見出し画像

上村松園展・静かなる美の薫香

お久しぶりです。曜です!
京都に滞在する期間がありましたので、京セラ美術館で行われている「上村松園展」へ行ってきました。

京セラ外観

いつ見ても美しい外観…!

建物は公立美術館として日本で現存する最も古い建物で、再整備が入り「京都市京セラ美術館」という名称でオープンしてから約一年。
その開館一周年記念展としてこの展覧会は開かれているとのこと。
美術館の名称は京セラと50年間のネーミングライツ契約をとっているそうです。
50年後にはまたどんな名前になるのかしら。

PM4:00

中に入ってみると密ではないが人はそこそこいた印象。
併設のカフェが空いていたら先に入ってしまおうかと思っていましたが、そこだけは混んでいて8人ぐらい待っていたので、大人しく絵を見てから伺おうとチケットを購入。
京セラのチケットは紙ペラではなく、つるっとしたカード素材でバーコードで入場するため、少し近未来館があるのが入場もわくわくして好きです。

天井

メインロビーも細部まで洗練されていて毎度惚れ惚れしてしまう

中へ進むと螺旋階段のところで若い人たちが写真を撮っていて、今日はつい一人だから強がって大人な温かい目で見てしまいました。
(前に友人と来たときはうれしくて2人で何度もいろんな角度で映えを目指しました)

集中して今日は絵を見るぞと決めていたので、予めトートバックは奥のコインロッカーに入れ、スマホと財布だけをななめがけのミニバックに入れて出陣。

ポスター

出迎えてくれる「序の舞」のポスター

展示室の中は広い1フロアに5~6人しかおらず、さっきロビーにいた人たちはどこから来たのだろうと思いましたが、すぐに同時期にやっている「ドラえもん展」のお客さんだと察しました。
そのため休日に行きましたが、ゆっくりと、松園の絵を眺められることができました。
ソーシャルディスタンスも保たれ、絶好の鑑賞日和です。

展示は年次で進められており
・修行(1887‐1902)
・出発(1903‐1912)
・模索(1913‐1926)
・確立(1927‐1938)
・円熟(1939‐1949)

の5つのカテゴリーでまとめられていました。

松園の絵はいくつか好きで知っていましたが、彼女自身のことは知らなかったので、生い立ちや心情での変遷が見られてとてもよかったです。
そういう作者のバックグランドみたいなものが気になる人はもちろん、ほとんど松園のことを知らない方でも十分楽しめると思いました。
ここからはいくつか展示の中で私が気になった作品を挙げていきます。

四季美人図

『四季美人図』

第三回内国勧業博覧会に初めて出品したデビュー作がまずはお出迎えしてくれました。
女の一生を四季になぞらえた4人の女性で表現した新しく、美しさが凝縮された作品。
こちらは博覧会にて一等褒状を受け、英国殿下に買い上げられたという実績もすばらしいものですが、驚いたのはこれが15歳の作品ということ。
10代の松園が何度も繰り返し取り組んだ画題であるというが、この時点で既に巧者な絵師の風格がありますね。
四季の細やかな色使いが美麗で、一瞬で時を過ごしてしまうような、玉手箱のような怖さもあると思っています。


人生の花

『人生の花』

そのあとに私がお目当てにしていた『人生の花』を見ることができました。
これからへの不安や嬉しさに穏やかにうつむく花嫁と、それを送り出す毅然としつつも複雑な心境の母親の繊細な心情がこの1枚で表現されており、まさに『人生の花』というタイトルが静止画に花吹雪を散らせます。
これだけでも見れて本当によかったと思い、しばらく見惚れるとともに、自分も絵の中の親戚になったようでなんだか泣けてくる気もしました。


焔

『焔』

上村松園展は前期と後期で少し展示内容も変わるようですが、これを目当てに前期に来る方も多いそう。
これまでと打って変わっておどろおどろしい雰囲気ですが、こちらは謡曲「葵の上」に想を得て源氏物語に登場する六条御息所の生霊を描いたものです。
光源氏を慕うあまり、六条御息所は正妻・葵の上を呪い殺してしまうのですが、そのときの嫉妬の焔に苛まれる彼女の様子が、髪の端を噛む青い顔や、藤の花に絡む蜘蛛の巣が描かれた着物で的確に表現されていると感じています。
それほどに恐れながらも、彼女へ同情してしまうような寂しさを孕んでいるとも思います。
それまで美人画を描いていた松園がどうにも切り抜けられないスランプの苦しみをこの画材に込めたとのことですが、これによりさらに画家としての評価は高まっていったようです。
私も美人画が飾られれる展示室の中で、凄まじくオーラを放つ『焔』が変わらず女性美を描いており、目が釘付けになるというのは比喩ではないと感じました。

かんざし

『かんざし』

展示の中で一番直観的に惹かれたのはこちらでした。
そしてグッズを選んでいるときに気づいたのですが、青地に赤の帯の主題が私は感覚的に好みのようです(笑)
その中でも特にこのかんざしを眺めている女性の華やかでありながら、どことなく物悲しさを含んでいるこの作品が記憶に残りました。
この胸部までの構図は後年によく出されたものだそうですが、そのおかけでよりシンプルさが際立ち女性自身の美しさが増しているようにも感じます。
そして着物から飾りまでの細やかな書き分けは、みなさん評されていますが改めて感銘を受けます。
かんざしを通じて誰かに思いをはせているような、そんな健気さや純粋さがどこまでも彼女を知りたくなる思いを掻き立てます。

ポストカード

『かんざし』はポストカードまで買ってしまいました

素敵すぎるが故に家で飾ろうか、誰かに手紙を書こうか迷い中です。

PM5:00

展示をぐるりと見終わって最後に、松園本人の写真がありました。
自分の扇子をもつ手を描きなおしたり、着物の細部までを観察したりする姿が残されており、そのどれもが絵に対するこだわりを物語っていました。
だからこそ松園の絵は布地のたゆみひとつとっても美しいのだと納得しました。

「女性は美しければよい、という気持ちで描いたことは一度もない、一点の卑俗なところもなく、清澄な感じのする香高い珠玉のような絵こそ私の念願とするところのものである」

これは松園の言葉だが、まさに流れるような筆致でありながら細やかな描写が玉ひとつひとつを際立たせるような彼女の作品を体現しているように思う。
庭園に香る草木の全ての輪郭を愛でるような、そんな濃密な時間を過ごせました。

PM5:15

最後に特設のグッズコーナーがあり、かなり迷いましたが先ほど載せたポストカードと公式図録を購入。
優雅な在宅自粛のお供にしたいと思います。

本

著名な日本画家の方の寄稿などもありさらに松園を楽しめそう


PM5:30

この時間になるともうカフェも空いていたので、お隣の「ENFUSE」さんにお邪魔しました。

カフェ

カーブが美しい設計

ここでのんびり図録を読みながら、展示の余韻に浸りつくしました。

ケーキ

注文はいじちくのタルトとハーブティーのケーキセット(1200円)

お昼を食べずに来たので、豪華なプリンアラモードでも食べてしまおうかと思っていたのですがなくなってしまったようで、しっぽり無難なタルトとハーブティーの組み合わせを選びました。
いちじくの甘さがちょうどよくて、絵画の余韻をうまく昇華してくれました。


なかなか日本美術はとっつきにくいイメージがあると思いますが、普段見ない方でも松園の描く女性美は誰しも思わず振り返ってしまう圧倒的な上品さがあると思います。
着物の色の組み合わせを見るだけでもとにかく楽しめます。
なかなか外出しづらい情勢ですが、たまの息抜きに、上村松園展を見に行かれるのはいかがでしょうか。
在宅勤務が続きメイクも最低限にしかしていなかった自分も、絵を見たあとは背筋に一本棒が立つような、そんな気持ちになれました。

奥でやっていたドラえもん展も盛況のようで、私も少し混ざりたくて写真を撮ってしまいました。

ドラえもん

これは何のヒミツ道具だっけ…?

休日に美術館に行けるのが楽しみになって、ちょっと自分も大人になったなあと思いました。
今年で25歳。美術も含めてもっともっと吸収して、なりたい私になれたらいいな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?