルがすでに強烈である。例によってここから10句厳選した。是非楽しんでいただきたい。
・厳選10句
即神仏の眠るに似たり窯の炭
捨て蚕炉端の民話紡ぎだす
石鏃の尖先ひかり雪解川
流氷の去りて一基の墓残る
朧月降り能面の磨崖仏
夕櫻もつとも近き死化粧
柏手の中に海ある神楽舞
向日葵や信長の首斬り落とす
越後いま鬼の跫音の榾明り
栗の花日本武尊の目覚めけり
・作者略歴
角川春樹。1942年富山市生。結婚6度・離婚5度・逮捕歴あり等、破天荒な人生を送っているが、実業家として、映画監督として、プロデューサーとして、俳人として、確かな足跡を残している。「河」主宰。現在は従来の俳句や既成俳壇から訣別するとして「魂の一行詩」を標榜し、活動を行っている。俳人協会新人賞等受賞歴多数。